スタジオドラゴン制作ドラマ「START-UP」より

アジャイル起業とは

アジャイル(Agile, Agility)とは俊敏さや柔軟さを表す言葉です。目まぐるしい環境変化に即応するために欠かせない、経営や組織運営のあり方における機敏性という意味です。
起業や新規事業では、アジャイルなアプローチが必須です。

私自身、ベンチャー企業で働いていたとき、事業計画書をつくり、3年先、5年先の予想売上高や収支表を書いてベンチャーキャピタルを回りました。
もちろん5年先どころか半年先の予想すら当たりませんでした。

ドットコムバブルの崩壊、911、リーマンショックやそれに伴う社会や経済の激変な、ど誰にも予想できませんでしたし、今のコロナ禍やロシアやウクライナ情勢にしてもそうです。
私たちのビジネス、製品やサービスを取り巻く環境が、今から半年後どのようになっているか予想するのは無理です。

今ではアジャイルのやり方は、ソフトウェアや製品・サービス開発だけでなく、事業全体、あるいは国などのガバナンスにも適用されるようになってきました。

ここでは、特にアジャイルの考え方や手法が必要な分野として、「アジャイル起業」を取り上げます。

アジャイル起業とリーンスタートアップの違いは

リーンスタートアップは、起業家のエリック・リースが2011年に同名の本を出版したことで広まりました。
「リーン」とは、「痩せた」とか「筋肉質」という意味ですが、ここでは「無駄のない」という意味になります。

トヨタ自動車の「ムリ」「ムダ」を省いた「トヨタ生産方式」が米国で紹介され、マサチューセッツ工科大学のジェームズ・P・ウォマック、ダニエル・T・ジョーンズらが「リーン生産方式」と名付けました。

このリーン生産方式を商品開発に応用したのがリースの「リーンスタートアップ」です。

リーンとアジャイルはどちらもかつての日本企業のやり方がルーツだったこともあり、共通するところも多いですし、またそれぞれの手法がお互い影響しあっていることもあるので、今日両者の区別をつけるのは難しいです。

特に、商品開発(プロダクトマネジメント)の視点から見れば、両者はほとんど同じであると言っても構わないかも知れません。

「リーン」は無駄を省き、不確実性を減らすことを目指しますが、経営においては、必ずしも「リーン」が最適とは限らない点に留意する必要があります。

イノベーションは不確実性の中から生まれてくるものだからです。

アジャイル起業の手法

アジャイル起業では、商品開発だけでなく、会社のガバナンスや顧客を含むステークホルダー全般のエコシステムを捉えながらその時々の「最適解」を考えます。
スピードは大事ですが、製品サイクルをとにかく速く回すことだったり、PDCAをとにかく高速で回すことが良いわけではありません。

概念を理解する上で参考になるのが、昨年(2021年)経済産業省から発表された「Governance Innovation Ver.2 -アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて-」で表された「アジャイル・ガバナンス」の考え方です。

アジャイル・ガバナンスの定義は、「様々な社会システムにおいて、「環境・リスク分析」「ゴール設定」「システムデザイン」「運用」「評価」「改善」といったサイクルを、マルチステークホルダーで継続的かつ高速に回転させていくガバナンスモデル」とされています。

単にサイクルを速く回すばかりでなく、変化する環境の分析や目指すべき目標(ゴール)の設定、そしてデザインや運用や評価というポイントを抑えつつサイクルを回していく。
これがアジャイル起業でも必要な要素になります。


   

アジャイル起業で大事なポイントは

アジャイルな組織体制で成功していると言われる会社は国内外でも増えています。

システム開発のゆめみ、ソニックガーデン、後払い決済サービスの先駆者でもあるネットプロテクションズ、他にもサイボウズやガイアックスなど。また海外企業やグローバル企業でも、Spotify、INGグループ、Zappos、ボッシュなど数多くの企業が「アジャイル」な体制をとっています。

これらの成功事例を見て、その組織体系を取り入れよう、自社に当てはめようとする企業も増えていますが、残念ながら失敗する事例も後を絶ちません。

失敗する理由は実は共通していて、成功したモデル、例えばZapposのホラクラシーモデルとか、Spotifyモデルをそのまま自社に当てはめよう、悪い言い方をすれば真似をしようとすることです。

この考え方が失敗するのは、少し考えれば明らかで、なぜなら、どこかで成功したモデルをそのまま入れようとするのは、アジャイルの考え方と正反対だからにほかなりません。

会社の組織体系をいじる、例えば役職者をなくして別の名前にする、あるいはヒエラルキーをフラットにするというのは、アジャイルな体制に移行するプロセスで行われたりしますが、これは決してアジャイルや自律組織の本質や目的ではないです。

極端に言えば、会社のトップが社員に向かって「明日から全社的にアジャイルにする」と宣言したら、これは上意下達の一形態であってアジャイルでもなんでもないわけですね。

何よりまず、経営者、あるいは経営陣からアジャイルになる必要があります。
ホラクラシーやSpotifyモデルと同じ組織体系を予め設計して全社に適用しようとするのは、ウォーターフォールモデルそのものですから、まず会社やビジネスの状況を分析して、フィードバックを回しながら組織というプロダクトを構築していく。

これがアジャイル企業でありアジャイル起業での大切なポイントになります。

アジャイル起業のビジネスデザイン

アジャイル起業のビジネスデザインでは、上記の「アジャイル・ガバナンスサイクル」の「環境・リスク分析」「ゴール設定」「システムデザイン」をどのように行うのかがポイントになります。

弊社が開発し、昨年(2021年)の日本ビジネスモデル学会で発表した「ICONIX for Business Design」は、アジャイル開発の設計手法として長く活用されている「Agile ICONIX」の手法をビジネスデザインに応用したものです。

下図のように、自社を取り巻くエコシステムを可視化して分析し、その動き(振る舞い)をモデルに当てはめることで、変化する環境を取り込んだビジネスモデルの実装を行うことができます。

また、これをワークショップの形で1日セミナーを行う「DXのための3つの思考法入門セミナー」も日本能率協会さんのご協力の下、定期的に開催しています。

「ICONIX プロセスを活用したビジネスモデル設計のダイアグラム連携手法」
 
 

ICONIX for Business Design

 
 
日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催