CVCAとは何か?

CVCA(Customer Value Chain Analysis -顧客価値連鎖分析-)とは、スタンフォード大学のKrista Donaldsonや石井浩介氏らによって考案されたビジネスモデルデザインのメソッドの一つです。
 
Donaldsonさんは、デザイン思考の提唱で有名なIDEO出身者で、米国国務省スタッフとしてイラクの復興に活躍したり、アフリカ(ケニア)での様々なプロジェクトのエンジニアリングプログラム、あるいは新生児を病気から救う治療法や画期的な義足の開発を主導するなど、多岐な分野で活躍している社会起業家です。
また石井浩介さんは、慶応SDMの立ち上げに重要な役割を果たした方でもあります。

ビジネスで想定されるステークホルダーを洗い出して、ステークホルダー間の価値の流れ、お金や製品、情報などの流れを描いて、この価値の流れを可視化することにより、ビジネスモデルをデザインしたり、チェックをしたりすることができます。

ビジネスモデルキャンバス(BMC)も、同じような目的で使うことができます。ビジネスモデルキャンバスは、フォーマットがきっちりしている分、既存のビジネスモデルや、ステークホルダーの種類が少ない比較的単純なビジネスモデルのチェックには使いやすいツールです。

一方ステークホルダーの種類が多い、あるいは今までと違う新たなビジネスモデルを構築するためには、制約なく自由に描けるCVCAのほうが、発想が広がりやすいと思います。

例えば、製品の潜在的なニーズを知るために、自分とは直接取引のない顧客のその先のユーザーのことを考える際、ビジネスモデルキャンバスでそれをわかりやすく描くのは結構難しいですが、CVCAでは簡単に描くことができるので、それを基に独自の売り方を考えるといったことが可能です。

ミシュランがレストランガイドをつくった理由

まず、世界を代表するタイヤメーカーであるミシュランの有名な事例に基づいて考えてみたいと思います。
この会社は1889年にアンドレとエドゥアールのミシュラン兄弟によって創業され、当時発明されたばかりの空気入りタイヤを実用化し成功を収めました。
直接の顧客は自動車メーカーですが、ビジネスの成功は自動車がどのくらい普及するかにかかっています。

そこでミシュランが考えたのが、顧客の顧客であるユーザー、自動車の愛好家を増やす戦略。
当時はもちろん車自体普及しておらず、車を何に利用するのかまだわからない時代。そんな中ミシュランは「車を利用したいシーン」を提案しました。

それは今風に言えば「休日には家族でドライブしよう」という提案です。
今だったら、テレビCMで、家族とドライブを楽しむ映像を流して、「モノより想い出」みたいなキャッチフレーズを映すところですが、まだTVどころかラジオCMもない時代。

彼らは、ドライブの目的としての郊外のホテルやレストランを紹介するガイドブックを発行します。これが今なお続く「ミシュランガイドブック」です。

タイヤメーカーが何故レストランガイドを発行しているのか、今では理由も考えずにガイドブックを片手にレストランを物色している人も多いと思いますが、下図のCVCAを見れば、一目でミシュランの戦略を理解することができるのではないでしょうか?

ミシュランのCVCA

ミシュランのCVCA

東急のお手本になった阪急電車

他にもCVCAの事例をいくつか紹介しましょう。

ミシュランの躍進とちょうど同じころ、遅れて近代化の始まった日本。ようやく東京や大阪といった都会がつくられましたが、一歩郊外へ出ると、のどかな田園風景が広がっている時代。

ちょっと前に映画のタイトルにもなった大阪郊外を走る阪急電車。20世紀初頭はまだ箕面電気鉄道といって、近隣の温泉街へ向かうために造られたローカル路線でした。1907年に経営者となった小林一三は、電車の利用者を増やすため、イギリスの田園都市構想を参考に住宅地開発を行って沿線人口を増やす戦略をとります。

そして沿線住民が電車に乗る理由をつくるための戦略が、終着駅(ターミナル)に住民が行きたくなるような施設を創ること。それが、阪急梅田駅に建てられた世界初のターミナルデパートである阪急百貨店と、もう一方の終着駅に造られた宝塚劇場です。
この戦略もCVCAで描けば、一目でわかるかと思います。

阪急電鉄のCVCA

阪急電鉄のCVCA

ちなみに小林一三の“弟子”が東急の五島慶太で、阪急の戦略を真似て東京で行ったのが、渋谷の都市開発と田園都市線の沿線開発であるのはよく知られています。(ぜひCVCAで「東急の戦略」も描いてみてください)

Appleのエコシステム戦略

100年以上昔の事例が続いたので、もう少し最近の事例もCVCAで描いてみたいと思います。
1990年代倒産の縁にあったAppleをたった数年で立て直し、2011年には時価総額世界一にまで躍進したきっかけの製品が、iPodだったのはご存知かと思います。

しかしiPodは、MP3プレーヤーとしては、後発製品に過ぎません。
それがなぜ世界を席巻するまでの製品となったか。
スティーブ・ジョブズがとった戦略は、iPodを単なる音楽再生プレーヤーとしてではなく、音楽のエコシステム・プラットフォームの端末と位置づけたことでした。
それがiTunesです。

AppleのCVCA

AppleのCVCA

Appleは、多くのレコード会社と提携して、iTunes Storeを開設しました。楽曲のダウンロード販売を行い、iPodそしてその後続商品であるiPhoneの利用価値を高めたのです。

これら3社のビジネスモデルからわかることは何でしょうか?
ビジネスの成功のために必要なことは言うまでもなく、自社の製品やサービスを顧客に使ってもらうことですが、そのためには顧客が自社製品(サービス)を利用したくなる仕掛けづくりをする。
これら3社はそれに優れていたから成功することができたのがお分かりいただけるかと思います。
そして、それを一目でわかるように可視化できるツールが、CVCAです。

ステークホルダーを配置し、そのつながりや欲求を考えかつ可視化することで、今までにない独自のビジネスモデルをデザインするツールとしても有効に活用することができます。

CVCAからビジネスモデルデザインへ

このようにCVCAはステークホルダー間の価値交換デザインを描くことができますが、このダイアグラムをさらに時系列で描くダイアグラムに変換すると、製品やサービスの構築から顧客に届けるまでのビジネスの流れを捉えることが可能になり、いつ、誰が(誰に対して)、何をするかを「モデリング」をすることができるようになります。

このように一貫して構築できる流れに基づき、さらに変化する環境に対応しながら、アジャイルにデザインするビジネスモデル構築手法が、弊社で開発された「ICONIX for Business Design」です。

昨年この手法について発表した論文が、日本ビジネスモデル学会で採用され、2021年発行の学会誌に掲載されました。

さらに弊社では、AIの機械学習モデルを使って様々なアイデアの収束から今回のビジネスモデルの構築支援までをおこなうイノベーションテック・ツール「Blue Logicをリリースしています。
 
 

ICONIX for Business Design

 


日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催


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