ルールを覚えても、因果ループ図がうまく書けない理由 →(こちら)

初心者・中級者が失敗しやすいこと

ループ図を描く際に初心者がやりがちなのが、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式(?)で、因果の矢印をとにかく繋ごうとしてしまうことです。
「強風」→「ホコリ」→「失明」→「三味線弾き」→「三味線」→「猫の皮」→「猫(減る)」→「ネズミ」→「天井に穴」→「雨漏り」→「桶の需要」→「桶屋の利益」。
いうまでもなくこじつけですが(笑)、そうやって矢印を伸ばして、強引に最初に結びつけてループを無理につくってしまう。
「風が吹けば・・・・」も、もう少し伸ばして、「桶の生産量」→「材木の需要」→「森林(防風林)伐採」→「強風」とすれば、ループとなってしまいます。自己強化ループなので、桶ビジネスは儲かり続ける有望なビジネスモデルです。本当でしょうか?(笑)

風が吹けば桶屋が儲かる

こうやってループ図をつくっても、そこからは何も生まれず課題解決に結びつくようなレバレッジポイントは見つかりません。

あと中級者に多いのは、とにかくシステム原型をつくろうとする人。
システム原型は確かに便利で有益なツールです。
しかし、基本型の学習の結果、これらを組み合わせればループ図が構築できるといった観念にとらわれすぎ、自由な発想によるモデリングが阻害されることになるといった弊害も指摘されています。
また、これはコンサルの人にたまに見られるのですが、先に問題点を決めてしまって、それに合わせたループ図(システム原型)をつくってしまうケースもあります。
現実には、問題の転嫁とか、成長の限界とか、いろいろなシステム原型で指摘されるような問題というのは、多なかれ少なかれどんな人や組織にも存在しているわけで、最初に決めつけた問題点に結論を持っていって、クライアントの本当の問題に気づかない結果に終わってしまうこともあります。
システム原型は、英語の5つの文型と同じであくまで型です。とらわれすぎず、うまく活用することが大切なものです。

変数に何を入れるか

因果ループ図

ループ図は、本当にシンプルな構造です。
変数とそれをつなぐ因果関係の矢印の2種類だけ。
「実践編」としてやることは、
1.変数をリストアップする。(変数抽出)
2.リストアップしたそれぞれの変数間で、因果関係があるかどうかを調べる。(因果分析)
3.因果関係がある変数の間を矢印でつなぐ。論理に飛躍がありそうなら、その間に適切な変数を付け加える。
4.ループができれば、自己強化型ループかバランス型ループか判断して、記号(R)(B)やループ図が識別できるような名前をつける。

つまり最初の変数さえ決まれば、あとはルールに従って描いていけばいいのです・・・・というと簡単に聞こえますが、実はこれが一番難しいポイントでもあります。
変数に何を入れるか、の前に、そもそも「変数」とは何かが初心者には難しいのですが、これについての解説が少ない。
辞書では「数を代表する文字がその値をいろいろとり得るとき、その文字をいう。(大辞林)」とあります。つまり数や量大きさなど「値が変化する事柄」が変数です。
ただ、ビジネスや会社で扱うのはほんとんどが変数です。
現金、売上、人件費、借入金など財務諸表で表されるものはすべて変数ですし、従業員数から机からトイレットペーパーまで備品や消耗品の数。顧客や株主の数や商品や会社への満足度。オフィスの室温、やる気や疲労度など精神的なことも含め変数だらけの環境の中で、いったい何をどう選べばいいのでしょうか?

システム思考の本での変数の解説は?

代表的なシステム思考の本ではループ図の変数について、どのように書かれているのでしょうか?

システムの重要な要素で、大きくなったり小さくなったりするもの。
『なぜあの人の解決策はうまくいくのか 枝廣淳子/小田理一郎著』

外部変数「システムの外部にあって、他の変数に影響を与える変数」。内部変数「システムの内部にあって、他の変数に影響を与えたり、逆に他の変数から影響を受ける変数」
『問題発見力養成講座 高橋浩一著』

その問題のある状況において重要な変数
「発生したこと」問題の症状、需要、ニーズ、副作用、業績、成長、成功、結果など
「実施すること」応急措置、根本的解決策、努力、行動、投資、資源配分など
「目標や制約」業績目標、品質目標、制約、限界など
「ギャップや違い」目標と現状のギャップ、相手と自分の立場の違いなど
「保有しているもの」資源や能力など 
『システム・シンキング バージニア・アンダーソン/ローレン・ジョンソン著』

ステークホルダー(ループ図に登場する利害関係者)の関心事項(interest – 何を得たいのか? 何を嫌がるのか?)にもとづいて、コントロールしたい変数。
『実践システム・シンキング 湊宣明著』

ほとんどの専門家が参照するピーター・センゲの「The Fifth Discipline :The Art and Practice of the Learning Organization(邦題:学習する組織)」、ジョン・スターマンの「Business Dynamics :Systems Thinking and Modeling for a Complex World(邦題:システム思考)」では、Variable(変数)の定義や選び方という基本的なことには触れられていません。

専門家にとってはあまりにも自明でわざわざ触れる必要もない、というところで多くの人が躓いてしまうのは、どの分野でもあることですね。(躓いたのは私だけではないと思いたいですが(笑))

正しい変数を抽出するためのループ図の構造

システム思考は、複雑な社会システムの課題解決のため、「システム」「情報」「制御」という概念ツールを組み合わせてものごとを考えていく思考アプローチです。
そのシステムの構造や諸関係を確認し(「情報」を把握して)、「システム」を「制御」することにより、課題解決を図るものです。

以上からシステム思考の構造は、「ステークホルダーが『システム』を制御する」という形になります。システムは複数の「要素の相互作用」からなりますから、置き換えると「ステークホルダーが『要素の相互作用』を制御する」。相互作用を優しい言葉で言うと、「挙動」「動き」です。つまり「ステークホルダーが、(思ったように)『要素が動く』よう制御する」を図るのがループ図を描く目的です。『動いている要素』は当然「変数」です。

つまりループ図に書く変数は、(『実践システム・シンキング』で述べられているように)ステークホルダーが制御したい(増やしたり減らしたりコントロールしたい)要素である。ということになります。
また、この場合の主語にあたる「ステークホルダー」には、人もそうですが、自然や環境、社会といったシステム自身が主語の場合もあります。アンダーソン/ジョンソンの『システム・シンキング』で述べられている「発生したこと」とは、「システムが要素を動かそうと制御した」結果「発生したこと」です。
「実施すること」も「保有するもの」もステークホルダーが、大きくする、増やす、減らす、維持するよう制御(コントロール)をしようとしているものであることがわかります。

おかれている状況について、自分で文章をつくってみたり、インタビューをして「ステークホルダー(あるいはシステム自身)が、◯◯を増やそう(減らそう)と制御している(しようとしている)」という意味になる文章を見つけられたら、その◯◯を変数とみなしリストアップする。

英語表現で言えば、第5文型「SVOC」のO(目的語)にあたるのが変数です。
「They controlled the problem to be solved」(彼らは問題が解決するよう制御した)
「They controlled the sales to increase」(彼らは売上が増えるよう制御した)
(実際にはmake(~させる)などを使うと思いますが、あえてcontrolという語を使っています)
最初の文では「問題」次は「売上」が変数ですね。

「制御する」などという言葉は日常ではあまり使いませんし、日本語では主語を省略した文が多いですが、「ステークホルダーは ~ と制御する」という言葉に変換できるかどうかをまずチェックして、変換できそうであればあえてそういう文章を作って変数を抽出する。
そうすれば変数が見つけやすくなると思います。

私たちの周りでは、様々な要素の数値が増えたり減ったりしていますが、ステークホルダーが制御しようとしていない要素はここでいう変数ではありません。
「今日は暑い(気温が上昇している)」という文があっても、それだけでは気温は変数ではありません。しかしこれが環境問題を論じている話で、「二酸化炭素の影響で気温が上昇した」→「二酸化炭素が、気温が上昇するように制御した」となれば、気温は変数になります。

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