この週末ワイドショーやネットニュース欄を騒がせたのが、新潟を拠点に活動するAKBグループのNGT48のメンバーに対する暴行事件の第三者委員会の報告の記者会見に関するニュースでした。
これはNGT48のメンバーが自宅に入るところを、ファンと称する男性2人に顔をつかまれるなどの暴行を受け、男らは逮捕(のちに不起訴)。被害を受けたメンバーの自宅や帰宅時間を他のメンバーが漏らしていたという疑惑がもたれ、さらにはこの犯行グループと付き合いのあったメンバーもいたということで、大きな問題になったものです。

この事件に関する報道では、AKBのビジネスモデルである、「会いに行けるアイドル」というコンセプト、握手会やAKB総選挙のことや、そのことに関連したファンとの交流の近さなどが問題とされています。

ただしこれは、AKB48が誕生して10年以上続けてきたビジネスモデルであり、また「坂道グループ」や海外も含めると、NGTのほかにも10グループ以上が活動しており、「なぜ今NGTで問題が起こったか?」という答えにはなりません。またAKBの成功後、握手会のようなファンとの交流を軸とするモデルについては、多くのアイドルグループも追随して取り入れているわけですから、「アイドル業界に共通する問題」というのは、さすがに範囲が広すぎて真の問題が見えなくなってしまいます。

単にファンとの距離だけではない、AKBグループの特徴が、この事件から垣間見ることができます。それは最近流行の「プラットドームビジネス」に共通に潜む問題です。

AKBグループはプラットフォーム構造

グループアイドルの歴史は古くからあります。モーニング娘や、ももいろクローバーZ、男性アイドルのジャニーズ軍団、そしてAKBの原型ともいうべき、おニャン子クラブ。
これらグループアイドルは、複数人いるという特徴はありますが、アイドルビジネスの構造(システム思考風にいえばアーキテクチャ)は、単体アイドルとそれほど変わりません。

AKBグループの特徴は、グループでありながら、個々のメンバーとファンのつながりをベースにしている点です。つまりAKB48というプラットフォームがあって、ファンは、そのメンバーの〇〇さんのファン、という位置づけです。
そのファンの数を握手会や総選挙で競い合い、その上位のメンバーがシングルCDのメンバーとなってTVや雑誌などのメディアに出ることができる、という仕組みです。

AKBとしての単体アイドルグループの特徴ももちろん持っていますので、完全な形ではないですが、プラットフォームとしての構造、つまりGAFAと同じアーキテクチャを持っている形です。プラットフォームとは何か、ということについては、下記ページで解説していますので、ご覧いただければNTTドコモやGAFAのプラットフォーマーとしての構造の特徴がわかるかと思います。

NTTドコモがプラットファーマーになれなかった理由
GAFAに共通する成功戦略はシステム思考

GAFAにみるプラットフォームビジネスの怖さ

AKBグループとGAFAのビジネスモデルは、一見するとどこが同じなのだろうか?と思われるでしょうが、共通するのが、ある「場」(プラットフォーム)の上で、それぞれの「取引」が「創発」している点です
FacebookもGoogleもそれぞれが用意したプラットフォームの上でユーザーは「勝手に」検索したり書き込みをすることで広告とのマッチングが行われます。AmazonやApple(AppStoreやiTunes)でも、出店者と購入者との間で活発に取引ができるようなプラットフォームを両社は提供しています。
つまり、プラットフォーム上のやりとりや取引に、プラットフォーマーは介入しないことで、「創発」がおきるよう仕掛けている形です。

ただし、プラットフォーム上で「創発」が起きるためには、プラットフォーム自体(つまりインフラ)が堅牢であり、信頼できる仕組みであることが大事です。

つまり図の緑の部分は創発が起きる仕組みですが、下の赤のプラットフォームは完全にコントロール下に置く(=創発は起きないようにする)という2重構造がしっかりしていることが大事です。
時折これらの会社で「個人情報の流出」という問題が起きたりしますが、「セキュリティなどプラットフォームが堅牢であること」は、プラットフォームを利用するユーザーにとってばかりでなく、プラットフォーマー自身にとっても自らの存在を続けるために欠かせないことであるのは言うまでもありません。だから彼らはこのことに最も気を使います。

Facebookの創業時を描いた映画「ソーシャルネットワーク」で、意見が対立したCFOのエドワルド・ザベリンが預金を封鎖した時に、マーク・ザッカーバーグが怒って電話するシーンがあります。「もし一日でもサーバーが落ちたら、フレンドスターのようにあっという間に崩壊してしまうんだ!」
フレンドスターは当時世界一のSNSプラットフォームでしたが、増え続けるユーザーに対応が後手となってサーバーがしばしば落ちたことで、あっという間に顧客が流出してFacebookにその座を譲り、その後2015年にサービスを停止しました。
世界一になっても、歯車が逆回転すると、あっという間に消滅する。それも「創発」の力なのです。

また、プラットフォームビジネスはその特徴上、「公共性」も求められます。ここでいう「公共性」とは、「公正であること」と言い換えることもできるでしょう。

例えばGoogleで検索結果が不公正だったらどうでしょうか?
検索アルゴリズムの裏をかいて価値のないページが上位に表示される問題が時折起きます。そういう場合Googleは必ずアルゴリズムを変更して、検索結果ができるだけ公正になるように努めています。そうでないと利用者にそっぽを向かれる恐れがあるからです。(だからかつて流行った「SEO対策」も今ではほとんど意味のないものになっています)

また最近では、プラットフォームだけでなく、プラットフォームの外部との関係も「公正さ」が求められるようになっています。
特にヨーロッパでは独禁法の問題でかつてはマイクロソフト、今ではFacebookやGoogleそしてAmazonが「監視対象」とされています。
無料サービスだから独禁法には関係しないと言われた時代もありましたが、それだけプラットフォーム・ビジネスに対する世間の目が厳しくなっているのです。(日本でも経産省がGAFAに対する「聞き取り」を始めているというニュースがありました。)

プラットフォームに対する理解の無さが問題を悪化させたNGT

今回のNGTの事件で浮き彫りになったのは、プラットフォーム・ビジネスである(少なくとも「プラットフォーム・ビジネスの要素」を取り入れている)形態にもかかわらず、運営側がそのことを理解していないようにみえることです。

NGTのメンバーは、仲間であると同時にライバル関係にあります。売れているメンバーはCDで選抜されたりTVに出ることで、ますます売れる。そうでないメンバーはますます表に出れなくなる。これはビジネスモデルの関係上、ある程度仕方ありません。
当然足の引っ張り合いも出てくるでしょう。
そうした時、プラットフォーマーである運営に求められるのは、「公正な競争が行われているか」「セキュリティがしっかりしているか」といった「堅牢なシステム」が築かれていることです。競争にさらされるメンバー1人1人へのケアも大事な要素です。
メンバーの住む「寮」に外部の人、ファンがその部屋を借りることができるといった「セキュリティ」に、まったく気遣われていなかったというのは「言語道断」と言ってもいいでしょう。

また「公正な競争」には「ルールの徹底」が必要です。
必要以上にファンとの距離を近づけることがあってはならないというのは、「公正さ」のために必要なことです。そう意味で「恋愛禁止ルール」というのは、「公正さ」のためには必要な措置だったと思われます。
「恋愛禁止ルール」は批判もあって、撤廃されたという報道がありましたが、仮に恋愛は自由だとしても、それに代わるルールの導入は絶対に必要でした。

しかしNGTの場合、運営からルールについての「教育」はまったく行われてこなかったことが、第三者委員会の報告書から伺えます。そしてその「ルール教育」を行われてこなかったことを理由に、「秩序を乱したメンバー」に対しても「処分は不問」とするという不可解にみえる処置を発表して、世間から余計批判を浴びることとなっています。

実際の事件の詳細やグループの内情については知らないので、この「処分」に関しては論評を控えますが、記者会見に関する報道を見ると、このプラットフォームをどう立て直すのか、ということについては、まったく見解がなく、ただ「メンバーと話し合う。コミュニケーションをする」と繰り返すばかりだったようです。
NGTというプラットフォームの「システム」に問題があるにもかかわらず、そのシステムをどうするかということにはまったく思い至ってないことが、この問題の最も深刻なところでしょう。

システムを変えて課題解決する手法

運営から発表されている「対策」は、「防犯ベルの配布などのセキュリティ対策」「メンバーへの啓蒙教育」「問題のあったファンへの出入り禁止策」「メンバーとのコミュニケーション」といった「対処療法」「場当たり的なもの」で、これでは世間から評価されないと思われます。事態の収束を図って開かれたはずの記者会見後も、厳しい報道が続き、地元ラジオ番組などの休止などが発表され、新潟県もスポンサー契約を「保留」とすると発表がありました。

ネットの書き込みなどでは、「経営の総退陣」「NGTグループを解散するしかない」という意見も多いようです。
問題があったから辞める、というのはある意味日本的な解決手段手段ですが、それで物事は解決するのか?

システム思考で考えると、今回の問題の本質や対処方法も見えてきます。
これは一つの考え方ですが、例えば「メンバーの評価手法を変える」というのも一つです。

現在は下記のように、握手券や総選挙CDの「売上」が評価のベースになっていますので、一人で何枚もCDを買う熱心なファンいわゆる「太い客」を個々のメンバーがどれだけ掴むかが大事になっています。
そうすると中には、ファンと「深い関係」になるものが出て、そのことに対するメンバー間の確執がNGT事件を引き起こした原因の一つと言われています。

今回の問題以前にも、ファンによるメンバーへの襲撃事件、ストーカー行為、あるいは大量に買ったCDを不法投棄するといった問題がありました。
現在の評価方法を例えば売上ではなく「ファンの数」と変えるだけでも、上記のような問題は変わってくると思います。

大量買いするファンが減って、目先の売り上げは下がるでしょうが、もしサスティナブル(長く続く)なシステムにしたいのであれば、おそらく避けられない選択なのではないか?と考えますが、どうでしょうか?
 
 
アイドル・ビジネスだけでなく、最近「コミュニティ・ビジネス」など、意図せずして「プラットフォーム」化するビジネス形態が多くなっています。

「プラットフォーム・ビジネス」の特徴とその限界への正しい理解が、今後一層必要になると思います。