現在のこの複雑な世界を覆っている様々な課題の解決。その中で翻弄される個人の夢や目標の達成。

このためには世の中をシステムとして捉え、その課題解決を図る『システム思考』が必要です。
しかしながら、これほど便利で有益なツールを世間のほとんどの人達が、その存在すら知りません。
これはすでに知っている者にとって、大きな差別化、アドバンテージがあるというメリット(?)があるとも言えますが、別の言い方をすると非常にもったいない。
システム思考の奥はもちろん深いとは言え、米国では小学校のカリキュラムにも取り入れられていることからも解るように、とっつきづらいとか、高度な知識や能力を必要とされるものでもありません。

その要因はネーミングのせいかもしれません。

おそらく多くの人にとって、システムと言う言葉はよく聞くけれども、あまり親しみやすい言葉ではないと思います。
コンピュータやITの仕事をしている人、エンジニアなど機械相手に仕事をシている人の言葉であって、一般の我々には関係ない。
「システマティック」は、体系的とか計画的とかいう意味の言葉ですが、自動とか硬直あるいは「血が通っていない」というイメージを持っているのではないでしょうか。
システム思考のもととなる、一般システム理論を打ち立てた、フォン・ベルタランフィは生物学者であることからもわかるように、実は「血が通っている」言葉です。

日本語の辞書で、「システム」をひくと、
1 制度。組織。体系。系統。
2 方法。方式。「入会のシステムを説明する」
3 コンピュータを使った情報処理機構。また、その装置。コンピュータシステム。
となります。(デジタル大辞泉)

この意味から「システム思考」という意味を想像すれば、何かお硬い、コンピュータ用語のようだと思うのも無理はないのかもしれません。

日本でシステムと言う言葉が普及したのは、おそらく戦後、オートメーションやコンピュータ導入に伴ってのことだろうと想像します。だから上述のような意味で使われたのでしょう。

Systemを英英辞典で調べると、次のようになります。
1. instrumentality that combines interrelated interacting artifacts designed to work as a coherent entity
(相互に作用するよう関係する物を組み合わせた手段)

2. an ordered manner. orderliness by virtue of being methodical and well organized
(順序付けられた方法。組織的かつ組織的であることによる秩序)
3. the living body considered as made up of interdependent components forming a unified whole
(統合された全体を形成する相互依存的な構成要素から構成される生命体)
4. a group of physiologically or anatomically related organs or parts
(生理学的または解剖学的に関連する器官または部品のグループ)
5. a complex of methods or rules governing behavior
(行動を支配する方法やルールの複合体)

国語辞典と英英辞典を比べてみると、決して日本語訳は間違ってはいませんが、微妙なニュアンスの違いがあることがわかると思います。

このサイトでも明らかにしているように、システムの意味は「相互作用する要素の複合体」であり、日本語辞書で言う制度や組織、方法や方式、そしてコンピュータの情報処理機構も、この元々の意味から派生したものであるに過ぎません。

たまたま英英辞典の言葉にもあるinstrumentalは、器官とか手段という意味ですが、おそらく多くの日本人が、楽器、あるいはボーカル(人の声)のない演奏という意味だと捉えているのと一緒です。

日本語に訳した言葉に基づけば、システム思考は、「組織思考」「体型思考」「方法思考」となってしまい、本体の意味とは異なって伝わってしまいます。

このあたりが、システム思考がなかなか日本で浸透しない原因のような気がします。

システム思考は生態系思考

おそらく日本語のニュアンスでもっとも本体のシステム思考に近いのは、「生態系思考」ではないかと思います。先の辞書では生態系とは「ある地域に生息するすべての生物群集と、それを取り巻く環境とを包括した全体。エコシステム」と説明されています。
企業や家庭、地域社会などを含めた「人間社会」はすべて生態系ですので、この言葉のほうがニュアンスを伝えられるかもしれません。

ピーター・センゲの「The Fifth Discipline 邦題:学習する組織」でもシステム思考で必要なことをSeeing the Forest and Trees (木々も見て森も見る)と言っています。
日本語でも「木を見て森を見ず」という言葉があり、物事の一部分や細部に気を取られて、全体を見失うことを戒めていますが、単に空間的な視野を広く持とうと言う意味ではなく、森の中の様々な生物同士あるいは空気や雨や太陽などの環境との関係性や相互作用を考えるという意味で使われます。

例えば、森の中で人々が歩きやすいように、下草や雑草を刈ってきれいにしてしまうと、木々の栄養のもととなる腐葉土が無くなったり、虫がいなくなって植物の交配ができなくなって、森がなくなってしまう。
これが生態系に起こることです。

昨日の解決策が今日の問題点を生むシステム思考は、まさに生態系全体を考えて、課題に取り組むこと。

もっと良い言葉があるかもしれませんが、今のところはこの「生態系思考」がシステム思考に最も近い言葉ではないでしょうか?