ティール組織がブームとなり、自己組織化も『再び』注目を集めているようですね。

『再び』と述べたのは、2000年前後の「複雑系ブーム」の頃、やはり「創発」「自己組織化」が注目を集めていたからです。
私自身が「自己組織化」や「創発」という概念を知ったのは、ジュラシック・パークやタイムラインなどの映画の原作でおなじみのマイクル・クライトンのSF小説「プレイー獲物ー」からでした。軍事用に生産された大量のナノテクマシンが暴走して人間を襲うというあらすじですが、そのナノテクマシンの行動原理で、蟻が現場監督もいない中で、見事な地下建築物を創ったり、大きな餌をみんなで運ぶ行動や、実はリーダーが存在しない渡り鳥の群れが、見事な孤を描いて海を渡る「自己組織化」が説明されていました。

私たち人体でも、内蔵や心臓、細胞の一つひとつは「自己組織化」で動いています。そうでないと、いちいち「心臓動け」、「今食べた食事を消化しろ」と意識して命令を出さなければいけなくなって、うっかり心臓を打ち忘れたとか、息をし忘れた、なんて事故が起こってしまうかもかもしれません。
もうひとつ自己組織化でよく取り上げられる例は、集落化や都市化です。ある場所を気に入った人が、そこで農業を始める。そうすると仲間が集まり、働き手が増える。人が増えるとその人達に向けたお店が立つようになる。収穫したものを運ぶ交通手段や取引先も増え、やがて大きな集落が形成され、そこに学校が建ち、子どもたちも増え大きな都市になっていきます。

Zapposのトニー・シェイによれば、都市は人口が2倍になるごとに生産性やイノベーションの起こる確率が15%増えるけれども、企業は規模が増えるごとに生産性は逆に下がっていくという研究結果があるそうです。そこで、Zapposでは社員数が1500人に達した2013年、会社を変革してホラクラシーを導入したとのことです。

組織論に於いて、「強力なリーダーシップ」がもてはやされた時代もありましたが、どんなに有能なリーダーであっても、一人のリーダーが組織の隅々に目を配ることは困難です。そこでヒエラルキー型のピラミッド組織が導入されましたが、得てしてそれは硬直化し、組織の成員は「官僚化」します。組織の成員は、全体の目的よりも自分自身の保身のために忖度したり、他の部門といさかいを起こしたりするようになります。これから社会の多様化はますます進み、それに伴い、組織の多様化も進みます。その多様化した組織相手に、リーダーが今までのような単純な命令や指示を出すだけでは対応ができなくなるのは明らかでしょう。

とは言え、「現場のことは現場に任せる」というだけでは、組織がばらばらになってしまう危険性があります。「管理しない経営」というだけでは、無能なリーダーと何が違うんだ?ということになりかねません。そこで考えられたのが「ホラクラシー」や「ティール組織」などの自己組織化経営の手法です。

しかし、「ティール組織」や「ホラクラシー」の本を読んでも「心構え」は学べるものの、どうすれば組織がうまく「自己組織化」するのかということはわかりません。ホラクラシーの本に書いてあるように、組織図を作り替えて、「明日から営業部という名称をやめて、セールスサークルとする。部長はリーダーと名を改める」と決めたところで、一体何が起こるのでしょうか?
急に皆がやる気を出して、皆がバリバリ働きだす。なんてことが起こることは、まずないと思います。

自己組織化は、どんな条件で起こるのか、この知識がないままで、形を整えても効果は上がりません。
自己組織化とはなんなのか、簡単に説明して、そのために考えるべきことを解説したいと思います。

自己組織化とは「自律的に秩序を持つ構造を作り出す現象」と定義されています。どのようなときに自己組織化現象が起こるかということに関して、ノーベル化学賞を受賞したイリヤ・プリコジンは「その系が開放システムであること」「非均衡の状態であること」「ポジティブ・フィードバックが起こること」の3つの条件を挙げています。

開放システムとは、外部との相互作用があること。閉鎖されたシステムでは自己組織化は起こりません。外部との情報やエネルギーの出入りがない閉鎖系では、有名なエントロピー第2法則が働いて、エントロピーが増大、無秩序なチリチリバラバラ状態(?)になります。
また「非均衡の状態」、これも最近よく聞く「多様性」「ダイバーシティ」はまさに非均衡な状態であるとも言えます。
日本の昔ながらの大企業では、どちらかと言えば、閉鎖的で均一的な組織づくりが行われてきました。より進んだ世界があってそれを真似すればよかった1980年位までは、有効に働いたのですが、日本もトップランナーの一員になりアジア諸国に真似をされる立場になってみると、自ら「自己組織化」「創発」をして、イノベショーションを起こしていかなければならないのですが、これまでの成功体験も邪魔をしてうまく転換できないのが現状です。そこで、外部のベンチャー企業などと組む「オープン・イノベーション」が注目を集めていますが、これはまさに組織に「外部開放性」「非均衡」を取り入れようとする試みです。

ただ「外部開放性」「非均衡」がある組織でも、そこに「ポジティブ・フィードバック」が働かなければ、自己組織化は起こりません。上に説明した「都市化」の例のように、人が集まってくると、ますますそこに惹きつけられた人々が集まる。という効果で自己触媒化とも呼ばれています。
どうすればポジティブ・フィードバックが起きるのか。ポジティブ・フィードバックとはシステム思考で言う「自己強化ループ」のことです。
つまりシステム思考を理解して、自己強化ループをどうすれば起こして強化するかを考えることが、ティール組織などの自己組織化のためには不可欠です。