目次

1.企業経営における自律型組織とは
2.企業組織を自律型にするには
3.自律型組織とティール組織の共通点相違点
4.自律型組織のつくり方

前編では、1と2について述べました。
そちらで書いたように、自律組織の基本的な考え方はとてもシンプルで、「社員(従業員)が好きなことを好きなようにできる組織」です。
もちろん既存組織のまま社員に好きなようにやらせたら、組織は崩壊してしまうかもしれません。
そこで、発想の転換が必要で、新たな仕組みを入れることが必要であると述べました。
この記事では残りの2つ(3と4)について述べてみたいと思います。

自律型組織とティール組織の共通点相違点

自律型組織=「社員(従業員)が好きなことを好きなようにできる組織」を具体的にどう創るのかについて述べる前に、ここでいう「自律型組織」といわゆる「ティール組織」の共通点、相違点について述べてみたいと思います。

というのも、この両者は同じものではないにもかかわらず、世間では「イコール」とみる風潮があると思うからです。
「ティール組織」について、本を読んだり話を聞いたりされた方も多いと思いますが、ここで簡単に振り返ってみたいと思います。

ティール組織とは

ティール組織はフレデリック・ラルーが著書「Reinventing Organization」(組織の再発明)で唱えた概念です。
日本語訳のタイトルで「ティール組織」と名付けられたこともあり、「ティール組織=自律型組織企業」についての解説書と捉えられていますが、実はこれには少し誤解も含まれています。

ラルー自身は、ティールとは組織形態のことを言うのではなく「パラダイム」であると述べています。
パラダイムとは「ある時代のものの見方・考え方を支配する認識の枠組み」という意味ですが、「時代とともに組織論のパラダイムは移り変わってきた。そして今後はティールのパラダイムが注目されるだろう。」というのがこの本の趣旨です。

そしてこのパラダイムを象徴する企業、ザッポスやビュートゾルフ、モーニングスターなどについて、彼なりの視点で分析をしたのがこの本の内容になります。

ラルーはこのパラダイムの区分をケン・ウィルバーのインテグラル理論から採用したと著書で述べていますが、そもそも人間の意識をはじめて「階層化」したのは社会心理学者のアブラハム・マズローです。
マズローの「欲求5段階説」は多くの人がご存知と思います。その他にロバート・キーガンの「成人発達理論」もよく知られていますね。


 
もちろん本当に人間の意識に段階や階層があるわけではなく、これらは理論というよりは「フレームワーク」という方が妥当で、「枠組み(フレーム)やモデルを作ってパターン化すると物事を理解しやすくなるもの」です。
したがって上図のように、いろいろな視点や見方があってもいいわけですし、厳密にどういうのが正しいというのではなく、大枠として傾向を捉えるもの。まさに「パラダイム」なわけです。

今の「パラダイム」はマズローで言う第4段階から第5段階に差し掛かっているあたりと言えるでしょう。(従って成人発達理論やインテグラル理論でも同様と言えます。)

企業においても、「自社利益をどこまでも伸ばす」ことが評価されていた時代から、「サスティナブルな社会」への貢献が評価されるようになってきました。今まで「短期的な企業利益」だけを考えてきた資本市場においても、ESG投資が出現していることなどはその象徴的な事例ですね。

但しこれは「パラダイム」の話ゆえに、このことと個人の生き方であるとか個々の企業がどのような組織形態をとるべきかというのはまた別次元の話です。

結論からいうと、自律型組織の話とティール組織の話は、「我々はどう生きるべきか」「どのような組織で社会に貢献するか」という抽象度の高いレベルで考えるときは、まさに「パラダイム論」として考えるべきだと思いますが、具体論ではこれらは別々に考える必要があるという関係にあると思います。

フレデリック・ラルー氏と

自律型組織のつくり方

ここからは具体的に自律的組織はどういうものか、どうすれば創ることができるのかについて述べたいと思います。
上述したように、また前回詳しく書いたように、自律型組織とは「社員(従業員)が好きなことを好きなようにできる組織」です。

おそらくこれを読んだほとんどの人は、「そんな風に個人の勝手を聞いて好きなようにやらせたら組織が成り立たない」と思われるのではないでしょうか?

もちろん今の組織でそのまま「皆さん、明日から好きなことを好きなようにやってください」と言ったら、その組織はすぐに崩壊するだろうと私も思います。

これが成立するためには組織の仕組みを変える必要があります。
具体的には、次の3つの仕組みです。

1.社員一人ひとりが「自分がやりたいこと」を把握し周りと共有する仕組み。
2.やりたいこと、やった結果をチームの仲間と共有する仕組み。
3.経営情報がリアルタイムで社員一人ひとりに知らされる仕組み。(経営情報が透明化されている。)

社員一人ひとりが「自分がやりたいこと」を把握し、周囲と共有する仕組み

「好きなことを好きなように」するためにはまず、「自分自身が何をやりたいのか」を知らなければなりません。そしてそれを周り(社内)に公表し誰にも知ってもらう仕組みも必要です。

米国のトマト加工企業のモーニングスターにはCLOU(Colleague Letter of Understanding)という制度があって、全従業員は毎年自分がやりたいこと、成し遂げたいことを細かく書いて提出します。CLOUはチームや周りの人間と相談しながら書いて行かなければなりません。だいたい10人以上と相談しながら書いていくそうです。そうすることで、各々の業務内容や業務目標が自然と決まっていきます。

ザッポスには「バッチ」という仕組みがあります。自分のやりたいことやできることを「バッチ」という形で社内サイトにそのスキル内容とともに公開します。
この「バッチ」を基に、やりたい業務を行っているチーム(サークル)のリーダーに自分を売り込んだり、逆にスカウトしたり、場合によっては新たなサークルを創出したりします。

いわゆるジョブ型採用で社員の業務範囲を雇用契約で定める米国企業と違い、日本の企業の場合「そもそも自分はどんな仕事をやりたいのか」ということについて考えてこなかった人も少なくありません。そこで最近注目される「アート思考ワークショップ」で、自分のやりたい、表現したい仕事を考え、まわりと共感する能力を高めるところから始めるのも有効です。

このワークショップを経ると、「自分がやりたかったこと」「ありたい姿」を理解し、かつ「まわりと共有」したり「組織理念を形作ったり」といったことができるようになります。

やりたいこと、やった結果をチームの仲間と共有する仕組み

組織の中で「好きなことを好きなようにやる」のはもちろん一人ではできません。今までの企業組織ですと「稟議」というしくみで、上長の決裁という仕組みが有りましたが、自律型組織では「コンセンサス」がベースとなります。「コンセンサス」とは「全員一致」という意味ではなく、「積極的に反対する人がいない状態」を指します。

ただ特に新規事業の場合「コンセンサス」では時間がかかりすぎるので、「アドバイスプロセス」をルールにしている企業や組織が多いと思います。

自律型組織では報告する上司はいませんが、その代わりチーム内の「振り返り」によって、「各々がやっていること」「やったこと」についてチーム内で(できるだけ)リアルタイムに公表する義務があります。そうやってまわりと協力し合いながら仕事をすすめると同時に、適切なアドバイスを貰え正しくすすめることが可能になります。

業務の振り返りと共有については、アジャイル開発の「スクラム」で手法化されていますので、そのやり方をほぼそのまま踏襲できます。

自律型組織では基本的に失敗は咎められませんが、「失敗を隠す」ことは許されません。もちろん失敗に限らず、基本的に業務に関するすべてが社内に公開され、共有されていることが前提の経営手法です。

経営情報がリアルタイムで社員一人ひとりに知らされる仕組み

自動車業界では「自動運転技術」が今最もホットトピックなのはご存知だと思います。
自動運転技術は、目的地情報、地図情報を持ち、そしてセンサによって自動車の現在の状況をリアルタイムに把握することで、運転手がいなくても正しく安全に目的地まで運行できる技術ですが、実は自律型組織もまったく同じ原理です。

「目的地情報」は1番の、「やりたいこと、目標や目的」にあたりますし、2番の「地図情報」は「経路と現在位置」すなわち「やってきたこと」「今やっていること」の振り返りの共有です。
これらは、今の自動車運転(既存組織)においても重要ですが、特に「自動運転技術」(自律型組織)においては、センサによる現在の状態の把握が肝になります。

財務情報や経営情報は、経営における「センサ」に当たりますので、基本的にすべて現場が知っている必要があります。情報の透明性がなければ自律型組織は成り立ちません。センサが壊れていたら、自動運転車は間違いなく事故をおこすのと全く同じです。

情報が透明化されていれば、ちょっとした誤りがあっても、それを把握し修正することが可能です。

VUCAの時代と言われ、先が読めない、計画や下した決断が正しいのかどうか誰にもわからない時代では、むしろそうやって細かい誤りや間違いを俊敏(Agility)に修正しつつ進めていくのが、自律型組織の強みであり、優れている点であると言えます。