「価値」というのは、「豊かさ」とか「幸せ」という言葉に似ていて、何か大切そうなんだけれど掴みどころがないイメージはありますよね。
例えば「顧客価値」だの「価値を大切にしています」「価値を提供しています」「価値をつくります」と言う人に対して、「価値ってなんですか?」と聞き返すと、言葉に詰まってしまう。そんな経験ありますよね?

ここでは、そもそも「価値って何」ということ。その答えにつながるものとして、「価値は生態系の中にある」ということを述べたいと思います。

経済学では「価値は価格で表される」と言われたりします。100円ショップで買える湯呑と、一客何十万もする茶器の違いが「価値の違い」です。しかし「お茶を飲む機能」としての違いはほとんど(少なくとも値段の差ほどは)ないですよね。
創る労力の違い、材料の希少性、値段を決めるのは様々な要素がありますが、これがそうしてああなって価値=値段が決まるという公式はおそらくありません。

水とダイヤモンド、どちらのほうが価値ある?

たとえば、コップ1杯の水と、同じ量(重さ)のダイヤモンドではどちらが価値があるでしょう? もちろんダイヤですね。
しかしよく考えてみると不思議で、水は私たちに必須なもの。一日でもそれなしで生きていくことができませんし、数日まったく水を摂取できなければ生命すら維持できません。

一方のダイヤモンドは、ほとんどの人にとってあってもなくても、ほとんど生活に支障をきたすことはないですよね?
それなのに、私たちの生命に必須の水の何百万倍も価値が高い。

でももし、自分が砂漠のど真ん中に独りでいて、水筒の水も空になっているような状況だったら・・・
ダイヤよりもコップ1杯水のほうが遥かに価値は高いと思うのではないでしょうか?

マズロー欲求階層と価値の関係

このように価値の大きさや高低は、一人ひとりの状況によって異なることが示唆されます。
また、供給者側ではなく受け取る需要者のほうが価値を決めるということも明らかではないでしょうか。ここで注目したいのが、「欲求」との関係です。
すごく簡単に言えば、どれだけそれ(例えば「水」や「ダイヤ」)を欲しいと思うか、望まれているのかが「価値」と関係しているということ。

「水」は生命を維持するために必須のもの。普段は豊富にあるので気づかないですが、「砂漠の真ん中」のようなシチュエーションでは、その価値はすごく高くなります。これはマズロー欲求階層で言えば、「生存欲求」に基づく価値
また「ダイヤモンド」はブランド、人から見られたときの評価、成功といった「承認欲求」を満たす価値ですね。第三段階までの欲求が満たされているときは、この第四段階の承認欲求を満たす価値が高くなると思われます。


 
そしてマズローはこの欲求を第四欲求までの「欠乏欲求」と第五段階の「存在欲求」に分類しています。
第四段階までの欲求を満たすために提供するもの(例えば「生存欲求」のための食べ物や水)はそれが満たされれば、もう欲しなくなる性質のもの。「無くなると生きていけない」という不安や恐怖から生まれる欲求であると言えます。

一方で「存在欲求」は自分の本当の本音、魂の本質からたち起こってくるものであると言えます。これは「自分の存在意義」「生きる目的」につながるものです。
この「存在欲求」に対応する価値こそが、「本物の価値」ではないかと考えます。

自己実現(Self-Actualization)欲求の本当の意味

この第五段階にあたる「存在欲求」、一般には「自己実現欲求」と呼ばれています。自己実現は、日本語では普通「夢や目標を叶える」とか「(人に左右されるのではなく)自分らしく自由に生きる」という意味で使われますが、本来の自己実現の意味は、少しニュアンスが異なっています。

自己実現(Self-Actualization)という言葉はもともと生物学者のクルト・ゴールドスタインが創った言葉で、その定義は、「生体(生命体)と環境の交渉の特有の様式によって可能になり、全体と個の調和の中で、生体が周りの環境と調和しつつ自己の特性を実現する現実化の表現」としています。
つまりひとりでは自己実現はできない。周りの仲間であったり、愛する人であったり、パートナーであったりといった人たちと調和をしながら、自己の特性、つまり自分らしさを追求する。そのようなネットワークの中にこそ「自己実現」がある。そういうネットワークの中に「本当の価値」があると言えるのではないか。

つまりこのネットワークこそが「価値の生態系」です。

世界経済フォーラム:サーキュラー・エコノミーを実現させるための、自然界からの4つの教訓

価値の生態系をデザインするのがビジネスモデル

新規事業などビジネスを考える、あるいはビジネスモデルをデザインするにあたっても、そのような「本物の価値」を提供できるのであれば、お客様やパートナーの方々と生態系ネットワークを形作り、サスティナブル(持続可能)なビジネスを構築できるのではないでしょうか・

今注目されているサーキュラー・エコノミー(循環経済)も、そのような文脈で考えると、今後の世界経済の動きも含めて、「ビジネスの本質」「本当の価値」が見えてくるのではないかと考えています。