破壊的ビジネスモデルとは

破壊的ビジネスモデル(Disruptive Business Models)とは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)研究の第一人者である、コロンビア大学経営大学院教授のデビッド・ロジャースの著書The Digital Transformation Playbook(邦題:DX戦略立案書)で示された概念です。
 

 
 
デジタルの登場、DXの推進で、「破壊的」なビジネスが次々と出現しています。
デジタルカメラは、製品が市場に投入されて10年足らずの間に、カメラフィルム産業最大手のイーストマン・コダックを倒産させ、富士フィルムも事業の大幅転換を余儀なくされました。
Amazonは、リアルの店舗を次々と閉店に追い込みました。Airbnbによってホテル産業も大きな影響を受けました。
Netflixもテレビ局や映画など既存の映像産業の転換を迫っています。

iPhoneに始まるスマートフォンは、日本の携帯電話産業を一掃しましたが、Youtubeや上記のNetflixなど動画受信機としての機能という面で、それまでTVなどのAV製品などで世界の市場を独占し、日本経済を自動車産業とともにリードしていた電機産業ひいては日本経済そのものも破壊したとも言えます。

今業界最大手の大企業も、数年後には潰れるかも知れない。それも相手は今のライバルではなく、まだ見ぬ企業に「一人勝ち」されてしまう。それが破壊的ビジネスモデルの恐ろしさです。

また逆に言えば、これほどチャンスの時代はないとも言えるわけで、欧米諸国だけでなく、今まで貧しい後進国とされていたアジア、アフリカからも新しい産業や世界的な企業も生まれつつあります。

唯一日本が「一人負け」で、この流れに取り残されているように見えるのが残念ですが。

「破壊的」の意味とクリステンセン「破壊的イノベーション」の誤り

上述の著書をもとに「破壊的ビジネスモデル」を定義すると以下のようになります。

「既存の企業では直接競争できない方法で、はるかに大きな価値を顧客に提供するビジネスモデル」

ロジャース教授は「破壊的」という言葉を「イノベーティブ」や「革新的」とは区別しています。

どんなに革新的な手法であれ、単に既存ビジネスに利益を上乗せするだけのものは「破壊的」ではありません。Googleなどが開発している「自動運転システム」は、Google自身が自動車を創って市場を支配するなら「破壊的」ですが、今のところ既存の自動車メーカーの車に搭載するようで、これは既存の企業にとっても利益の機会になります。

また「革新的なビジネスモデル」で取り上げられた事例で有名なものに、ベストセラーになった「ブルーオーシャン」の冒頭で紹介された、サーカスと演劇を組み合わせ、ハイブリットなエンタテイメントを生んだ「シルク・ド・ソレイユ」があります。

ただし「シルク・ド・ソレイユ」は、既存のサーカスも演劇も破壊せず、新たな市場空間を切り出しただけです。(2020年、シルク・ド・ソレイユは経営破綻)

「破壊的」というとクリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で著した「破壊的イノベーション」を思い浮かべる人も多いと思います。

クリステンセンによれば、イノベーションには2種類あって、「漸進的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があります。

破壊的イノベーションは、既存の枠組みの外から生まれ、これらの新製品は、性能と機能で現行製品に劣るものの、安かったり、既存の製品を利用できない人にアクセスしやすい製品を提供します。既存企業はそのような製品のことを当初は無視しますが、新製品の水準があがると、その安さやアクセスの良さに顧客は、一気に新製品にシフトしていきます。

そして昔ながらの製品やビジネスモデルから脱却できない既存企業は、競争は無理だと感じ急速に衰退する。

このような事例は、コンピュータのハード・ドライブ、機械的ショベル、製鉄所など多くの業界で起きたことと合致しています。

ただし、この「破壊的イノベーション」理論は、価格や性能、アクセスの良さといった特性がわかりやすいBtoB市場では合致するものの、消費者向けのBtoC市場には当てはまらないとする意見も多いといいます。

クリステンセンがiPhone登場時にインタビューされたとき、「Appleはノキアのような既存の携帯電話機器メーカーの脅威にはならない」と述べたのも有名なエピソードです。

彼によればiPhoneは、携帯電話機の持続的で漸進的なイノベーションに過ぎず、彼のイノベーション理論では、漸進的なイノベーションに過ぎないとしました。

実際、iPhoneの機能自体、それまでの携帯電話(例えばiモード)と比べて、技術的にブレイクスルーがあったわけでもないですし、価格も安くない。

「iPhoneは真の意味で破壊的ではありません。過去の歴史に照らせばiPhoneが成功する可能性は低いでしょう」とクリステンセンは言ったそうです。

実際にはクリステンセンの予言とは反した形で歴史は進んだわけですが、ロジャース教授によれば、これはクリステンセンが勇み足であったとか、理論の応用を間違えたのではなく、「破壊的イノベーション理論」は、普遍的なイノベーション理論の「特殊解」であるからだといいます。

以下、この普遍的な理論について述べていきたいと思います。

破壊のビジネスモデル理論とは

ロジャース教授の理論の起点は、ビジネスモデルこそが破壊を考察する最上のレンズだということです。
上述のNetflixやAirbnb、Appleなど「破壊者」の多くは、新型ハード・ドライブや機械式ハードショベルのような抜本的に新しいビジネスを発明したわけではなく、既存の技術を新たなビジネスモデルの設計に活用しているとするものです。

ロジャースによるビジネスモデルの定義は、「企業がどのように価値を創出し、市場に提供し、引き換えに価値を得るかを説明して全体像をしめすもの」です。

ビジネスモデルの構成要素として、オスターワルダーらが示した9つの要素(顧客セグメント、価値提案、販路、顧客関係性、収益源、経営資源、業務、パートナー、コスト構造)や、クリステンセンらが示した4要素(顧客価値提案、収益の方程式、経営資源、プロセス)が知られていますが、ロジャース教授によれば、2つの側面から分解できるといいます。

それは、「価値提案」と「価値ネットワーク」の構築です。

つまりそのビジネスモデルが「破壊的」であるかどうかは、この2つの要素が既存ビジネスと比べ圧倒的に差があるかどうかにかかっていて、どちらかひとつでもそれほど差異はないのであれば、そのモデルは破壊的ではない。と判断ができます。

Airbnbのような安く、地元の人とのふれあいなどローカライズされた価値提案は既存のホテルチェーンにはできないですし、そのマッチングシステム自体は大した技術無くても真似ができますが、既存の資産を持つホテルチェーンにとって、ビジネスとしてとても真似はできません。つまり価値提案、価値ネットワーク両方で圧倒的な差異が、Airbnbのビジネスモデルを破壊的にしている要素といえます。

iPhoneの価値提案として、そのデザイン性、初心者でもすぐに扱えるタッチパネルの操作性があります。同時に、アプリのネットワーク、iPodから受け継いだ、レコードレーベルと組んだ音楽ネットワークなど「価値ネットワーク」も圧倒的なものがあったわけです。

破壊的ビジネスモデルの対処方法

破壊的ビジネスモデルに対し、既存企業が取れる手段は2つあります。
1つは、その企業を買収する。もう一つは、自分自身で破壊的ビジネスモデルを構築する。

前者の例として、WhatsAppやInstagramを買収したFacebook(Meta)があります。テキストを中心とした交流サイトで世界ナンバー1になったFacebookに対し、次は音声SNS、画像SNSが脅威になることは明らかでした。そこで、これらの企業を積極的に買収していきました。AmazonやGoogleも同様ですね。
後者の例は、フィルム市場の喪失の中で、既存の技術を活用して、医療、化学、化粧品など新しいビジネスモデルを開拓した富士フィルムがあります。

守りの側に立つ既存企業、あるいは攻め入る側のベンチャーに両方にとって、そのビジネスモデルが破壊的かどうかの判断、あるいは破壊的ビジネスモデルを構築するにはどうすればいいかについて、「破壊的ビジネスモデル構築」の手法を知れば対処を考えることが可能です。
そのビジネスモデルが、自分の顧客への「価値提案」としてどうなのか、「価値ネットワーク」が築かれているのか、既存のものと比べて両方ともどれほど優位にあるのかで「破壊度」を測ることができるわけです。

破壊的ビジネスモデル構築のフレームワーク

最後に、破壊的ビジネスモデル構築のフレームワークを紹介したいと思います。
まず「新たな価値提案」に関してですが、既存のビジネスモデルの枠を超えて、新たなビジネスを構築するには、「知の探索」が必要です。
これは、ダイナミック・ケイパビリティの「センシング(sensing)」と同じ概念であることは、「ダイナミック・ケイパビリティとアジャイル経営」でも述べたとおりです。

もちろんやたら広げればいいというものではないですし、顧客にとっての価値に相当するものである必要があります。
これには「バリューグラフ」のフレームワークがフィットするでしょう。
バリューグラフは、例えていうと、「視界を広げるためには、高いところに上ってみよう」というフレームワークです。
抽象度を上げて俯瞰することで、広い視界を得ることができる。
そうすると代替案や革新的な製品案を考えるのが容易になります。

バルミューダのバリューグラフ

バルミューダ製品のバリューグラフ

   
また、抽象度を上下させる訓練として、アート思考ワークショップで行う「対話型鑑賞法」もお勧めです。

そして、価値ネットワーク構築のためのフレームワークは、CVCA(顧客価値連鎖分析)があります。

CVCAで独自のビジネスモデルを構築する」の記事で述べたように、価値ネットワークの可視化に優れたフレームワークだと思います。
 
AppleのCVCA

AppleのCVCA

 
 
ぜひこれらのフレームワークを活用して、「破壊的ビジネスモデル」していて頂きたいと思います。

また、下記ワークショップでも、これらのフレームワークを活用してビジネスモデルのデザイン、フレームワークの連携を学ぶことができると思います。

日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催