
臨界点に立つ中東と世界秩序
2月28日、米国とイスラエルは、イランに空爆による攻撃を加え、最高権力者のハメネイ師や政府要人を殺害しました。
トランプ大統領は、「この攻撃は4~5週間続くだろう」と述べ、一部の報道でイランの圧政に苦しむテヘラン市民らが喝采をあげる映像が報じられていることも踏まえ、体制転換の期待も述べました。(クルド人への支援も表明しています。)
私も戦争の早期終結やイランが自由な良い社会になることを願いますが、果たして、トランプ大統領の望むシナリオで進むものなのでしょうか?
日本の関心は、ホルムズ海峡と石油価格がどうなるか?に留まっているようです。
またネットなどを見ると、対中国シナリオ(イラン原油の比率が多い中国への打撃)ではないか?という意見も見られますが、実際には、中国船籍のタンカーはホルムズ海峡を航行しているとロイターが報じています。
(中国はロシアからも石油を輸入できますし、ロシアも石油価格が上がれば国家財政が潤うというメリットがあります。中ロ両国は「漁夫の利」を得る可能性が高そうです。)
私は、ウクライナ戦争が勃発した2ヶ月後に、「ウクライナ vs ロシアは自律組織とピラミッド組織の戦い」という記事を書き、世界第2位の軍事大国であるロシアに対して、なぜウクライナが予想以上に善戦しているのか、について論じました。
当時のロシアも「特別軍事作戦」を数日で終結させるつもりでしたが、5年目に突入した今もなお、先が全く読めない情勢です。
そのようなことにならないことを心から祈りますが、もしイランとの「軍事作戦」が長期間続けば、中国以上に中東に依存する日本経済への影響は必至ですし、ただでさえインフレ型に転換した経済体制の行方も気になります。
1973年の「第三次中東戦争」をきっかけとした「石油ショック」「ハイパーインフレ」。そしてその後の「スタグフレーション」に陥った、日本や世界の再来になる恐れも十分考えられます。
国家はなぜ分散型組織に勝てないのか
近年の国際情勢を見ていると、戦争の形そのものが大きく変わりつつあることを感じます。今回の米国によるイラン攻撃も、単なる軍事衝突というより、21世紀の世界秩序の変化を象徴する出来事として捉えることができます。
しかし日本における報道を見ると、
・米軍およびイスラウェル軍による圧倒的な優勢
・苦し紛れに思える湾岸諸国やトルコの米軍基地へのイランの攻撃
という風に伝わってきます。
本日(3月7日)の読売新聞朝刊一面の見出しも。
「米 イスラエル制空権確保」でした。

しかし私が注目したのは、ロイターのこの記事です。
イラン革命防衛隊、指導部壊滅でも事前の権限移譲で支配力強化か
他の記事も併せて要約すると、イランは2003年のイラク戦争の教訓を得て、「分散型モザイク防衛」という防衛体制を作り上げたそうです。
末端まで権限委譲がなされているため、上からの指示がなくともそれぞれの意思で戦い続けることができる。
そしてこのような組織相手に、従来型の軍隊が手を焼くどころか「勝てない」のは歴史が証明しています。
ベトナム戦争(1964-1975)米軍の敗北、撤退
アフガン侵攻(1978-1989)ソ連の敗北、撤退
アフガン攻撃(2001-2021)一時はタリバン政権を倒すも泥沼化。米軍撤退、タリバン政権の復権
イラク戦争(2003-2011)フセイン体制を倒すも泥沼化 米軍撤退
ウクライナ紛争(2022-?)泥沼化
イラン攻撃(2026-?)最高権力者のハメネイ氏殺害 → ?
イランは、60万人の正規軍(革命防衛隊)を持つ中東一の軍事大国です。
さらに加えて、地域民兵、さらにはヒズモラやフーシなどの代理組織も持っている、いわゆるネットワーク構造です。
仮に司令部を壊滅させても、末端組織はさらなる抵抗や反抗を続ける。
簡単に制圧するのが難しいどころか、アフガンやイラク、そしてウクライナ以上に「泥沼化」する。
仮に傀儡政権の樹立に成功しても、イラクのように国家が分裂してISのような「テロ国家」が出現し、さらなる混迷する世界をつくるだけの結果になるかもしれません。
米国自身の転換点
トランプ大統領自身、従来の対イラクなどの中東戦略に批判的で、対外介入に批判的ないわゆる「米国ファースト」の世論の風に乗って当選した経緯があります。(トランプ大統領は、戦争をしない大統領だ、なんてことを言っている人は多かったですね)
現在でも、米国民で攻撃を支持しているのは27%(反対43%)というのがロイターの調査で、CNNは国民の6割が反対と報じています。

そのトランプ大統領がなぜ対イラン「戦争」を仕掛けたのか理解に苦しむところですが、ベネズエラで「成功」したように、トップをすげ替えれば、すぐに解決と考えた(あるいはそう嘯くイスラエルに乗せられた)のかもしれません。
今回の攻撃で早くも石油価格が上昇していますし「物価高」にますます拍車がかかるのは避けられないでしょう。
昨日(3月6日)発表された米国の2月の雇用統計は、マイナス9万人という大幅な雇用数の減少。
そんな中、原油価格高騰を起点とした物価のさらなる上昇で、米国経済は耐えられるのか?
(もちろん、日本はさらなる影響を受けることも間違いない。)
紛争長期化で困るのは、イランか米国か?
失うものが多いのは、後者だと思うのは私だけでしょうか?
日本は今こそ動くべきなのだが・・・
実は、日本はイランとの関係は悪くありません。
そして、この礎をつくったのは、阿倍晋太郎元外相です。
阿倍氏は1980年代のイラン-イラク戦争の際、両国や中東諸国を積極的に訪れて、停戦への働きかけを行いました。
その後中東と欧米の関係が悪くなっても、日本は独自のポジションを持つことができました。
ちなみに阿倍外相が1983年にイランを訪れてハメネイ大統領(当時)と対談した際には、当時外相秘書官だった安倍晋三氏も同行していました。
首相になった後の2019年にも、安倍晋三首相はイランを訪問して、緊張緩和に向けた働きかけを行っています。
こうしたパイプがあったことは、トランプ大統領も高く評価しており、「ドナルドーシンゾウ」の強いつながりにも寄与したことは間違いありません。
安倍氏の「後継者」を自認する高市総理はどう動くのか?
現在のところは、解決に向けた独自の動きを行っているという情報は全く聞かれません。

