「おかえりモネ」とデータビジネス
以前「DXのためのデータ活用術」という記事を書きましたが、同じテーマですが、今回は柔らかい素材を使って、データ活用やデータビジネスについて書いてみたいと思います。
その素材とは「おかえりモネ」です。
ご存じの方も多いと思いますが、2021年上半期に放映されたNHKの「朝ドラ」です。
実はこのドラマ、(世間の印象とはおそらく違い)ビジネスでも参考になる要素満載のドラマなのです。
内容をご存知のない方のためにざっとあらすじを述べると、宮城県気仙沼市の高校を卒業して同県登米市の森林組合に就職した永浦百音(モネ)が、気象の大切さを知って気象予報士試験に挑戦。合格後東京の気象会社に転職した後、故郷の気仙沼に戻り、地元や仲間たちのために奮闘する物語です。
物語は、彼女の幼なじみや仕事で出会う人たちとの交流を通じた、彼女の内面の成長であったり、登米で出会った医師「俺たちの菅波」こと菅波先生との恋愛模様、彼女の地元への想いなどが軸となっていて、ビジネスはどちらかというと背景(コンテクスト)として描かれています。
また主人公のモネは、「元気で前向きな朝ドラ主人公」というフォーマットに反し、どちらかというと大人しい性格で、震災経験のトラウマもあって、何かと言えばすぐに悩む「陰キャ」。また高校や大学受験に失敗したり、気象予報士試験を目指すにも関わらず、中学理科の初歩的な知識も無いという「お勉強はできない」タイプとして描かれます。
しかし彼女は、森林組合や気象会社で、いろんな課題に対し画期的なアイデアや解決手法を思いつき、実現に結びつけるというイノベーターでもあるのです。
森林組合では、売り先のない広葉樹の木材を、市内の学校机にするというアイデアを出したり、(受注の条件である)市全体の小学校への早期納品の為、木材の乾燥に農閑期のビニールハウスを活用する、大量注文に対し木工組合のネットワークを活用する。ヒバの長期保存(数十年)の場所として古くからある神社の境内を使うなど画期的なアイデアを次々と発案しました。
気象会社に就職後も、(TVのお天気コーナーで予定外の事態のため)パペットを使って注意喚起をしたり、全国各地の気象予報士ネットワークの構築提案、地域FM放送でのお天気番組やその地域FMと気象情報投稿アプリとの連動、災害時などの気象予報士と地域医療との連携、養殖業への海水温等のデータ提供、世界の海に展開している気仙沼船籍の漁船に搭載した観測機器による「海のアメダス網」の構築、稼働中の漁船からお天気画像などをリアルタイムで投稿してもらうアイデアなど形にしていきます。
(でも彼女自身は己の能力にまったく無自覚で、最終回でも「なかなか利益が出ません~。」と同僚に泣きついて苦笑されています。)
気象会社とデータビジネス
モネが気象会社「ウェザー・エキスパーツ」に入社した際に、先輩社員にくっついて各部署を回るシーンがありますが、ここで気象会社とは「気象というデータ」を(企業やTV局等に)販売するビジネスであるということがよくわかるシーンになっています
日米間の貿易の大動脈を担う海運会社に対し、台風進路情報を的確に伝えることで、燃料費を数千万円削減、また道路会社に対し、冬場の除雪車手配をいつ行うかでやはり何百万単位で経費が変わると説明を受けます。
またこの会社は、ラグビーやパラリンピック競技の車いすマラソンでも当日の天候、温度、風の向きや強さを提供し、戦術や作戦アドバイス、選手のコンディション調節をサポートしています。
前回の記事で紹介した「DX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略立案書」の書籍においても米国企業の気象会社「ザ・ウェザーカンパニー(TWC)」の事例が紹介されています。TWCでは、季節に左右される広告(花粉症などのアレルギー治療薬、ファッション、スノータイヤ等)のコンサルティングやメーカーや小売店への気象データの提供、保険業界と組んだ新商品(雹被害から車を守る保険)開発など様々なビジネス展開を行っています。
まとめると、「データの提供により、クライアントの生命や財産、利益を守る」のが気象ビジネスの本質であり、その利益の対価としてクライアントは気象会社にお金を支払うというビジネスモデルなわけです。
おかえりモネから学べるDXビジネスの極意
番組の後半、彼女は地元気仙沼に戻り、一人で気象ビジネスの立ち上げに奔走します。
もちろん最初はうまくいきません。東北という保守的な地域ということもあり、東京から出戻った彼女に対して、よそ者扱いをしたり、新しいビジネススキームには拒否反応を示します。
これは現場でDX導入をしようとしても、なかなか動かない中堅社員、管理職の姿と被りますね。
それでも彼女は少しずつ結果を出し、周りの信用を得ていきます。
この部分は新規事業に奔走したり、新しいスキームの導入に苦労しているビジネスパースンにも観ていただきたいところですね。
そして彼女が大人たちから受けたアドバイス。これはDXやデータビジネスに限らず、新規事業やビジネスそのものの極意だと思います。
「安易に年長者の判断にのっかんないの!素人が馬鹿なふりをして突っ込んでいくから、ブレイクスルーは起きるのよ。」
「みんなのためになることを考えな。そうすると人は動く。」
(エピソード25 登米の山主のサヤカさんのアドバイス)
「気象情報を扱うビジネスでは、予報を外したら財産や人の命までもが失われる。だから情報を受け取る側も信用できない人間の言うことは絶対に聞かない。この人の言う事ならその情報を信じよう、そう思わせる信頼を日々築き上げていくのも、私達の仕事です。」
(エピソード61 気象会社の上司、朝岡さんの言葉)
日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催