なぜビジネスは進化論に学ぶべきなのか

VUCAという言葉もすっかり浸透している今日この頃ですが、変化の時代に生き残るため思考の軸として、「進化の理論」に注目が集まっています。
経営学はもとより、最新の軍事理論やシステム論でも、先の見通せない中、変化し続ける外部環境にどのように適応していくかという理論や手法が多く見られます。

当記事では、経営学でも注目される進化理論を紹介するとともに、激変するビジネス環境の中で生き残るためのコンセプトである「ビジネス遺伝子」を提唱したいと思います。

・変化する社会環境に、ビジネスモデルを柔軟(Agility)に適応させて、生き残りを図れる。
・イノベーション:新たな価値を生み出し、社会にインパクトのある革新や刷新、変革をもたらすことができる。
・社会(顧客)に合う製品・サービスを再生産(複製)し続け、広めていくことができる。

「柔軟性(Agility)」「イノベーション」「再生産(複製)」によって、生物は環境変化の中で進化し、私たち人類も現在のような繁栄の恩恵を受けているわけですが、ビジネスの成功も同じように考えることが可能ではないでしょうか。

これからの時代、進化論を理解することで、ビジネスでの生き残りやさらには成功に近づくことができると考えます。

逆の言い方をすると、中生代に地球を支配していた恐竜たちでさえも、隕石落下後の環境変化に対応できずあっさり滅亡したように、変化に適応できなくなった瞬間、淘汰されてしまう側になる。私たちはそんな時代に生きています。

このサイトでも何度も書いているDX(デジタル・トランスフォーメーション)も、その意識の有無で、意味づけや成功も変わってくるように思います。
  

  
   

恐竜になった日本経済

実際、日本が今世紀に入って長く停滞しているのも進化論の教えとぴったり合います。

20世紀後半の世界経済の環境に、日本は見事に適応して「世界第二位」の経済大国となり、日本製品は世界を席巻して「Japan As No.1」と言われるまでになりました。
しかし前世紀末から今世紀にかけて起こった環境変化に適応できず、「失われた30年」といわれる長期停滞の道を辿っています。

20世紀後半は、欧米という明確な手本があり、経済の枠組みも安定していた数十年間でした。日本の得意な「効率化」を武器に、中生代の温暖な気候に適応していた爬虫類のように日本経済は発展しました。

実は身体が圧倒的に効率的なのは、哺乳類よりも爬虫類のような変温動物です。哺乳類は自ら熱を産み出す構造ですので、その身体維持に膨大なエネルギーを要しますが、爬虫類はその機能がいらない分、身体がとても効率的にできています。つまり少ない食料で、大きな身体を維持できます。
(人間は数日食べないと身体に変調をきたし、長くても数週間で餓死しますが、爬虫類のワニは1年以上何も食べなくても生きていられるといいます。)

冒頭のVUCAという言葉が、米軍で使われるようになったのが1990年代ですが、日本の「失われた30年」が始まったのともちろん偶然ではありません。
効率重視の身体が温暖な時代には適合したものの、ユカタン半島への隕石落下をきっかけに激変した環境には耐えられなかった、恐竜のような状態が今の日本の姿です。

多くの日本企業は、今のような状況になってもなお、「効率化」で乗り切ろうとしています。
まるで恐竜滅亡後、生き残った変温動物が冬を乗り越えるのに、冬眠というさらなる効率手段を覚えたように。

経費や社員の給与を限界まで切り詰め、無駄をなくす。20世紀の価値観では「最適だった戦略」を今なお取り続けている結果が、長く続く「デフレ」ですね。

日本の一人あたりの生産性は世界28位。日本経済の中核を担う大企業の部長クラスの年収は、欧米はおろかタイやマレーシアにも劣っています。

進化論の誤解

進化論といえば、誰もが思い浮かべるのは、チャールズ・ダーウィンではないでしょうか。彼の理論は、現代の生物学だけでなく、社会学など多くの学問分野に影響を残しました。

ただ「進化論」が世の中に普及する中で、様々な誤解や誤った考え方が広まったのも事実です。
例えば、「適者生存」や「弱肉強食」。
これらは進化論を説明するのによく関連付けられますが、ダーウィンの言葉でもないですし、進化論で使われる言葉でもありません。

進化の過程の一部を切り取れば、たしかに「適者生存」は間違いではありません。
しかしある環境にあまりに適応してしまうと、環境が変わった瞬間、その生物は滅びてしまうのが進化論の教えるところです。

そして「弱肉強食」は生態系の食物連鎖を説明する言葉ですが、これも進化論とは関係ありません。「強いから生き残る」わけではないことは、これも上記の恐竜を持ち出すまでもないですね。

「適者生存」も「弱肉強食」も厳しい競争環境の中、強いものが生き残るというアナロジーでよく使われてきました。しかし、ダーウィンが主張したのは「自然選択」です。
自然(環境)に選ばれたもの(適応できたもの)だけが生き残り、他のものは滅びるということです。

よく言われることですが、キリンの首が長くなったのは「高いところの葉っぱを食べるために首を伸ばし続けたから」ではなく、「(突然変異によって)たまたま首の長いキリンが生まれ、それが当時のサバンナの環境に適応(自然に選択され)して生き残ることができた」というのが、ダーウィン進化論の主張するところです。


   

経営学の進化理論と理論で足りないこと

経営学でも「進化理論」は重要なトピックです。入山章栄先生の「世界標準の経営理論」でも多くの経営理論が、進化理論を基礎としていることが示されています。

「競争優位の一時性」「知の探索と深化」「レッドクイーン理論」「エコロジーベースの進化理論」「認知心理学ベースの進化理論」「リアル・オプション理論」「ダイナミック・ケイパビリティ理論
(ひとつひとつの説明は本をご覧頂くか、上記リンク先を参照ください。)

そして私たち経営やビジネスの「実務」を行うものにとっては、もちろん理論も大事ですが、どのようにすれば実行できるのか、実現できるのかも大切なことです。

「変化することが大事」
おそらくこのことに異論を唱える人はほとんどいないでしょう。でもなかなか実行・実現ができない。
上記の経営理論をひとつひとつ学んで実現を計画する、でもいいのですが、「進化の経営を仕組み(システム)として実現する」ためには、これら個別の理論を横串で貫くものが必要ではないかと考えます。

それが「ビジネス遺伝子」の概念です。

ビジネス遺伝子

「ビジネス遺伝子」の考え方の基としているのは、リチャード・ドーキンスが「利己的な遺伝子」で提唱したミーム(文化遺伝子)です。

ミームとは、人々の脳から脳へと伝達し広がるもの(情報)のことです。
「会話、人々の振る舞い、本、儀式、教育、マスメディア等によって脳から脳へとコピーされる、習慣や技能、物語といった社会、文化を形成する情報」と定義されますが、その性質が遺伝子と非常に似ていることから、ドーキンスがmim(模倣)と、gene(遺伝子)を合成してこの言葉を作ったと言われています。

お気づきのように、ビジネスで製品やサービスが普及するあるいは企業が存続するのも、ミームの力が働いています。

ただビジネスの場合、いわゆる文化の浸透に見られる、ある言葉が流行したり、芸術作品が世の中に浸透したりという現象と比較すると、具体的にある商品やサービスがたくさん作られる(複製される)という性質があります。

つまり抽象度の高いミームと比べると、具象度が高い(抽象度がほぼゼロ)の遺伝子そのものに近いのがビジネス。

そこが、ミームと区別をして、ビジネス遺伝子を考える必要があると思う理由です。


  
  

ビジネス遺伝子をONにしよう。

私たち日本人も、良いものを作る能力や良い仕組みを作る能力は、世界に負けていません。

今、宇宙ビジネスではイーロン・マスク率いるスペースXの勢いがすごいですが、日本も少し前までロケット打ち上げの技術力は世界に負けていませんでした。10年前(2012年)は米露仏に続くシェア(13%)を持っていました。

しかし今ではたった1%にまで落ちています。

スペースXの誇るリバーシブルロケットの技術ですが、実は日本はすでに1999年、世界に先駆けて実験に成功しています。
しかし、それを宇宙ビジネスで活用するという発想がなかったためか、その技術が活用されることはありませんでした。

同じようなことは、パソコンのCPU、量子コンピュータ、ブロックチェーン技術など枚挙に暇がありません。

私たちに足りないのは、世界最高水準にあることを誰もが認める技術でも知識でもなく、ビジネスで働くミームである「ビジネス遺伝子」ではないか。

逆に言えば、「ビジネス遺伝子をON」にすることで、VUCAの時代を生き残り、また日本を輝きのある国として復活させることもできる。

そのように考えます。

「ビジネス遺伝子」とはなにか、またどのようにすれば私たちが「ビジネス遺伝子をON」にできるか、頁をあらためて、説明したいと思います。(関連記事参照)

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