『最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き残るのでもない。
唯一生き残るのは、変化できる者である』

有名なチャールズ・ダーウィンの言葉と言われているものです。

「種の進化」という大きな話ばかりではなく、個人としての生き残り、そして企業としても、国としても当てはまる話ですね。
日本が世界のGNPで占める割合は、「Japan As No.1」と呼ばれた80年台の10%から、現在は4%程度にまで低下しました。
その中で象徴的なのが「産業のコメ」と呼ばれた半導体産業。1980年代には圧倒的に日本が世界市場を独占していましたが、たった30年ほどで、かつての栄華は影もない状態。

日本の国の力がそのものが衰えたとか、日本人がバカになったということではなく、変化に対応できなかった。まさにダーウィン先生のおっしゃる状況になっています。

そしてこれからコンピュータが人間の能力を追い越すという「シンギュラリティ」を控え、最近のAI技術は目覚ましい勢いで伸びていますが、かつてロボット産業では世界をリードしていた日本は、今では影が薄いです。

そういう変化できない日本を嘆いている余裕は、私たち、特に若い人には、ありません。

私たち自身が変化できなければ、これから生き残ることはできないのです。

生命の仕組みに変化のヒントがある

「変化しろ」と言われても、多くの人にとって、何をどうすればいいのかわからないのではないでしょうか?
今の生活をやめたり、転職したり、引っ越すことも変化ですが、それで何かが生まれるわけもありません。

また「進化論にいう変化」のイメージから、外界(環境)に自分を合わせて変えていくことだと思われがちですが、それだけでは、自分を捨てて、周りの意見に左右されたり、意見や生き方をコロコロ変えることになり、それが生き残りにつながるとも思えません。
都合のいい人とみなされて、いいように使われて終わってしまいます。

おそらくその答えは、環境変化の中で実際に進化して生き残ってきた生物の中から探すしかありません。

1945年、理論生物学者のルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィは、生命の仕組みを一般科学にまで拡張した「一般システム理論」を提唱します。ベルタランフィは、生物の仕組みを、「開放系の定常状態を維持するシステムである」としました。

定常状態を維持するとは、生物がその姿を保ち続けることを言いますが、開放系というのは、絶えず外界と情報や物質のやり取りをいている状態を言います。

外から取り入れるもの(栄養や水分、酸素など)と排出するもの(エネルギー(熱)、汗、便など)が均衡状態を保つ仕組みを持っています。
そして体内(身体というシステム)では、均衡状態を保つために、フィードバックという仕組みが働いている。

生命とは違いますが、「開放系の定常状態」「フィードバック」で、一番簡単なシステムは、風呂にお湯を流し込んでいる状態です。お風呂には、お湯が溢れ出ないように上部に排水口がついてますね? そうすると、風呂の水位は一定(定常状態)を保つことができます。

このお風呂の上部排水口は、ただの穴ですが、実は立派な(?)フィードバックシステムなのです。
お風呂システム
 
生命というシステムは、無論それより遥かに複雑で精密ですが、基本原理はお風呂と同じ。「開放系」「フィードバックシステム」の2つの仕組みが、生命を生命として成り立たせています。

このフィードバックの仕組み(フィードバック制御)によって、私たちは、自分自身を維持したり、環境の変化に合わせて変化させてきました。
ダーウィン進化論でいう「生き残る事ができる者」とは、ダイナミック(動的)なフィードバック制御を身に着けた者と言っても過言ではないと考えます。

フィードバックはシステム思考の「核」である

フィードバック制御については、ベルタランフィとは別に、生命とシステムの関係性を研究していたノーバート・ウィーナーらによって研究が進められました。
そしてもともと軍事や工学分野であったこの技術を、経営や街、地球の課題解決に応用したのが、システムダイナミクス(≒システム思考)の祖であるジェイ・フォレスターです。
(このあたりは、システム思考の歴史(2)一般システム理論、サイバネティクス、システムダイナミクスで詳しく書いたので、お暇な時に御覧ください。)

自分を変え、まわりを変えるシステム思考

「フィードバックシステム」とは、『環境がある意思決定を行わせた結果として、その環境に逆に影響をおよぼすような行動が生まれて、それが将来の意思決定にも影響を及ぼす』(ジェイ・フォレスター)をいいます。

つまり人間は環境から影響を受けるだけではなく、環境に影響をあたえることができる存在。

自分を変えることは、まわりを変えることである。

これが夢をかなえるシステム思考の目指すところです!
進化論
この図は「目標のなし崩し」のシステム原型とほぼ同じ形をしていますが、目標を固定的なものと捉えず、目標自体も変えるという風に捉えると、必ずしもネガティブではない意味になります。

自分自身を変え、環境も変える。
硬直的になるのではなく、流されるままでもない。
これは経営学的に言うと、「センスメイキング理論」が唱えていることと同じことでもあります。
システム思考には、この複雑な世の中で生き抜くための知恵が詰まっています。

変化を進化にする具体的な方法

変化が激しい時代、その変化を察知し、把握して適応する手法が、システム開発で反復進化型開発(Iterative and Incremental Development)の最新手法である「アジャイル開発」の一連のプロセスです。
アジャイル開発は、不確かな顧客の要求を少しずつ形に変えていくための手法であり、絶え間ない技術進化に対応し続けていくための手法でもあります。

もともとはソフトウェア開発やシステム開発のための手法として開発されましたが、現在では経営や組織開発、マーケティング、あるいは学校教育にも応用されています。

アジャイル開発も様々なプロセスやプラクティスがありますが、本質的なことをいうと、「開放系」「フィードバックシステム」です。

一度しっかりした計画を定めたら、そこからは何が何でもそのとおり進めていこうとする「ウォーターフォール方式」は、「閉鎖系」で「逐次式」な手法であって、上の言うこと(設計したこと)に黙って従うピラミッド組織に向いていた手法です。
一方の「アジャイル方式」は、変化や技術的進化を自律的(自己組織化的)に取り込み、新製品や自らの組織の進化(イノベーション)へ繋げていく方法論です。
 

 
フィードバックを絶えず回すことで、様々な変化、予期せぬ出来事を、進化に変えて、製品やあるいは組織や企業そのものを最適なものにしていく。

今のような変化の激しい時代、「ダーウィン進化論」が求めること、そして上記のシステム思考のループ図を具体的に実行するための手法が、この「アジャイル経営」や「スクラム経営」です。
 

「スクラム」のフレームワーク