前回の記事「「ホラクラシー」「ティール組織」を読んでも、これらの経営への移行が難しい理由」で、「ホラクラシー」や「ティール組織」の本には、場の概念がなく、(特にフレデリック・ラルーの考えが)経営論や組織論というより、リーダーシップ論、コミュニケーション論への偏りが見られること。そのためもあり、ティール組織の書籍にある「3つのブレークスルー」は、「ティール組織」よりも「グリーン組織」のための手法となっていることをザッポスの事例から述べました。

繰り返しになりますが、「ティール組織」の3つのブレークスルーとは、「自主経営(Self-Management)」「全体性(Wholeness)」「存在目的(Evolutionary Purpose)」です。
ザッポスが、「顧客感動企業」」とまで言われるほど成功できたのも、「コアバリュー経営」を社内外に浸透させて、3つのブレークスルーができていたからなのは、例えば2010年に出版された石塚しのぶさんの「ザッポスの奇跡」やザッポスの取材を通してその仕組みを明らかにした私の「熱狂顧客のつくり方」(2013年)からも明らかかと思います。


 
 
 
では、「ティール組織」でフレデリック・ラルーのいうことが間違っているのかというと、もちろんそうではありません。世間の会社のほとんどが「オレンジ組織」に属すると思われますが、これらの会社が「ティール組織」になるためには、一度グリーン組織で必須の「自主経営」「全体性」「存在目的」のブレークスルーを通過する必要があります。いわば「必要条件」です。

ただ、経営者(リーダー)と部下や同僚とのダイアログを重視している「グリーン組織」へのブレークスルーから、組織のヒエラルキー構造をなくすなど組織構造自体も変える「ティール組織」へ移行するためには、組織全体の設計(デザイン)を行う必要がありますが、そのためには、3つのブレークスルーを個人から組織へと進化させる必要があります。
ラルーの「ティール組織」の本はこの部分はあまり触れていないところが、「ティール組織」の具体的な姿が見えづらい原因の一つだと思います。

例えば「Self-Management(セルフマネジメント)」は、日本語では普通「自己管理」と訳されます。従業員一人一人が上司の指示ではなく自分(セルフ)で業務管理(マネジメント)を行うことは、もちろんすべての基本で大切なことですが、個々のセルフマネジメントがどのように組織の自己組織化につながるかは、この本に書かれていないので、別に考慮する必要があります。

また著者のこの視点は「全体性」においても同様です。臨終心理学で全体性(Wholeness)というときに、自我(エゴ)と自己(セルフ)の心の一体化という意味で使われますが、ラルーはこの立場で書いています。臨床医療やカウンセリングなどでとても重要な考え方です。しかし組織論では全体性(ホールネス)は組織全体と個人の関係性という視点から考えます。ピーター・センゲが「学習する組織」で述べている「木も見て森も見る」視点です。
センゲがこの「木も見て森も見る」ために必須としているのが、「システム思考」です。
したがって、「ティール」や「ホラクラシー」を組織に導入するためにはこれらの本のほか「システム思考」について理解しなければなりません。

「存在目的」についてのラルーの記述も「全体ビジョンの共有」というよりはセンゲの「自己マスタリー」に近いといってよいかと思います。組織の「存在目的」のためには、理念をつくり組織に浸透させなければいけませんが「自己マスタリー」を「共有ビジョン」とするための手法について、ファシリテーターらしく「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」とワークショップ手法まで詳細に提示する一方、組織の理念(ミッションやビジョン)をどのように創り、これを日々の業務にどう落とし込むか、そういう組織をどう経営していくかという点については触れていないので、別途考える必要があるでしょう。

以上に基づいて、グリーン組織からティール組織へのブレークスルーを考えてみます。

「個人の全体性から組織全体の全体性」
「自主経営(Self-Management)から自己組織化経営(Self-Organization Management )」
「個人の目標(自己マスタリー)から全体の目標(全体ビジョン)」

 
 

個人の全体性(Wholeness)から組織全体の全体性(Wholeness)へのブレークスルー

「ティール組織」の本では、従業員個々が、自分自身の全体をもって仕事に取り組むという「個人の全体性」について描かれていますが、実際に組織を「ティール組織」とするためには、組織全体が「ひとつの生命体」となる必要があります。
ここで必要なのが、以前書いた「場の力」です。
会社組織を「場」と捉え、「場の経営」を行うことによってのみ、「組織全体の全体性」の実現が可能になりますが、具体的に「場の経営」を行うためには、上で記したように、システム思考の視点が欠かせません。

 

自主経営(Self-Management)から自己組織化経営(Self-Organization Management )へのブレークスルー

「ティール組織」の本では個々の従業員の自主経営の必要性が描かれています。しかしそれだけでは、組織は統制が取れずばらばらになってしまいます。
そのために必要なのが組織の「自己組織化」であり、「自己組織化経営」が必要です。

この「自己組織化」こそ、「ティール組織」や「ホラクラシー経営」の鍵になりますが、ロバートソンもラルーもあまり詳しく触れていません。

「自己組織化」の要件は「ゆらぎ」「多様性」「ポジティブフィードバック」です。
具体的な姿として、当記事でも何度か紹介している「雪の結晶」の姿を上記3つの要素を入れて描いたのが下図です。

上図からもわかるように、自己組織化が起こっているかどうか、因果ループ図を描いてみるとわかることが多いです。
システム思考の知識があれば、自社に当てはめて自己組織化の管理をすることが可能になります。

 

個人の目標(自己マスタリー)から全体の目標(全体ビジョン)へのブレークスルー

「ティール組織」の本でラルーは、なぜかこの「存在目的」の項だけ、個人から全体の目標へ進化させるワークショップ手法(アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI))について書いています。
ラルーの具体的な手法より、もう少し視点を上げて、「個人組織としての存在目的」から「組織としての全体目的」を考えると、これはピーター・センゲの「学習する組織」の「自己マスタリー」から「全体ビジョン」のことであることがわかります。
自己マスタリーとは、己を知り、自らの意思でそこに立ち、ビジョン実現のために行動できることを指し、共有ビジョンとは、組織の人々が創造しようとしている共通の将来像のことです。組織の人々一人ひとりがビジョンを持ち、そのビジョンが組織のビジョンと一体になっている状態を表す言葉です。
自己マスタリーを確立させ、それを束ねつつ共有ビジョンを創る。
これが、「グリーン組織」を「ティール組織」へと進化させるブレークスルーの要です。