新常態(ニューノーマル)とセンスメイキング
「地図よりコンパス」この言葉は、私の「インターネットビジネス」「リーン・アジャイル開発」の師匠でもある伊藤穰一(Joi)さんの言葉です。
「アフター(ウィズ)コロナ」「ニューノーマル(新常態)」とは何か。一言で表せば、これが一番近いのではないかと考えます。
入山章栄先生の「世界標準の経営理論」でこんな一節があります。
『ある時、ハンガリー軍の偵察部隊がアルプス山脈の雪山で、猛吹雪に見舞われ遭難した。彼らは吹雪の中で為す術なく、テントの中で恐怖におののいていた。
その時偶然にも、隊員の一人がポケットから地図を見つけた。彼らは地図を手におおまかの方向を見極めながら進んだ。そしてついに、無事に雪山を下りることに成功したのだ。しかし、そこで戻ってきた隊員が握りしめていた地図を取り上げた上官は、驚いた。彼らの見ていた地図はアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのである。』
(『世界標準の経営理論』416ページ)
これはカール・ワイクの唱える「センスメイキング理論」についての冒頭の文章ですが、ここれはまさに新常態(ニューノーマル)を表していると言えると思います。
多くの人が実感しているように、今の社会は「猛吹雪」のなか。
ちょっと前までもてはやされていたビジネス(例えばUber Airbnb WeWorrk ZARA等)が軒並み事業縮小(リストラ)を余儀なくされています。
そんな中でこの遭難した隊が生き残れたのは、「地図」のお陰です。
「地図」は隊員に勇気と希望を与え、「下山」という行動を後押ししました。
そしてこの話の味噌は、「正しい地図ではなかった」というところなのですが、もしこれが普通の状態、つまり天気がよく周りが見渡せている中で、この地図を100%信用し、これを基に進路を決めたら、おそらく隊は道に迷い、帰ることはできなかったと思います。
しかし、隊員たちはこの地図に頼りっきりにはおそらくしなかったでしょう。(というかできる状況ではなかった。)
地図があっても猛吹雪の中で、今いる場所も曖昧、正しい道もわからない。隊員たちは、その地図に頼るのではなく、周囲のあらゆる状況判断を総合して進路を定め、修正しながら足を進めていったのに違いありません。
執るべき3つの道
このハンガリー軍の逸話から、今の猛吹雪のような社会情勢の中で、進むべき道は次の3つのどれかであることがわかります。
1. 吹雪が止むまでじっとしている。
2. 地図のみを頼りに進む。
3. 地図は大まかに捉え、収集可能なあらゆる情報から判断して進路を決める。
1は、とにかく今の状況が収まるまではじっとしているしかない。判断することを諦めている経営。資金繰りのことしか考えられず、今後の方針など決められない常態です。2は、状況がどうなろうとコロナ以前のやり方を変えず(変えられず)、今ある地図(以前に定めた手法、計画、経営方針など)変えない経営。3は、地図にある目的地(経営理念、ミッション等)を目指しながらも、状況に応じてその場その場で判断を下し前に勧めていく経営です。
緊急事態宣言が出されていたときは、まず「1番」で、ダメージを抑え、企業にとっての食料(栄養)である「現金」を確保して凌いでいくしかありません。
無論いつまでもじっとしている事もできませんので、行動を起こさないといけないですが、ここで、2番の3番に分かれると思います。
実際には2番の行動を取ろうとする経営者が多いかもしれません。
産業革命期に、「職が奪われる!」機械の導入に反対した労働者たちとおんなじで、新常態(ニューノーマル)の世界で生き残ることは難しいと思います。
コロンブスやマゼランの大航海時代、あるいはクックやリビングストンといった探検家たちも当然地図はない世界への一番乗りを目指しました。
彼らは、地図を持っていたとしてもそれはほとんど役に立たず、コンパスを頼りに未踏の地を目指しました。
言ってみれば、新常態(ニューノーマル)時代の企業家とは、冒険家なのです。
今は新大陸を発見したことによる大航海時代と同じ。あのころ大西洋や太平洋という境界を超えたように、今は「デジタル」あるいは「自律組織」という「境界」を飛び越えなければいけない時代。
(なぜ「自律組織」が飛び越えるべき境界なのか、疑問に思う方もいると思いますが、「デジタル時代」は、一人ひとりの行動を強制することが物理的にできないので、一人ひとりが自律的に行動できる組織づくりをしないと、その組織は生き残れないからです。
アフターコロナの「ソーシャル・ディスタンス」、最近流行った「ティール組織」「ホラクラシー経営」、「アジャイル開発」の普及、SINIC理論の最適化社会から自律社会への移行など、様々なイベントや指標が同時多発的にこの境界を超えることを要請しています。)
「システム思考」が現在のコンパス
では、なにが現代の経営におけるコンパスなのかというと、これは「システム思考」がこれにあたると思います。
もともと「システム思考」のルーツは、第2次世界大戦中の高射砲に組み込まれた「サーボ機構」や後の大陸間弾道弾に体裁された「位置情報システム」です
。
これらのシステムによって、現在位置を把握し、常に正しい軌道を探りながら目標地点に達することができます。
iRobot社の開発した画期的な商品「ルンバ」にもこのシステムが体裁されています。(ルンバには部屋の地図情報はなくても、床の状態や家具の場所などの情報を習得し、効率的に床掃除ができます。)
iRobotは、もともとMITの研究から生まれた会社ですが、当時この研究所と同じビルにいたソフトウェア開発者のジェフ・サザーランドが、このiRobotの自律ロボットからヒントを得てアジャイル開発の「スクラム」を開発したというのも有名なエピソードです。
AmazonをはじめGAFAがみなシステム思考をベースにビジネスを伸ばしているのも、まさにすべかるかなと思います。