DXって、何から手を付ければよいのかわからない?

第二次岸田内閣のデジタル大臣に河野太郎氏が就任しました。
行革大臣やワクチン担当大臣時代のような「突破力」が良くも悪くも発揮されそうです。

日本企業の経営陣も「DXをやらなければいけない」という意識だけはあるようですが、週間ダイヤモンド(6月27日号)の記事によれば、地方銀行の事例ですが「うちの経営企画は“高級文房具”に依存して思考停止に陥っている。」という状況とのこと。

トップの号令で経営計画に「DX」の文字が書き込まれ、DX担当役員を設置する地銀は増えたが、肝心の実行部隊が見当たらない。正直「『何から手を付ければいいのか分からない』のが現実」。

この「高級文房具」とはコンサルティング大手のアクセンチュアを指します。それこそ億円単位の高額フィーを支払わなければ使えない文房具。

無論「高級文房具」を使うのが悪いことではありませんが、「肉が食べたい」というとき、わざわざ銀座の最高級フレンチにいかなくても(それも決して懐が潤沢でもないのに)、とは思います。
ちょっと本気で探せば、近所でも美味しいステーキ屋さんが見つかるかもしれませんし、そもそも肉の焼き方など基本的なやり方(レシピ)を覚えれば、自分で作るのもそう難しいことではありません。

この「DXのレシピ」ですが、実は国(総務省)から公開されています。
自治体DXを進めるための指針として、「自治体 DX 全体手順書」が2021年7月に発刊されました。自治体はもちろん、企業DXでもそのまま援用できるものだと思います。

このレシピ、つまり「手順書」では、導入準備から実行まで4つのステップ(ステップ0~ステップ3)にわけて説明されています。


 
  
DX導入にあたっては、ステップ0の「DXの認識共有・機運醸成」がまず必須です。
そのためにはマネジメントのリーダーシップのもと、従業員や職員のDXに対する共通理解を形成し、実践意識を醸成しなければなりません。

そして「自分たちは何を実践するのか」という共通意識の情勢のため「サービスデザイン思考」の共有が必要であるとしています。

「サービスデザイン思考」については、2017年5月に取りまとめられた「デジタル・ガバメント推進方針」で、「サービスデザイン思考に基づく業務改革(Business Process Reengineering)の推進」を行うことと定められています。

DX導入は、サービスデザイン思考からスタートする。
これが「DXレシピ」の一番はじめに書かれていることと言えるでしょう。

サービスデザイン思考とは

上述のように、サービスデザイン思考とはユーザー(顧客、利用者)を中心に考える、業務改革のための体型・思考法です。「DXレポート2.2とDXによる収益向上の方法」で、アマゾンやベイサグループの事例でも記したように、DXによる収益向上は、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)がポイントになります。

ジョセフ・パインとジェイムズ・ギルモアは、社会や経済発展に従って、農業経済、工業経済そしてサービス経済へと進化してきた現在とこれからのステージを、「経験経済」と名付けています。
コモデティや製品、サービスといったこれまでの経済発展がたどってきた経済価値とは全く異なる消費価値として、経験(Experience)を位置づけ、「消費者は単に製品やサービスを消費するのではなく、その消費から得られる体験そのものに価値を見出す」ことを指摘したのです。
 

「モノの消費」と「経験の消費」の違い(UXデザインの教科書:安藤昌也)

 
 
私たちは今まで製品やサービスを提供する側の論理として、「良い製品をつくる」「おもてなしで顧客に尽くす」ことで、売上(収益)を伸ばすということをしてきました。21世紀の現在、それではうまくいかないことは多くのビジネスパースンが実感していると思います。

そのような状況下で昨今のDXブームもあるわけですが、その背景には、今までのような製品やサービス他社と差別化をして提供すればよかった経済から、体験を顧客と一緒に創る「経験経済」への移行があり、それに対応する「サービスデザイン思考」の共有が、DXにはまず必要とされているわけです。

サービスデザインとUXデザインの違い

サービスデザインとよく一緒に使われる言葉で、「UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン」があります。
これらは同じ意味で使われることも少なくないですし、実務上もそのような場合が多いですが、安藤昌也著の「UXデザインの教科書」によれば、サービスデザインは、UX(ユーザー・エクスペリエンス)を起点としつつビジネスとしても機能することを考慮した仕組みをデザインする取り組みと定義されています。

UXデザインも、製品・サービスだけでなく仕組みまで作る必要があるので、その意味ではUXデザインとサービスデザインには大きな違いはありません。ただし、UXデザインはよりユーザーの視点に力点をおいて詳細にデザインするのに対し、サービスデザインは、よりビジネスの視点に力点をおいて詳細にデザインを行うという点で違いがあります。

サービスデザイン思考の5原則

マーク・スティックドーンとヤコブ・シュナイダーが中心になってまとめた「This is Service Design Thinking」によれば、サービスデザイン思考の5つの原則が以下の項目です。

ユーザー中心
サービスは顧客(ユーザー)の立場から経験されるべきです。(サービスは顧客とのインタラクションで成立)

共創
サービスデザインのプロセスには、すべてのステークホルダーに参加してもらう。

インタラクションの連続性
相互に関係する複数のインタラクションを繋ぎあわせ、一連の流れを形作る。

物的証拠
形がなく、手に触れることができないサービスは、有形の物的証拠を用いて可視化する必要がある。

ホリスティック(全体的)な視点
サービスを取り巻く環境全体に目を配る。

また上記の「自治体DX手順書」でも、プロジェクトを成功に導くために必要となるノウハウを「サービス設計 12 箇条」としてまとめています。

第1条  利用者のニーズから出発する
第2条  事実を詳細に把握する
第3条  エンドツーエンドで考える
第4条  全ての関係者に気を配る
第5条  サービスはシンプルにする
第6条  デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条  利用者の日常体験に溶け込む
第8条  自分で作りすぎない
第9条  オープンにサービスを作る
第10条 何度も繰り返す
第11条 一遍にやらず、一貫してやる
第12条 システムではなくサービスを作る

サービスデザイン思考からDXへつなげるフレームワーク

これを読んでいる人の中には、「今まで日本は製品もサービスも世界最高の水準を保ってきた。なぜいまさらサービスデザイン思考といったものを始めなくてはならないのか?」と思っている人もいるかも知れません。

確かにアナログ経済の時代なら、一人ひとりの「頑張り」や「献身」といったものがストレートに業績に反映されやすく、経営陣も現場社員にそのようなものを求める傾向にありました。
しかしデジタル経済では、そういった一人ひとりの頑張り、貢献といったものを「システム」として体系化する必要があります。そのためのツールとしてITがあり、その活用でユーザーに届けることが可能になります。

しかし日本企業(あるいは自治体も)では、ITを効率化、省力化手段としてしか捉えてこなかった歴史があり、ITを活用して顧客体験を高めるノウハウを蓄積してきた欧米やアジア諸国に競争力も生産性も引き離されているのが現状です。

しかし、まだ間に合うと信じています。

なぜなら上述のように、私たち日本人一人ひとりには、製品づくり、サービス精神において、世界最高のポテンシャルがあります。

また、IT環境自体はこれも世界トップ水準にあり、パソコンやスマホを世界の度の国にも誰にも負けないほど使いこなしている。
足りないのは、それを「つなぐところだけ」と言うこともできるのではないでしょうか。

つまり、「サービスデザイン思考」を体系化、フレームワーク化して浸透させるというプロセスをすこし頑張ればいいのだと言えないでしょうか。
そしてそれをDXのプロセスにつなげていく。

私たちも、研修会社やシステム会社と組んで、DX導入のワークショップや導入コンサルティングを行っています。

日本企業(あるいは自治体)の高いポテンシャルは現場でも感じます。
それをつなぐ触媒のひとつとして、このサイトや記事も活用していただけるよう、今後も研究や実践を続けていきたいと考えています。

   


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