スペキュラティブ・デザインとは

スペキュラティブとは日本語で「思索」という意味で、課題について考えるきっかけを「提起」するデザインがスペキュラティブ・デザインです。
本来デザインは「課題解決」をするものですが、前回書いたように、顧客の課題解決を目的としている以上「行為の意図せざる結果」は避けられないという限界があります。
そのため最近「アート思考」という言葉が注目され始めているのですが、デザインの側でも「課題の提起」に対応しようとする動きが起こりました。

英国の王立芸術大学(Royal College of Art)の教授であるアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーは、デザイナーは人口問題や、地球温暖化といった、世界の諸問題を解決する人ではなく、世の中の価値や信念、態度を疑って、さまざまな代替の可能性を提示する役割を担っていると言い、いわゆるデザイン思考をAとすると、Bにあたるとする「スペキュラティブ・デザイン」を提言しました。

RCAで学んだ有名人としてアーティストのスプツニ子さんがいます。彼女の「生理マシーン(男性が生理になるアート)」はジェンダー論に一石を投じました。また「スペキュラティブ・デザイン」で紹介されている長谷川愛さんの「女性がイルカを出産するアート」は、人口問題と女性の「出産したい願望」をアートにしたものとして注目を集めています。

長谷川愛《I Wanna Deliver a Dolphin…》

このようにスペキュラティブ・デザインは「デザインの境界」を拡げるものとして注目を集めています。下図はこの本で紹介されているPPPP図です。
既存のデザインが、現在(Present)から見て、起こりそう(Probable)あるいは望ましい(Preferable)未来を考えるものであるのに対して、起こってもおかしくない(Plausible)、起こりうる(Possible)未来を射程に捉えています。

アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン』

九州大学でソーシャル・コミュニケーションデザインを研究されている池田美奈子准教授は、スペキュラティブ・デザインを「アートに寄せたデザインである」と述べています。
実際前回の記事でも書いたように、Krebs Cycle of Creativityでは「アート」は、課題の認知、すなわち問いを表現するものであり、アンソニー・ダンの定義とそれほど変わりません。

もちろんアートは、起こり言えない未来、例えばSFやファンタジーをも範疇に入ります。(もっとも何が起こりえて何が起こりえないのか区別することは困難ですが。)ただ、Krebs Cycleでいうアートはサイエンスに引き渡すことが前提ですので、この「アート思考」でいうアートとスペキュラティブ・デザインはほぼ同じことを述べているようにも思えます。

実際「スペキュラティブ・デザイン」の本に掲載されている様々な作品は、「社会課題をコンセプトにしたコンセプチュアル・アート」だと紹介しても違和感がないように思います。

スペキュラティブ・デザインはアート思考やデザイン思考、システム思考をつなぐもの

アート思考、デザイン思考、システム思考など様々な「思考法」が存在する中で、スペキュラティブ・デザインの存在価値はどこにあるでしょうか?
私は、課題の探求と解決をつなぐところに、スペキュラティブデザインの存在価値があると考えます。

アート思考は、課題がどこにあるのかを「自分視点」で探求するもの。一方で「人間中心」であるデザイン思考は顧客など「他人視点」で課題解決を図るものです。またシステム思考は、社会をシステムと捉え、一つ一つの要素のつながりに注目して、広い視野から全体最適を図りつつ、複雑な問題に対処しようとする思考法です。

スペキュラティブ・デザインは、「自分視点だけでなく、他人の視点から思索・探求する」ものであると言う点でアート思考とデザイン思考をつなぐものであり、その視点は「人類」「社会や地球全体」の視点もあるという意味では、システム思考にも通じます。
これらをつなぎ、課題の探索から解決までを「思索」する。

先が見えないと言われているVUCAの時代では、そのようなスペキュラティブな視点が今後必要となってくると思われます。

弊社のソリューションでも例えば、「事業創出/ビジネスモデルデザイン」において、社会課題を見つけることから、ビジネスとしての解決手段をデザインする過程において、思索する視点を取り入れて設計しています。


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