先週(3月19日)、国際航業株式会社の樋口悟さん、株式会社ネットプロテクションズの中堀那由太さんとオンライン・イベント『海外サッカーの最先端戦術「オーガナイズド・カオス」』を開催しました。今年の1月に樋口さんとサッカーと経営って通じるものがあるよねと盛り上がって、ちょうどネットプロテクションズさんが、岡田武史さん(元日本代表監督)率いるFC今治と「次世代育成パートナーシップを締結」というニュースがあって、3社で共同開催することになりました。

「オーガナイズド・カオス」は昨今言われるVUCA(Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧))な時代の経営に必要な考え方かもしれない、という思いからイベントを企画したわけですが、わずか数週間の間に、本当に世界がカオスな状況になるとは、まったく想像していませんでした。

コロナ禍で、イベントの中止も検討しましたが、今この「カオスな時期」こそ届けるべきメッセージだろうということで、「チームF」さんの協力を頂いて「完全オンライン」で開催することができました。
詳しくは、是非動画を見ていただきたいのですが、ここでは、このイベントを通じてテーマとなった「カオス(混乱)にどう対処するか、逆にそれをどうチャンスに変えてきたか」ということに絞って私見を交えながら述べてみたいと思います。

なぜカオスなのか

現代サッカーで「カオス」という言葉がヨーロッパを中心に言われるようになったのは、ここ10年くらいです。
ここでは、サッカー指導者や研究者が、その原点である「点を取る」ためにどうすればいいのかに改めて考えたことにあります。
それ以前は、指導者は「いかにして試合(ゲーム)を支配するか」ということを考えてきました。例えば正確なパスやドリブルを行う。ミスをしない。選手同士が連携して組織として対応する。そういった基本をしっかり行ってゲームを支配しなるべく相手にボールが渡らないようにする。このような「ポゼッション(Possession=所持)・サッカー」を目指してきたのです。

一般的に日本人はこのような「基本を大事にする」という考え方が好きです。実際ワールドカップなどの代表チームの試合でも、日本チームは「組織力」が優っているとされ、パスの正確さや連携プレーでは「世界一」という声もよく上がります。
そして多くの試合で日本代表チームはボール支配率が高く、ゲームを支配しているように見えます。しかしなかなか点を取ることができません。(決定力不足!)

そして、ボールをキープしていても、相手にボールを奪われた瞬間それまで保たれていた守備の規律が崩れあっという間に点を許してしまう。前回(2018年)のワールドカップ最後のベルギー戦の逆転負けのシーンなどはその典型でした。
あのときは日本チームの絶好のチャンスだったコーナーキックをベルギーのキーパーがキャッチしてから、わずか15秒たらずで決勝点を奪われて敗退しました。
この15秒は日本にとってはまさにカオス(混乱)状態で、相手の速攻になすすべもなかったのです。

日本がとっていた戦略である、ボールを支配してパスを重ねながら相手陣地の近くまで運んでゴールを奪うという戦略は、最終的には相手のボールを奪ってすぐ速攻(カウンター)する敵の戦略に破れたのです。言うまでもなくサッカーは、フィールドをいかに支配するかという囲碁的ゲームではなく、どんな形であれ相手のゴール(王将)を奪えば勝ちという将棋的ゲームです。

実際のデータでもこれは明らかになっていて、得点が生まれる最も多いシーンはハーフウェイライン近辺でのボール奪取からスタートしていて、奪取した人を起点にすると2~3人の素早いパスを経てゴールというのが最も有効なやり方です。(吉村雅文 順天堂大学スポーツ健康科学研究 2003年)。

これは少し考えれば誰もが納得できる話だと思いますが、こちらが攻撃して相手が守りを固めている、という状況では実はなかなか点は取れない。ワールドカップに出場する国の多くは、当然守備能力も高く、それをこじ開けるのは容易ではないのです。
しかしボールを奪ったり奪われたりというカオスの状況では、しっかりした布陣を敷く余裕がなく、その隙きをついて得点する可能性が高くなります。

日本はまさにそれでやられているのですが、そのような「カオスを支配する」=「オーガナイズド・カオス」という考え方が、現代の特にヨーロッパのサッカー戦術として主流となってきているのです。

カオスを制するものがビジネスも制す

そして、私たちが「カオス」に注目するのは、ビジネスにおいてもまったく同じことが当てはまるのではないかということです。
例えば新規事業を行う、新製品を広めるというのは、今ある市場(マーケット)を崩すとイコールですから、既存の秩序を破壊する「カオスを引き起こす」というのとある意味同じなわけです。

また、今のGAFAはどれもがパソコン革命、インターネット革命の黎明期のカオスの中で起業した企業です。日本でも岩崎弥太郎が一代で三菱財閥を起こしたのも明治維新の混乱の中ですし、ソニーや松下(パナソニック)も、戦後の混乱期にビジネスを伸ばしました。

今もカオス(混乱)の最中ですが、もしかしたら後世に残るような新たな製品やサービス、新しいビジネスモデルが生まれてくるかもしれません。
もちろんそのような混乱の時代に凋落し消え去った製品や会社のほうが遥かに多いことも間違いなく、カオスを味方につければ「絶好のチャンス」であるのと同時に、カオスに翻弄され「すべてを失う」こともあるわけです。

そういう時私たちは何をすれば、「ピンチをチャンスに変える」ことができるのか、そのヒントを探るべく、「オーガナイズド・カオス」戦術を紐解いてみたいと思います。

戦術的ピリオダイゼーション

サッカー戦術としての「オーガナイズド・カオス」に関する理論背景に「戦術的ピリオダイゼーション」があります。ポルト大学のビトール・フラーデ教授が提唱したと言われています。
ピリオダイゼーション(Periodization)とは「期間化」とか「周期化」という意味です。

サッカーの局面として、攻撃と守備があることはご存知かと思いますが、これにピリオダイゼーションの考え方を組み込むと、「攻撃→攻撃から守備への切替え(トランジション)→守備→守備から攻撃への切替え(トランジション)→攻撃」という4つの局面の周期で回っていることになります。
 
 

 
そしてサッカーにおいては、守備から攻撃への切り替え(トランジション)の際に、カオスが発生して得点のチャンスが多いことは上で述べたとおりです。

そこで、あえてカオスを引き起こして、このカオスを味方につける。これが「オーガナイズド・カオス」の考え方です。
例えば、リカバリー可能な状況を作った上で、あえて相手にボールを預けたり、ロングボールを蹴って、相手のゴールの近くでボールの奪い合いの状況をつくったりなどの戦術が挙げられます。

オーガナイズド・カオス(組織化されたカオス)とは、カオスそのものは統制することはできないけれども、カオスの中で主導権を握る為の戦略と言って良いでしょう。

オーガナイズド・カオスと経営戦略

この「オーガナイズド・カオス」や「戦術的ピリオダイゼーション」の考え方は、企業活動や経営戦略にも全く当てはまるのではないでしょうか。

今まで企業が年間計画を立てたり、販売戦略を考えたりするときも、好況か不況かといった環境要因を踏まえていたと思いますが、好況と不況の入れ替わりには必ずトランジションが発生します。その落差が激しい時(例えば1929年や1973年、1989年、2008年など)のカオスのことを「恐慌」「バブル崩壊」「○○ショック」などと呼んでいるのです。

そして今まさに起きている「コロナショック」。
ちょっと前まで、ニューヨーク・ダウは史上最高を更新し続け、日本もオリンピックに向け建設や観光などのインバウンド需要が絶好調でしたが、わずか1ヶ月の間に世界は「トランジション」しました。

そして世界各地からカオスの中での、パニックのニュースが聞かれます。身近なところでは、ティッシュやトイレットペーパーの買い占め騒動などがありました。
経済も大打撃を受けて、ニュースでも換算とした街の中で苦境にあえぐお店などの姿が映されています。

ニュースでは基本的には悪い情報しか流れませんので、「この世の終わり」と思ってしまう方も多いかもしれませんが、一方でこれをチャンスにととらえている人たちは意外に多いことも事実です。

確かに今の状況は失点のリスクは高まっているのだけれど、近年まれに見るゴールチャンスが訪れている!

ここからは私見を交え、どのようなマインドでいるべきかいくつか述べたいと思います。

1.今を戦術的ピリオダイゼーションの一環として捉える
今の状況は、決して「未曾有の困難」でも「想定外の出来事」でもありません。
リーマンショックのときも「100年に1度の不況」という言葉が飛び交ったのを覚えている方も多いでしょう。今の状況は、未曾有でも100年に一度でもなく、10年に1度は起こる状況の一つ(ピリオド)であるトランジションです。
冷静になったほうが勝ちです。

2.状況を把握し失点を防ぐ方策を取る
今の状況を捉えて、失点を防ぐ方策(フォーメーション)を取ります。
やみくもにボールを奪いに行こうとするのではなく、予想される相手のパスコースに人を配置して有効なパスを出せなくなるようにしたり、パスの受け手にマークを付けたりします。
企業で言えば、今の状況を素早く捉え、適切な資金繰り手当を行うなどの方策を取ります。政府の緊急政策でも様々な支援方策が打ち出されていますので、(デマや噂などではなく)正確な情報を入れて判断に役立てます。

そういうとき近視眼的になってしまうのが失点して負けるパターンです。システム思考的に、全体俯瞰を同時にできる視点(木も見て森も見る)が何より大事です。

3.攻撃のための方向性を見据える。
今あなたが出すパスは、攻撃の起点となるパスです。どの方向にパスを出すのかで、この先10年が決まります。
まさにアート思考的な考え方が必要ですが、今の日本で共通する点について述べてみます。大事なのは次の一点です。

・未来が一気に来る。

危機とは一気に起こる変化とも言えます。今までなんとなく思い描いていた「未来の姿」が一気に訪れるのが「危機の姿」です。
例えば、東日本大震災のときに被災地が直面した光景は、人口減少でマーケットが失われる将来の日本の姿でした。

今の状況で言えば「DX(デジタルトランフォーメーション)」が一気に進んでいます。ZOOM(動画)やSlack(チャット)の利用増加は1ヶ月前の数倍にもなっているそうです。消費関連でも百貨店が壊滅的打撃を受ける一方、Eコマースに対応した企業は空前の活況を見せているところもあります。

以前からテレワークやリモートワークに対応してきた企業が、整然と対応している一方で、慌てて取り組んで右往左往している企業も多く見ます。
変わることを拒否(あるいは表面だけでやった気になったいる)した企業が、今苦境にあります。
今の状況は、突然出現したのではなく、以前から言われてきた「未来の姿」にすぎません。

以前から言われてきたキーワードである「DX」と「自律分散」に本気で取り組んでいる企業と、とりあえず危機が去るまで、表面的にやっていればもとの形に戻るだろうと考える企業があり、おそらく後者が圧倒的に多いと思います。
でも時の流れは戻りません。
それを踏まえた少数だけが勝ち残る社会なのだと思います。

4.潜在資産に目を向けよう。
ここでいう資産とは、財務諸表でいう資産のみならず、従業員、取引先、その他のつながり、顧客、あらゆるものを含みます。今まで注目してこなかった、あるいは見過ごしているものを活用することで、あるいはつなげてみることで、新たな価値が生まれます。
このブログでもたびたび述べているCVCAなどは、潜在資産を活用し、繋げるのを可視化してくれるツールです。

もう少し詳しく、現代サッカーのカオス戦略について効いてみたいという方は、是非下記リンクから動画をご覧いただければと思います。
ご自身のビジネス等にヒントになれば幸いです。