システムとはなにか?
システムとは、複数の構成要素が相互作用する集合体のことです。
システム工学(システムエンジニアリング)の世界的な団体INCOSEは、システムを「目的を成し遂げるための、相互に作用する要素を組み合わせたもの」と定義しています。
この定義を少し組み替えると、「相互に作用する要素を組み合わせてシステムを構築することによって、目的は成し遂げられる」こととなります。
システムというと、コンピュータシステムをすぐ思い浮かびますが、人という要素が相互作用することで成り立ってる家庭や職場、地域といった「社会」もシステムです。
われわれ人間も、様々な内蔵や細胞、神経といった要素の相互作用で成り立っていますから、「システム」です。
1945年に一般システム理論(システム思考)を世界で初めて提唱した生物学者のベルタランフィは、無生物、生物、精神過程、社会課程は、すべて「システム」という同型の形で捉えることができる、と述べました。
現在の社会は、まさに複雑なシステムであるといえます。
問題解決を図ろうとしても、複雑で一筋縄ではいかないことがほとんどです。
夢を叶えたい、目標を達成したいと思っても、色々な問題や課題があってなかなかうまくいかない。
その問題点がやっと解決できたと思っても、別の問題が起きたり、その解決のための手段が、また別の問題を引き起こしたり。
システム思考は、そのような社会をシステムとして捉え、その本質的な課題解決を探るためのアプローチです。
システム思考とは
システム思考とは、社会をシステム、つまり様々な要素の相互作用であると捉えて、真の問題や課題を明確にすることで解決策を探る手法です。
「システムとして捉える」とは事象を体系的、全体的に見ることであり、事象の要素細部を見るのではなく、そのつながりや相互作用に着目し全体的に見ることを指します。「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、「木も見て森も見る」のがシステム思考です。
その上で、そのシステムの構造や諸関係を確認しながら(「情報」のやりとりをしながら)、その「情報」の流れによって「システム」を「制御」することにより、課題解決を図ろうという考え方です。
私たちは問題や課題が発生した時、その原因を特定して、その部分(要素)を変えようとしたり、場合によっては排除することによって問題や課題の解決を図ります。
しかし、その問題や課題である要素は必ず他の社会の要素とつながっていますので、必ず別の問題が引き起こったりするのです。
システム思考アプローチでは、部分や要素に着目するのではなく、そのつながりを把握し、全体を俯瞰することにより真の問題点が見えてくるようになります。
有名な事例をひとつあげます。
1980年代までのニューヨークは全米で最も犯罪率が高く危険な街でした。
原因にあげられるのは、貧困、社会的格差、銃の存在、ギャングの流入など色々考えられ、解決は難しいと思われました。
しかし、80年代の終わりにある政策が導入されると、重大犯罪はたった数年で75%減少し、ニューヨークはアメリカの中でも安全な街に数えられるようになりました。
その政策は、「街をきれいにすること」「街を汚すような軽犯罪をとりしまること」
落書きだらけで汚いことで有名だった地下鉄をすべて清掃し、ちょっとでも落書きのある車両は、汚れを落とすまで連結から外すほど徹底させました。
また落書きやゴミを捨てる、窓ガラスを壊す、地下鉄の無賃乗車といった軽犯罪を徹底的に取り締まりました。(それまで警察は多発する重大犯罪の捜査に追われて、軽犯罪は見過ごす状態になっていました)
そうして街が綺麗になった結果、軽犯罪はおろか、殺人や強盗、傷害といった重大犯罪もみるみる減ったのです。
以前のニューヨークは、街が汚い→ものを壊すなど軽犯罪はやり放題 → 人が寄り付かなくなる → 重大犯罪も増える。という構図でした。
政策実施後は、
街が綺麗になる ⇢ 犯罪を起こしづらい雰囲気 ⇢ 人が多くなり自然と人の目も多くなる ⇢ 重大犯罪が減る
という循環が巡るようになりました。
これは「割れ窓理論」として知られていますが、このように、システム思考で要素の相互作用(つながり)に着目することで、困難な問題も解決に向かうことができました。
このような政策や都市問題だけでなく、ビジネスの問題、家族や友人関係など人間関係の問題にも、システム思考は有効なアプローチです。
米国では、数百の小中学校の授業でシステム思考カリキュラムが採用されています。
実際、成功した起業家やビジネスパースンの戦略には、多くの場合システム思考戦略が取られていることも知られています。
日本でも有名なマイクロソフトのビル・ゲイツ、アマゾンのジェフ・ベゾスは、実際に事業でシステム思考ツールを活用していますし、アップルのスティーブ・ジョブズは、創業時にはシステム思考を活用していませんでしたが、1998年の復帰後にはその戦略にシステム思考を取り入れていることがわかります。
システム思考が「課題の解決」に必須の理由
上に記した図は「因果ループ図」と呼ばれます。
文字通り、因果関係が繋がってループを描いている様子を表しています。
実は私たちが「解決が難しい」と思っている課題のほとんどが、このように原因と結果が繋がっている。
だから世の中の多くの事象は解決が難しいのです。
これがループでなければ、その一番の元の原因を取り除くなり代わりのことを行うなりすぐに対処が可能です。ですがループ構造の問題や課題でうっかりこれをやってしまうと、有名なArnie Levin氏の風刺画のように、結果が自分に返ってきてしまう。
思い当たることありますよね?
なんでこのようなことが起こるかというと、私たちは往々にして目の前のことしか見えず、後ろがどうなっているか気づかないからです。
短期的には効果があったり、利益があがっても、中長期的には逆効果になることは少なくありません。
・リストラをして利益があがったが、優秀な社員が流出して、稼ぐ力がなくなってしまった。
・キャンペーン(値下げ)をして販売量を増やすことに成功したが、ブランド価値が下がって、ファンが減ってしまった。
・緊迫する国際関係に対応するため軍備を増やしたが、相手もそれに対応してきたため、ますます緊張が悪化した。
・モノが豊かになって幸福度もあがったが、環境が悪化し、それで被害を受けている人も増えている。
・・・まだまだ挙げられそうですね。
これらは因果ループ図によって可視化することで、私たちは「本当の課題」に気づくことが可能になります。
システム思考は、思考法ですので、どのような人にでも身につけることが可能です。
アインシュタインは結局原爆の製造につながってしまった相対性理論について書いた本の中で、「もし人類がこれ以上の生存を望むなら、われわれに求められているのはまったく新しい思考法であるだろう」と述べました。
この新たな思考法こそ「システム思考」であり、さまざまな問題・課題が渦巻く現代社会の中で、システム思考のアプローチこそ大事で欠かせないものであるのかもしれません。
イノベーションのためのシステム思考
現在の課題を見える可(可視化)して、イノベーションにつなげるシステム思考。
自分(自社)を取り巻く状況を構造化することで、どのポイントを動かすことができれば「システム全体」が動くのかレバレッジポイント(てこの支点)やキーストーン(要の石)を見極めることが可能になります。
システム思考で現在の状況(全体構造=グランドデザイン)を可視化することでAgility(アジャイル)に物事を進めていくことも容易になります。
課題解決とイノベーティブなアイデアを社会に広げる(創新普及)ために役立つのがシステム思考です。
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