Zapposで社員から熱烈歓迎を受ける

  

パーパス経営で熱狂的な顧客の支持を受けたZappos

私が経営の世界での「パーパス」の威力を知ったのが、2012年に「顧客が熱狂する企業」で知られるZappos本社を訪問したときでした。

Zapposは当時からコア・パーパス「Delivering Happiness」。そして有名な「10のコアバリュー」に基づいた経営が知られていました。
Zapposを訪問し、社員と話したり、その会社の雰囲気を知ることで、「パーパス経営」の一端を知ることができたと思います。

なぜ「パーパス経営」で、Zapposが社員(従業員)からだけでなく、顧客など外部のステークホルダーからも熱狂的な支持(当然顧客獲得や売上にも直結)を得ることができたのか?

Zappos本社訪問の様子や自分の分析等は、拙書「熱狂顧客のつくり方」(IBCパブリッシング)に書きましたので、興味ある方はご覧いただければ幸いです。


 
  
 
ここでは、どのようにすれば「パーパス経営」を行えるのか、そしてアート思考の関係や関連は何なのかということについて述べてみたいと思います。

パーパス経営とは何か

「パーパス」によく似た概念として、企業理念、経営理念、あるいは社是という言葉があります。実際それぞれの言葉の意味を調べてもほとんど同じですし、目指すもの(目的)も同じと行って良いと思います。

ただあえて「理念経営」と呼ばず「パーパス経営」とする理由はなにか。そこには微妙な違いがあるのも確かです。

日本の多くの会社のWEBサイトを観ると「経営理念」「企業理念」が掲げられています。
それらの殆どは、創業者や経営陣によって定められたものです。
創業者が会社を立ち上げた想いが込められているものもあれば、最近の経営会議で決められたであろう「今風のキャッチコピー」と感じるものまで様々です。

ただ多くの場合一般社員はこの「経営理念」「企業理念」が決められたプロセスにタッチしていません。
「創業者や経営者が決定し、従業員や社員はそれに従う」というピラミッド組織の手法が、「理念」に関してもそのまま適用されているわけです。

実は、私の大学院(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科)での修士論文のテーマが、「企業理念の浸透」でした。

その論文を書く際に、様々な会社の理念の「社員への浸透策」を調査したのですが、その多くが、WEBなどで社員の目に触れてもらう、額やポスターで社内のいたるところに掲示する、中には朝礼などで社員に唱和させるなど、「まるで戦時中、あるいは某国の思想教育みたいだなぁ」と思った記憶があります。

現代の日本でこのような「思想教育もどき」がうまくいくようには思いません。
実際経営者や人事担当者なども、この理念をどのように社内に浸透させるか苦労しているようです。

そういう中で、この「パーパス経営」が注目を集めています。

パーパス(Purpose)とは、ObjectiveやGoal、Aimという単語と同じく「目的」を意味する単語ですが、その中でも「あることを行う意図・意味」というニュアンスがある言葉です。
会社が事業を行う意図や意味は何なのか。
これは、創業者や経営者だけではなく、現場の社員一人ひとりも「自分たちの仕事の意味」を考える。

単に経営理念や企業理念を「掲げる」だけでは「パーパス経営」はできないということがおわかりいただけるかと思います。

具体的にどうすれば、パーパス経営 -社員一人ひとりが仕事の意味を考え行動する経営体制- ができるのか。そのための手法の一つとして注目されているのが「アート思考」です。

アート思考とパーパス

アート作品というのは、アーティストの想いの表現であるということができると思います。

私たちが、アートに触れて共感したり感動するのは、その作品が上手いとか、テクニックに優れているというよりも、作者や演者の想い、即ちその作品の意味や意図に共感することだというのは、アートに触れたことのある人なら、「共感」していただけるのではないかと思います。

絵を鑑賞したり、音楽を聴いて共感するのと同様に、ビジネスにおいても、製品やサービスに共感するのは、その製品やサービスそのものではなくて、企画や製造したり顧客に届けたりする人の想いに共感するわけです。

だからこそ、創業者や経営陣だけではなく、顧客に触れる現場の社員やその周りの社員のパーパスが大事です。
つまりパーパス経営のためには、社員や従業員が経営者のパーパスに共感することと同時に、経営者も社員一人ひとりのパーパスを理解し共感しなければならない。

そのような「経営者と社員の一体感」が顧客も巻き込んだ「共感の循環」を創り出す。

これが「パーパス経営」です。

アート思考でこのパーパスの循環が起こる仕組みについては、2019年インドのバンガロールで開催された国際学会「Asia Oceania Systems Engineering Conference(AOSEC)」で「A Method of Art Thinking for Adapting to Systems Engineering of Utilizing Architectural Framework for Self-Organizing」の論文で発表しました。


 
 
わかりづらいと思いますが、論文に記載の図は、経営者・従業員・顧客及びそれ以外のステークホルダーを含む「パーパス(想い)の循環」を、アート思考によって起こすフレームワークです。

対話型鑑賞法(VTS for Innovation)でパーパス力を鍛える

具体的にアート思考で「パーパス力」を鍛える手法はいくつかありますが、ここでは「対話型鑑賞法」を使う方法を紹介します。

下図のように、絵の背後の意味や意図を考え議論しながら鑑賞していく方法で、このやり方を覚えると、アートだけでなく、ビジネスにおける製品やサービス・組織などの事象についても、その意味や意図を考え、共感のメカニズムの一端にふれることができるようになると思います。


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