未来資産とは

未来資産、聞き慣れない言葉かもしれないですが、私も陰ながら応援しているフィッシャーマン・ジャパンの「『未来資産』としての水産資源と水産業のポテンシャル」の記事を読み、この言葉に惹かれました。

上記記事では、「未来資産」の反対語を「座礁資産」と表現していました。
これから脱炭素化が進む社会となると、石油資源や天然ガスも今でこそ価格高騰がニュースになっているけれど、そのうち価値が無くなるかもしれない。(その方向に社会は向かっています。)
一方で、農業や畜産業とは異なり大量の真水を必要とせず、適切な資源管理を行うことで自然の力で増やしていくことができる海の魚は「未来資産」として捉えなおすことができる。

「未来資産」とはこれからの価値を生むもの。水産業で言えば「沖合にいる魚たち(水産資源)」がそれにあたるわけですが、私たちも自分の周りの資産を「未来資産」と捉え直すことで、ビジネス・イノベーションにつなげたり、新たな価値創りに生かすことができるのではないでしょうか。

「事業創出」「価値づくり」「ビジネスモデリング」とはどれも、「未来資産」を顕在化させて社会に提示すること、世の中に広めていくことと捉え直してみる。

「知識」「経験」「スキル」あるいは目標や夢などを将来の売上に結びつけ、サスティナブルな事業につなげること。これが「未来資産」としての大事な概念かもしれません。

これから価値づくりをしていこう、ビジネスを創出していこうとしている人や企業は、まず自分や自分たちの持っているものを「未来資産」として捉え直し、さらにそれを価値や収益に転換するという2段階の戦略を持つことが必要になると考えます。

なぜ資産は「座礁資産」となるのか

資産を「未来資産」と「座礁資産」に分けているものはなにか。
例えば、上述した「水産資源は未来資産」「化石燃料は座礁資産」とはどうしてそうなるのでしょうか?

私達はふつう、ものや資産の価値は「どれだけ必要なものか」とか「役に立つものか」で決まると思いがちです。

もちろんそれも間違いというわけではありませんが、それだと人間が生きていくために何より必要な水よりも、何も役に立たないダイヤモンドのほうがなぜ高い値段、つまり高い価値を持っているのか説明ができません。

それを説明するのが19世紀末の近代経済学で生まれた「効用」という概念です。「希少性」と言い換えても近い意味になると思います。
水がタダみたいに安いのは、私達の周りにふんだんにあるからで、もし砂漠の真ん中に取り残されて死にそうになっているときに、ダイヤモンドとコップ一杯の水どちらを取るかと言われたら勿論後者でしょう。


  
なぜここで効用の話を持ちだしたかというと、今の社会「便利なもの」「役に立つもの」は大量生産システムのおかげで効用は下がる、つまりものや資産の価値は今の世の中どんどん下がってしまう「座礁資産化する宿命」にあるからです。

そこで今までは、「差別化」が大事だとマーケティングの教科書でも言われてきました。しかし差別化のために「より便利なもの」「他より役に立つ」機能を加えても結局は同じことです。
「より便利な資産→普及→効用の低下→座礁資産」のサイクルが早くなるだけだからです。

未来資産をつくるアートの力

最近言われているのが、「便利」「役に立つ」より「意味」を考えようということ。
ダイヤモンドは、正直持っていても何の役にも立たないけど、持つ人にとって「意味」があるからあれほど高い価値を持っている。
山口周氏がよく例に出しているのが、日本の車とイタリアのスポーツカー。
スポーツカーなど持っていても、日本の公道ではほとんど役に立ちませんが、日本製の便利で精密で頑丈な車に比べ、何倍も価値を持っています。

父親はたくさんの経験と技術を持っていて役に立つ存在ですが、何もできない赤ん坊に比べれば価値がないのも、家庭内での意味がない存在だからですね(笑)。

普通の資産も「意味」を明らかにすることで、価値を生み、「未来資産」となる。
冒頭のフィッシャーマン・ジャパンの話も、「地球環境」「脱炭素」という意味の軸で考えるから「水産資源は未来資産である」と言えるのです。

また、座礁資産も意味を捉え直すことで、未来資産ともなります。

デジタル時代に座礁資産となった写真フィルム加工というナノテクノロジー技術を、化粧品や医薬品などに応用して会社を再生させた富士フィルム。
「くっつかない接着剤」というどう考えても座礁資産にしかならない技術を、意味を捉え直すことで会社史上最大のヒット商品にした3M。

その接着剤を使った大ヒット商品の名前は・・・・もうお解わかりですね?「ポストイット」といいます。
 

 

そのような中でも、何も役立たないのに「意味」だけで限りなく高い価値を持っているものの極値が、「アート作品」ではないでしょうか。

自分や自分たちの持つ資産を「未来資産」として捉え直すためには、アートの思考法(アート思考)を身につけることをお勧めします。
アートの定義そのものが、「具現化された意味」(Embodied Meaning)だからです。

具体的な手法としては、対話型鑑賞法(VTSI)のフレームワークがありますので、是非取り入れて、ご自身のいわば潜在資産を「未来資産」に変えてみてほしいです。

対話型鑑賞法の例

 
 

未来資産の価値化に必要なフレームワーク

アート思考の活用で、ご自分や自分たちのもの(資産)、技術や知識などを未来資産とすることができますが、それを「価値あるもの」あるいは「収益化」するためには、それだけで十分ではありません。
なぜなら、「価値」というのは自分ひとりで創れるものではなく、売り手と買い手のような人と人との間で生じるものだからです。

アート作品でも、それに値がつく、つまり価値がつくのは、アーティスト一人でできるのではなく、アーティスト、キュレーター、批評家、メディア、美術商や美術館など、アートを取り巻く「アート・ワールド」と呼ばれるエコシステムがあるからです。

ビジネスにおいても、商品やサービスの価値が生まれるのは、自分自身からではなく、エコシステムの中においてであることを認識し、さらに可視化する。そうすれば未来資産の価値づくりができるかをデザイン(設計)することもできるようになります。

例えばCVCA(価値連鎖分析)のようなシステム思考のフレームワークは、自分を取り巻くエコシステムを可視化することで、新たなビジネスモデルを創出したり、イノベーションを起こすために役立てることができます。

ミシュランのCVCA

CVCAの例:ミシュランのビジネスモデル

 
日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催

対話型鑑賞法やCVCAなどを含むアート思考、デザイン思考、システム思考を一気通貫で学習するワークショップ