自然(じねん)経営と幸福4因子

少し前のことになりますが、今年の3月に開催された第2回 shiawase2.0シンポジウムにて、「ホラクラシー経営のための経営管理フレームワークの提案」という研究発表を行いました。
そしてその中で、「ホラクラシーと幸福学」についても話させていただきました。
 
 

Shiawase学会発表資料(島 2018)

 
 

これは前野隆司慶應義塾大学SDM研究科教授の「幸せの4原則」とホラクラシー経営の関係について述べたものです。

幸せの4原則とは、1500人に上るインタビュー、アンケート調査から、「幸せの要素(因子)」を4つ抽出したものです。

・ありがとう因子(つながりと感謝)
・あなたらしく因子(独立とマイペース)
・なんとかなる因子(前向きと楽観)
・やってみよう因子(自己実現と成長)

4つともいつもできている人、自然と身についている人が「幸せな人」である、というのが幸せの4原則の趣旨になります。

一方で、組織が「自己組織化」する条件として、ブリゴジンらが唱えた「散逸構造理論」では、その組織が「外部に開放的」で、「非均衡な状態」にあり、「ポジティブ・フィードバック」が起こっていることが挙げられます。(ブリゴジンはこの理論で1977年にノーベル化学賞を受賞しています。)

自己組織化組織形態であるホラクラシー経営やティール組織などの「自然(じねん)経営組織」では、この3つがその組織の中で起きていると考えられます。

「外部に対し開放的な組織」というのは、ポジティブな関係でつながりの多い組織です。そのような組織の中では自然と「ありがとう因子」が働いていると考えられます。また「非均衡な状態」は画一的でない組織、一人一人の個性が際立っている状態、つまり独立とマイペース、「あなたらしく因子」が働いている状態です。そして自己実現をして成長している状態(やってみよう因子)と前向きで楽観的な状態(何とかなる因子)なのは「ポジティブ・フィードバック」が働いている状態であると考えられるでしょう。

このように、自己組織化経営が実現している要素と、幸せな状態である要素はそれぞれ対応していることがわかります。
つまり「自己組織化経営」が実現するためには、社員が幸せな状態でなければならないし、またそれが実現している組織は、その組織に属する人(社員)は、幸せな状態である、ともいえるのです。

会社やビジネスという枠から離れて考えてみると、自己組織化が起きている組織として、「趣味のサークル」が挙げられます。あるいは自由なコミュニティなどもそうでしょう。

こういう組織では、基本的にはだれかに指示されたり、命令されたりすることなく、自律的にまとまって(自己組織化して)動いています。そこにいる人は、「好きだから」「そこにいるのが幸せだから」そのサークルに属しています。もし強制され命令されて動いているような「趣味のサークル」があったとしたら、その成員はもちろん幸せな状態ではないですし、そういう組織はすぐにばらばらになってしまうでしょう。

私が訪問したラスベガスのホラクラシー企業のZapposでも、出会った社員はZapposにいるのが楽しくてたまらない、価値観の合う他の社員と一緒にいることが好きでたまらないといったことを公言していました。
少なくとも私の目には、働いている社員はみな幸せそうに働いていました。
(逆に言えばそういうZapposの社風に合わない人は、会社にいられない仕組みになっていることも事実です。Zapposにいる社員が幸せなのは、Zapposのシステムを幸せに感じることができる人が集まっているからである、という言い方もできます。趣味のサークルでも、その趣味に合わない人、何が面白いんだと考える人にとってはいることが苦痛であるのと同じと言ってよいかもしれません。)

ホラクラシー経営、ティール組織では、そこに属する社員にとって幸福に感じられるような組織である。あるいはそういう組織にするというのが大切なことであると言えます。

あなたは今幸せですか?

もう一つ違った角度から、「幸福」について考えてみたいと思います。
日本の自殺者は年間2~3万人に上るそうです。つまり今日一日だけでも数十人のひとが自殺している計算になります。
中でも、一番多いのが、男性のいわゆる中年層です。働き盛りのサラリーマン。
原因は借金や貧困などの金銭問題、病気など様々ですが、サラリーマン、つまり会社に属している人達は、「あまり幸せではない」ということが浮き彫りになっています。

安定して、少なくともある程度の水準の生活が「保証」されているはずのサラリーマン。今だに餓えや戦争などで明日生きていけるかわからないという地域が世界にはある中で、日本の企業に属するサラリーマンは相当「幸せ」なはずです。

もうひとつ、不思議な現象は、サラリーマンや官僚の世界では、給料、つまりお金以外で、「出世」というのが大きな関心事な点です。「下町ロケット」「半沢直樹」の原作などで知られる池井戸潤の小説では(自身の経験から語られる)大企業の社員の最大の関心事は「人事」である、と登場人物はたびたび述べていますし、日本の政治組織や官僚組織をデフォルメした映画シン・ゴジラで、主人公に協力する関係の政治家が「出世は男の本懐だ。」と語る場面があります。

日本のサラリーマンの多くが、出世することが、お金(給料)をたくさんもらうことや、自分に合った好きな仕事をすることと並んで、「幸せ」に近づくことであると考えていることになります。

「出世」というのは自分の役割が多くなることを言います。
新入社員のころは、会社全体から見ればほんの小さな役割だったのが、出世するのに従って大きくなる。社長になってやっと「会社と同じ大きさ」になります。(ただし現実には、「社長の役割」に過ぎないことが多い。)

新入社員の役割、ある部署の課長の役割、部長の役割。これは会社というシステムのサブシステムです。出世するにしたがって、少しずつ大きなサブシステムになり、システムに近づく。

どんな人でも、何かのサブシステムに甘んじることを幸せと感じる人はほとんどいないでしょう。「自分は自分らしく」あるいは「自分探し」という言葉がはやりましたが、ピラミッド社会の中で、自分らしく生きるには出世するしかない。

だから出世をあたかも人生の目標かのように考える人が多くなり、出世を勝ち取ったとき、「幸せ」を感じるのでしょう。
しかし「出世」しても、上記の通り少し大きなサブシステムになるにすぎず、また次の出世を目指して、ますます少なくなった椅子をめぐって争い(出世争い)が起こるのではないでしょうか。

何かシステムのサブシステムになるのではなく、システム全体になりたい、というのをフレデリック・ラルーは「ティール組織」の中で、「ホールネス(Wholeness)」と表現しています。
つまり「ティール組織」あるいはホラクラシー(ホラクラシーのホラ(Hola)はホールネスのことです)そして自然経営では、最初から「ホールネス」が前提なのです。

よく「ティール組織」や「ホラクラシー経営」に移行すると、役職がなくなって「出世欲」をどうすればいい?という話を聞きますが、これは話が逆なのかもしれません。

ティール組織やホラクラシー経営に移行してしまえば、「ホールネス」が実現でき、サブシステムであることに不幸せを感じたり、出世争いなどにエネルギーを浪費したりせずにいられる。

これが自然経営と幸福につながる最大の要因なのかもしれませんね。

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