プラットフォームのビジネスモデルとは

DX(デジタル・トランスフォーメーション)隆盛の現在、プラットフォーム・ビジネスに注目が集まっています。

デビッド・ロジャーズ教授(コロンビア大学経営大学院)が著した、DXの教科書「DX戦略立案書」では、デジタル時代の競争戦略として、あらゆる産業分野で協力の役割を変化させている非対称的な競合他社に対する対処の仕方を学ぶ必要があると述べています。

今までの「競争戦略」とは、差別化をすること。業界内で競合他社とどのように差異を見せるか。その差異がブランドになるという、比較的単純な戦略で済みました。

しかし現在では「非対称な競合」を考える必要があります。

フジテレビの競合はTBSや日本テレビではなく、YouTubeやNetflixなどの動画プラットフォームであったりします。また、トヨタ自動車のライバルは日産やホンダではなく、テスラであり、もしかするとGoogleやAppleなどの自動運転システム会社になるかもしれませんし、法律家の競合は、他の弁護士や司法書士ではなく、人工知能という時代です。

そして以前の競争戦略と違うのは、これらの競合は、仕事を奪われる競争関係にあると同時に、補完し合える協力関係・共創関係にもなりえることです。そしてそうしていかないと、このDX時代に生き残れません。

競争と共創を合わせて考える、非対称な競合戦略で大事なキーワードが、「プラットフォーム・ビジネス」の戦略です。

インターネットに押される米三大テレビネットワークは、今までの競争相手同士が共同で、デジタルプラットフォームのHuluを創設しました。(日本だとTVerでしょうか。)
上述の自動運転車でも、GoogleやAppleは既存メーカーの競合というよりも、共通のプラットフォーム構築に舵を切っています。

製品やサービスのことを考えるだけではなく、プラットフォームを構築する戦略がますます重要になっていることを理解しなければならないと考えます。
 
 

 
Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftといった世界の時価総額トップ企業は、殆どがプラットフォーム・ビジネスの企業です。
また新興企業で誰もが知る、Airbnb、Uber、Netflix、Paypalなどは、既存の大手企業(ホテル、タクシー、テレビ局、銀行)をあっさりと凌駕しました。

プラットフォームの波は、ネットの世界にとどまらず、製造業でもシーメンス、日立、コマツなどはプラットフォームを構築してライバル企業に差をつけています。

このようなグローバル企業だけでなく、ニッチな分野でプラットフォームを構築している例も数多くあります。

ビジネスプラットフォームを構築するのは、(他の業態と比べ)比較的小さい投資で行うことができます。一方でひと度基盤を構築すると、ネットワーク効果が働き、他の追随を許さない参入障壁を築くことも可能です。

このあたりの理論と実践については、最近東芝の社長に就任した島田太郎氏(シーメンス出身)の著書「スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX」(日経BP)に詳しいので、ご興味ある方はお読みいただけたらと思います。


 
  

プラットフォーム・ビジネスの定義

プラットフォームとは「場」「基盤」という意味です。電車駅のプラットフォームは、乗客が電車に乗り降りしたり、乗り換えたりするための場であり基盤ですね。

様々な意味でこの用語は使われますが、プラットフォーム・ビジネスの定義は、「複数の異なるタイプの顧客の、直接的な相互作用を促進することで、価値を作り出す事業」です。

「異なるタイプの顧客」とは、プラットフォーム・ビジネスでは、売手と買手、ソフトウェア開発者と消費者、商業者とカード保持者と銀行といった、立ち位置が異なる複数の顧客(ステークホルダー)が必要であるということです。

スカイプやZoom、FAXや電話など通信ネットワークも複数の顧客をつなげますが、これらは同じタイプの顧客をつなげるビジネスなので、ここで言うプラットフォームにはなりません。
異なる立ち位置の人々を一同に集わせることで、それぞれが異なる役割を果たし、さまざまな価値が授受されるところにプラットフォームのダイナミクスが生まれます。

また、「直接的相互作用」は、上記の異なる立ち位置の人々が、一定の独立性を保ちつつ、直接やりとりすることです。普通のビジネスでの仕入れと販売のように、プラットフォーマーは、直接指示をするなどの介入は行いませんが、取引が活発に行われるよう「促進する」ための仕組みを整えるのが大事な役割です。

既存ビジネスをプラットフォーム・ビジネスにする

代表的なプラットフォーマーの中には、Airbnbのように、初めからプラットフォーム・ビジネスとして立ち上げたもの、Amazonのように、仕入れて商品を販売する通常のEコマースサイトと、Amazonがプラットフォーマーとなって、販売者と消費者が直接取引をするマーケットプレイスと並列するもの、コマツのLANDLOGのように、当初は自社で活用するデータ管理システムをオープン化して、プラットフォーム・ビジネスに移行したものなど様々なケースがあります。

「建設生産プロセス全体をつなぐ新プラットフォームLANDLOGの共同企画・運用を決定」(コマツ)

 
 
ここでは、既存のビジネスをプラットフォーム化するやり方について述べていきたいと思います。

まず大事なポイントは、既存ビジネスを一気にプラットフォーム化する必要はないということです。

「プラットフォーム・ビジネス」の定義通りにビジネスモデルを構築すること自体は、目的ではありません。プラットフォーム・ビジネスの要点を知ったうえで、それをどのようにビジネスに生かしていくかを考えるのが、競争と共創を自社ビジネスに活かす唯一の方法だろうと思います。

例えば、一世を風靡したアイドルのAKBグループ。

AKBビジネスは、プラットフォーム・ビジネスとは見られていませんが、その要素をうまく(おそらく無自覚に)取り入れたことによって、一時はチャート上位を独占するほどのブームになりました。(しかし、その無自覚性が落とし穴にもなりましたが。)

関係記事:NGT48事件からわかる、AKBのプラットフォームビジネスとしての本質とその限界
 
 
もうひとつのポイントは、「自律組織」「自己組織化」、つまり複雑系への理解です。

プラットフォーム・ビジネスが成功するには、顧客(ステークホルダー)の「直接的な相互作用を促進する」ことが必要です。
そのためにはプラットフォーマーは個々の取引に介入するのではなく「場」に徹し、その「場」の上で「創発」が起こるようにする。つまり「自己組織化」が起こるようにしなければならないのです。

そのためには「自律組織」など複雑系の仕組みへの理解が不可欠です。

この仕組みの構造と、現実に成功と失敗をした事例として、NTTドコモのケースがとても参考になると思いますので、ご参照いただければと思います。

関係記事:NTTドコモがプラットファーマーになれなかった理由
 

プラットフォーム・ビジネスのためのフレームワーク

自社ビジネスをプラットフォーム化するフレームワークとしては、顧客価値連鎖分析(CVCA)Layer Stuck Ecosystemの2つが良いと考えます。

CVCAの詳細は関係記事をご参照いただきたいのですが、ここにあげた3つの事例はどれもプラットフォーム・ビジネスをうまく取り入れて成功していることがわかると思います。

関係記事:CVCAで独自のビジネスモデルを構築する

例えばミシュランタイヤは、いうまでもなく車の部品メーカーで、基本的にはプラットフォーム・ビジネスをしているわけではありません。
しかし、ミシュランガイドという「カーライフを楽しむというプラットフォーム」の上にタイヤという製品があると、自社のビジネスを捉えなおすことで、世界的なビジネスを築くことができた事例だと思います。

ミシュランのCVCA

ミシュランのCVCA

 
 
同じように、阪急は「沿線住民の暮らしを豊かにするプラットフォーム」として電車の役割を捉えなおし、「様々な音楽を提供するプラットフォーム」としてのiPod、iPhoneという位置づけが、Appleを世界一の企業へと躍進させました。

「Layer Stuck Ecosystem」については、「コロナ禍でビジネスモデルを転換するための方法論」を参照してください。実はこれも東芝社長の島田太郎氏の講演録で知ったフレームワークです。
 
 

 
東芝も大変な状況ですが、東芝のみならず全ての日本企業が「プラットフォーム・ビジネス」戦略の活用で浮上し復活することを願ってやみません。

私たちもCVCAやアジャイルの活用など、独自のビジネスモデルを構築するワークショップやコンサルティングを通じて、貢献することを今後も続けていきたいと考えています。


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