2022年はDAO元年

2021年は、「WEB3(3.0)元年」とも言われ、仮想通貨(暗号資産)、フィンテック、NFT(非代替性トークン)、メタバースなどブロックチェーン技術の応用形態が、ビジネス分野で注目された年となりました。
おそらく多くの方が、意味はよく解からずとも、上記の言葉をよく目にするようになったと感じているのではないでしょうか。

このWEB3界隈で今言われているのが、昨年NFTやメタバースが「バズった」ように、今年は「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」がバズワードになるということ。つまり2022年は「DAO元年になる」ということです。
実際に様々な分野で興味深い事例も増えています。

DAOはWEB3を支える、縁の下の力持ち的な存在で、今までは仮想通貨やNFTといった「華やかな存在」の陰に隠れていた感がありました。
しかし、今日のようにブロックチェーンを活用したビジネスモデルが拡がり、ビジネスに活用する事例も増えてくると、その技術やビジネスを運用するための組織形態、組織論においても注目が集まってくるのは、自然な流れと思います。

DAOは、仮想通貨やNFT、メタバースの世界とリアルをつなぐ接点の役割を果たす存在です。

そして私自身がDAOに注目しているのは、このDAOの仕組みが、現実の企業組織などリアルの世界の仕組みを変える可能性です。

これからこのDAOのような分散型の自律組織に触れる人は、ますます増えていくでしょう。その視点から見ると、現在の現実社会の「権力」を基盤とする組織の在り方に、違和感や拒否感を覚える人が増えるのは間違いないと思います。

その数や事例も増え、ある閾値を超えたら、社会が一気に変わる。そのようなことが起こる可能性は決して低くないかもしれません。


  
  

DAO(分散型自律組織)とはどんなものか

DAOとはどのような組織なのでしょうか?

広い意味での分散型自律組織(DAO/DAC)の概念は、ブロックチェーンの誕生に伴って生まれました。
ビットコインに代表されるオープンなブロックチェーンを活用する仮想通貨(暗号資産)には、取引を集中的に管理するもの(特定の場所につくられたデータベース)は存在しません。
参加者や利用者のPCや端末に分散して記録されている「分散型台帳」の仕組みだからです。

仮に「株式会社ビットコイン」「ビットコイン銀行」などという、中央集権型のビットコインの管理会社や中央銀行を設立しても、「管理のしようがない」わけで、理念的に「ブロックチェーンの運用形態=分散型自律組織」と言えるでしょう。

現在のDAO(Decentralized Autonomous Organization)の仕組みを提唱したのは、仮想通貨イーサリアム創設者のVitalik Buterinです。
彼は2013年、19歳(!)の時にイーサリアムの最初のホワイトペーパーを発表しました。

このイーサリアムが画期的だったのは、「スマートコントラクト」の仕組みがあることです。

通貨は「売買」や「投資」「貸付」などの契約行為によって、人(法人含む)から人へと移ります。つまりブロックチェーンというのは「仮想通貨を介した契約記録の台帳」のことですね。

イーサリアムでは「売買」「投資」「貸付」といった典型的な通貨取引に限らず、様々な取引の仕組みや決まり事を、利用者が自由に作成できる仕組みが創られました。

これが「スマートコントラクト」です。

スマートコントラクトによって、イーサリアムは単なる仮想通貨から、ブロックチェーンのプラットフォームとしての意味付けも持つようになりました。

イーサリアムのスマートコントラクトの一つに「ERC(Ethereum Request for Comment)721」と名付けられているものがあります。これはあるイーサリアム通貨に「しるし」をつけて、他のイーサリアム通貨と区別をつける(非代替性にする)というものです。

この「しるしをつけられた仮想通貨(トークン)」が、非代替性トークン(Non-Fungible Token : NFT)と呼ばれるもので、この仕組みで取引されたデジタルデータの特定ができるようになり、今日のようなNFT取引ブームが起きるきっかけとなりました。

スマートコントラクトの仕組みは他にも、DEFi(分散型金融)やDEX(分散型取引所)のようないわゆるフィンテックの仕組みや、GameFiやNFTゲームと呼ばれるゲームでお金を稼ぐ仕組み、メタバースでの土地取引など、WEB3の分野で拡がりを見せている様々なツールやビジネスモデルのベースとなっています。
(WEB3の提唱者であるGavin Wood(Web3 Foundation創設者)も、イーサリアムの共同設立者です。)

そしてスマートコントラクトの対象は、物(データ)やお金だけでなく、もちろん人や組織も対象になります。雇用契約や請負契約、そして組織自身の様々なルールもスマートコントラクトによって定めることができます。

これがDAO(分散型自律組織)の要点です。

組織の個別のプロジェクトなどは、任意の参加者がスマートコントラクトを作成し、それに賛同や同意した人と個別に契約が結ばれ、報酬のトークンもコントラクトの内容や条件に沿って、システムによって自動的に支払いがされます。(「自動的に」と言うのは、コントラクトの実態は一連のプログラムだからです。)

組織全体にかかわることは、参加者の投票によって決められ、可決されたものはそのままシステムに取り込まれますし、否決されたらそのプログラムは保留または破棄されます。

もちろんすべてブロックチェーンの仕組み上で行われるので、改ざん、隠蔽、陰謀のようなものの入る余地はありません。

また、決まったことの実行もスマートコントラクトのプログラムで行われるので、リアルの世界の「直接民主制」のように決定や実行に時間がかかったり、官僚制組織でよくみられる、実行の途中で骨抜きに合うことも防ぐことができます。

 

 
 
この図がよく見られるピラミッド組織とDAOのイメージ図です。
ただこれだけを見ると、「権力(人)による支配」から「アーキテクチャ(スマートコントラクト)による支配」に変わっただけのように誤解を与えるかもしれません。

しかしスマートコントラクトは、参加者に何も強制をしません。
同意できないと思えば、既存のスマートコントラクトに参加せず、自分で新たにもっと良いと考える別のスマートコントラクトを作成しリクエスト(提案)すればいいだけです。例えば上述のNFTでもERC721の「規格」に対してERC1155と呼ばれる、代替性トークン(通常の仮想通貨)非代替性トークン(NFT)両方に対応した「規格」もリクエストされています。

どれが普及するかは、利用者の数によって自然と定まる。これはリアルの世界でも例えば線路の幅が144cmになったり、PCのキーボード配列がqwertyになったり、あるいは都市に人が集まって発展するように、「自己組織化」が働くようになっているわけです。

上述のように、ブロックチェーンの仕組みで参加者にすべて公開されていますから、スマートコントラクトで定めたプロセスがうまく働かない場合もすぐにわかります。
こういう場合もまた、新たなコントラクトがリクエストされる。状況の変化に応じて柔軟(アジリティ)に組織が進化する。つまりDAOは、生命体に近い組織形態と言えます。
 

DAOの分類と事例


DAOは、仮想通貨やNFTの浸透に合わせて、ここ1年飛躍的に増えています。そして目的も様々ですが、下図の「DAO LANDSCAPE」のようにビジネスモデルごとに分類するサイトもあります。ここではその分類と代表的な事例を紹介します。

DAO LANDSCAPE

 
Protocol DAO
DEFi(分散型金融)やDEX(分散型取引所)を運営するDAO

Investment DAO
集めた仮想通貨で投資をするためのDAO。他の仮想通貨や最近ではNFTへの投資が盛んです。

Grants DAO
これも最近注目を集めています。寄付やクラウドファンディングなど社会的活動のためのDAOです。

Collector DAO
主にデジタルのアート作品などの収集や管理のためのDAOです。もちろんデジタル以外のコレクションも含みます。昨今のNFTブームで飛躍的に増えています。

Service DAO
分散型のワーキンググループ。プロジェクトやイベントなど様々なサービス提供に対し、請負や雇用を行い、収益を分配する。リアルの世界の事業会社に近い組織ですが、これをスマートコントラクトで行うのが特徴です。

Social DAO
想いを同じくする人、同好の人のコミュニティ運営のためのDAOです。

Media DAO
ニュースなど、コンテンツを提供するDAO。新聞やテレビなどマスコミが、配信するニュースを中央集権的な仕組みで決めるのに対し、分散的な仕組みの中でコンテンツを提供するメディア組織です。

もちろんこれらはほんの一例に過ぎませんし、ここに収まらない組織、目的が複数の分野にまたがる組織も多いと思います。
未成熟な分野ですので、DAO自体これからどのようになるか、まだまだ進化の途中の組織形態と言えます。

個別のDAOのビジネスモデルについては、私自身が関心を持った2つの事例を紹介します。

UKRAINE DAO
ウクライナ支援を目的としたDAO。
NFTや仮想通貨(イーサリアム)を通して寄付をおこなったり、TwitterやDiscordを通した情報交換を行っています。ウクライナ侵攻の後すぐに組織されて、1週間で600万ドルを超える寄付金が集められました。

UKRAINE DAO(https://www.ukrainedao.love/)

 
 
山古志住民会議
地方創生とDAOを繋げた興味深い事例です。
新潟県の山古志村(現長岡市山古志地区)は2004年の中越地震で深い傷を負った地域で、高齢化に加え人口流出も激しく消滅の危機にあります。

その中で有志が立ち上がって「山古志住民会議」を結成し、DAOの設立、NFTの発行などを行っています。
山古志は錦鯉の産地として有名だそうですが、昨年末に発行された錦鯉NFTは、「世界初の限界集落からのNFT発行」ということで、かなりの評判を呼びました。

DAOの活動で、地域外の「デジタル村民」との交流が生まれ、関係人口増加につながっています。

山古志住民会議NOTE(https://note.com/yamakoshi1023/)

 
 

DAOは未来の会社組織となるか

上述したように、私自身がDAOに魅力を感じているのは、現実の中央集権型の会社組織などに与える影響です。

もちろん「DAOは理想の組織である」というような組織論を語りたいわけではありません。世界初のDAOと言われている「The DAO」がプログラムのバグを突かれて、資産の3分の1が流出した事件に象徴されるように、スマートコントラクトの仕組みにも弱点はあります。

また、昨年の仮想通貨やNFTの市場がバブルであったのもまぎれもない事実で、今後インターネット普及時のような「幻滅期」が来るのも確実だと思います。(実際ロシアのウクライナ侵攻後、米国の金利上昇の影響もあって、仮想通貨市場、NFT市場は昨年ピーク時よりかなり減速しているようです。)

現在はまだDAOに法的根拠はなく、米国でもようやくワイオミング州で法人登記できるようになりましたが、むろん日本では税制、法制度ともNFTやDAOに対応していません。
既存の企業組織がDAOに転換するというのは、現状では難しいでしょう。

DAOの仕組みの根幹である「スマートコントラクト」についてですが、この仕組みはデジタルの世界だからこそ、提案(Request)から参加や投票、実行に至るまでプログラムだけで完遂できるので、リアル(アナログ)の世界で、これをそのまま適用するのは無理があるという声もあると思います。

しかし、フレデリック・ラルーが提唱した「ティール組織」で知られるようになった「アドバイスプロセス」の仕組み(プロセス)は、「スマートコントラクト」とほとんど同じと言ってもよいと思います。

どちらも「自己組織化」を推進する仕組みですから、ある意味当然のことかもしれません。
 
 
今後もデジタルの世界の拡がりは間違いなく続き、その中でDAOの仕組みもまた進化を続けていくと思います。

そして、デジタルとアナログの世界が融合していくのに従い、中央集権から分散化への流れは現実の世界でも確実に拡がっています。

何より私たち人間は、誰かの権力の元に従属するより、一人一人の自由意思で人とつながったり、共通の目的に向かって、一緒に取り組んだりすることに幸福を感じる存在ではないでしょうか。

DAOのような分散型組織、自律型組織の要素を取り込んで進化していくのが、これからの企業を含む組織やコミュニティの新たな形ではないかと私は考えています。

山古志住民会議のNOTE記事では、「本企画の立案者である山古志住民会議という団体自体が、そもそもDAOのような存在であったことに気づきました。」と述べられています。

地位や立場、年齢や性別に関係なく、「想い」に共感した山古志地域内外のメンバーがあつまり、情報共有・検討・相談・試作をし、それをもとに自らの持ち場(役割)に持ち帰って実践していく。
震災以降、地域の合意形成の場であり、議論の場であり、学びの場として、あり続けてきました。

お互いに、仲間として認めあい、信頼関係を築いていく過程の葛藤や嬉しさ、気づきも体感し合ってきたこの経験が山古志にはあるからこそ、デジタルとリアルの融合に挑戦できるのです。

かつての限界集落は、世界に開かれたDAOに向けて小さな一歩を踏み出しています。

これに私が付け加えたい言葉はありません。今後もこの動きを追っていきたいと考えています。
 
 


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