おかげさまで社会復帰活動の最初の一歩「Shiawase2.0シンポジウム」での研究発表無事行なうことができました。
同時刻の隣の部屋での発表者が同じ大学院仲間のエド・はるみさんだったので(やはり大盛況!!)、こっちには誰もこないんじゃないかと半ば期待していたんですが(笑)、ぼちぼち聞きに来てくださる方がいらっしゃって、リラックスして研究発表ができました。

発表趣旨は以下のような形です。

『ホラクラシー経営のための経営管理フレームワークの提案

「ホラクラシー経営」が注目を集めているが、我が国で小~中規模な IT 系企業以外での導入(成功)事例は訊かない。ホラクラシー経営を導入した Zappos を取材した結果、「自己組織化」と「理念」が鍵であることが判った。多くの企業や組織でも「理念」「ミッション」を導入しているが、必ずしも効果を上げてないのが現実である。Zappos では成員を理念に従わせるのではなく、成員個人を主体として個人の自己実現の方向と組織全体のそれと一致させ、自己組織化が促進する機能として「企業理念」を捉えている。本研究では成員の自己実現を後押しするための理念経営を実現し、自律的組織を構築することを目的とする経営管理フレームワークを提案する。また、数千もの人が自律的に動き成果を上げた日本で最大の「ホラクラシー組織」ともいうべき「ふんばろう東日本支援プロジェクト」に関わった経験から、西條氏の唱える「構造構成主義」との関連についても述べる。』

発表のことより、驚いたのは、WEBで公開されたこのプログラムを見た友人から、「自己組織化について教えてほしい」という連絡が来たこと。(たしかにホラクラシーの成功には自己組織化が鍵と自分で書いているんですが)

「自己組織化」という言葉自体は「自然が自律的に秩序を持つ構造を作り出す現象」のことで、「複雑系」が知られるようになって以来ポピュラーになった言葉ではあります。

例えば、アリが現場監督もいない中、見事な地下建築物(巣)を創ったり、実はリーダーもいないのに渡り鳥の群れがきれいな孤を描いて海をわたるのは自己組織化です。人間の世界で言えば、集落を創ったり「都市化」も自己組織化の一つの形ですね。あとブームが起こったり「流行」と言われる現象も自己組織化現象で説明ができます。

ZapposのWEBページには、「This is Zappos Self-organization」(Zapposは自己組織化をめざします) とはっきり書かれていて、
『調査によると、都市の規模が2倍になるごとに、居住者1人当たりのイノベーションや生産性が15%増加します。 しかしながら、企業が大きくなると、従業員1人当たりのイノベーションや生産性が低下します。 したがって私たちは、Zapposを都市のように構成する方法を見つけようとしています。 都市では、人々や企業は自己組織化しています。 我々は、今までのヒエラルキー組織から、従業員が起業家のように行動することを可能にするホラクラシー組織に切り替えることによって自己組織化する企業になろうとしています』というトニー・シェイCEOの言葉が紹介されています。

ホラクラシーとは、日本でホラクラシー経営をいち早く取り入れているダイヤモンドメディア株式会社代表取締役の武井浩三氏によれば「ホラクラシーは複雑系マネジメントである」とのことで、サークルと呼ばれるそれぞれの組織が自律的に活動する組織形態です。
サークルと言うと大学のサークルを思い浮かべる人も多いと思いますが、実際このサークルは大学のそれに似ている部分もあります。大学当局など上部機関は、個々のサークルの運営に口を出さないのと同じように、ホラクラシー企業では、サークル内の問題や課題はサークル内での話し合い等によって解決され、経営陣は基本的に口を出しません。評価もサークル内で行われます。

Zapposでは、2013年の導入時には、およそ2割の社員が退職するなど、当初混乱がみられましたが、社員の声を聞きながら調整を重ねて行った結果、2015年には営業利益で前年比75%増を達成しました。

日本では前述のダイヤモンドメディアのほか、求人メディアのGreenなどを運営する株式会社アトラエなどがホラクラシー経営を取り入れていますが、いずれも従業員数30~40名規模の企業に留まっています。
日本人にこのような「自己組織化経営」は向いていないのか?というとそういったことは、まったくなく、このホラクラシーを含む自己組織化を活用した経営形態(ティール組織)の原点の一つは、1980年代に日本企業の間で流行し効果を上げた「QCサークル」であると言われています。
ただQCサークルは、あくまで「現場のカイゼン」に留まっており、経営そのものに自律化、自己組織化を取り入れようという流れにはなりませんでした。
日本企業では一般に、現場のカイゼンやすり合わせは得意としますが、それを規格化したりフレームワークに落とし込むことといった、暗黙知(いわゆる阿吽)を明示化させることは欧米に遅れを取っていて、それがホラクラシー経営やティール経営を逆輸入という形をとっているわけですが、東日本大震災のときに早稲田大学大学院助教授の西條剛央氏の呼びかけで、各地に自律的な組織が立ち上がった、「ふんばろう東日本」のように、理念や想いのもとに集結し、自分の利益ばかりでなく全体のために動くのは、本来私たちに向いているのではないかと考えています。

最後になりましたが、シンポジウムにいらしてくださった方々、発表を聞いてくださった方々に深く御礼申し上げます。