今、ティールやホラクラシーなど自律型・自己組織型の組織論についての議論が盛んです。

自律型の組織とはどのようなものか。制度はどうするか。どういう心がけを持って、このような組織について考えるべきかという趣旨の本も数多く出版されています。例えばフレデリック・ラルー氏の「ティール組織」やその本を翻訳監修された嘉村賢州氏や吉原史郎氏、日本における自律型組織企業のパイオニアであるダイヤモンドメディアを創業した武井浩三氏らの書籍やあるいは講演等で「自律型組織とは何か」について学ぶことができます。

しかしながら、ティール組織などの自律型経営をしようと決めた上で、自社において実際にどのように業務を行えばいいのか、プロジェクトを進めていけばいいのか、具体的に述べられているものはまだ少ないようです。

ブライアン・ロバートソンの「ホラクラシー」では、毎週行われる会議(ガバナンスミーティングやオペレーションズミーティング)のやり方については詳細に述べられていますが、その他の業務の進め方に関してはあまり書かれていません。

自律組織をどのように運営(オペレーション)するのか、業務やプロジェクトをどのように進めていくのかについて、ここでは述べてみたいと思います。

自律組織運営の基本は「ピザ2枚の注文プロジェクト」

ここでは、できるだけわかりやすい事例で説明しましょう。
皆さんもきっとご経験のある仲間での「ピザの注文」です。

これは「ピザ2枚ルール」を基に考えました。この「ピザ2枚ルール」とは、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが唱えている、組織の人数はピザ2枚を食べる人数に抑えるべしという考え方。
つまり一つの組織は多くても8人くらいまでにして、それを超えるようなら(3枚のピザが必要になったら)分割をしなさいというのが「ピザ2枚ルール」です。


 
さて、今取り組んでいるプロジェクトが佳境で、チームは夜になっても皆残っています。
チームのみんなでピザを注文しようという話になります。

どんなピザを注文するか。マルゲリータ、アンチョビ、ハワイアンなどなどそれぞれの好みを反映して1つか2つの種類に決めます。好みだけではなく皆さんの懐事情(価格)も大事な要素ですね。リーダーが「自分の好みはこれだから」とトップダウンで決めたり、アレルギーがあって食べられない人がいるのがわかっていながら、多数決でそれを選んだりはおそらくしないでしょう。

仕事においても同様で、メンバーのそれぞれの好み(=仕事に何を求めているのか、各々の生き方や目標等)をシェアしながら、何を組織のミッション(明示的な場合だけでなく暗示的な場合もあります)にするのか、どのように仕事やプロジェクトを進めるのか話し合いで共有します。

そしてチームの中で役割分担を決めます。電話で注文する。みんなからお金を集める。配達人が来たら応対する。などの係がありますね。しかし必ずしもかちっとしたものではなく、配達人に応対する筈の人がその時たまたまトイレに行っていたら、彼の帰りを待つのではなく、代わりのものが受け取りに行くでしょう。

自律組織でも「役割分担」はもちろんあります。得意なものが得意なことをやったほうが良いのはもちろんです。しかしその上でお互いをフォローし合うのが自律組織です。
だからこそ、チームミッションなど「目標の共有」が必要になります。「自分の目標さえクリアすれば良い」という考えとは反対なのが自律組織です。ラグビーでいう「One For All, All For One」の精神ですね。

注文したピザが無事に届き、皆仕事の手を休めて、ピザの置かれたテーブルの周りに集まります。そして思い思い手を伸ばしてピザで腹を満たします。

この「思い思い」というのが、まさに自律的で、普通は「A君はアンチョビ2切れとマルゲリータ1切れ」などと決めることはしませんよね?
一人ひとりの好みも違いますし、食べる量も違います。上から強制的に割り当てるより、各々の自由に任せて、「もういらないから半分誰か食べる?」とか「アンチョビとマルゲリータ交換して」というふうにしたほうがみんなの満足度も高いでしょう。

但し仕事の場合、何もしないで、一人ひとりの自由に任せても必ずしもうまくいきません。そこでリーダーが一人ひとりに仕事の内容と量(ノルマ)を割り当てる。これがいわゆるヒエラルキー型組織が今まで普及していた理由ですが、それならばどうすれば、ピザを食べるときのように自然と(自律的に)うまくいくでしょうか?

自律型プロジェクトのポイントは情報共有と振り返り

ピザを食べるとき、ひとつのテーブルを囲んでみんなで食べます。そうすると何となく、誰が何枚手にとったかは共有しています。その場でお腹いっぱい食べたけど家に持って帰るため、黙って目の前のピザを懐に・・というのはおそらくできない。(大人数でピザの数も多かったら容易にできますよね。)

そのために、「ピザ2枚ルール」が大事になってきます。
お互いが顔を突き合わせてできる単位で仕事をチームに分割する。そして誰が何をどれくらい食べたか(どんな仕事をどのくらい行っているのか)、リアルタイムでお互いがわかるようにする。
「A君まだあまり食べてないよね。残りの一枚食べちゃいな。」なんて会話が自然と起こる。

そして、ピザを食べるときは「何となく」で構わないのですが、仕事やプロジェクトでは、積極的に「誰が何の仕事(タスク)をどれくらいやっているのか」をチーム全員が共有できる仕組みが必要になります。と言ってもそれほど難しいものではありません。
大雑把に言えば「今の仕事の進捗状況を明らかにしておく」「定期的に振り返りの場を設ける」の2つで十分です。

前者でポピュラーなやり方は、自分のタスクを書いた付箋(ポストイット)を壁などに貼って、各々管理して自分の進捗を明らかにする。
そして後者は、それをみんなで眺めながらそれぞれの進捗や問題点を話し合う場を設ける。
「昨日A君に突発的な仕事が入ってタスクが進んでなかったから、ここはみんなでやろう」とか「A君のタスクの問題点、Bさんがやった方法で解決できるよね」といった具合に進められます。

前者のツールとして、「カンバンボード」「タスクボード」がありますし、後者のやり方には、アジャイル(スクラム)でいう毎朝のスタンドアップミーティングやレトロスペクティブ、ホラクラシーで定めるオペレーションズミーティングなどがありますが、基本はしっかり踏まえた上で、自社にあったやり方で行っていけば良いと思います。
 
 
 
ティールやホラクラシーというのは、自律型組織のひとつの「型」であって、そのままで役に立つ場合もありますが、必ずしもそのとおりにやらなければいけないものではありません。

大事なのは、自律型組織とはどのようなものか。どういう原則で成り立っているのかの「理解」です。(「ピザをみんなで食べること」で例えられるように、決して難しい理論と言うわけでもありません)
理解ができれば、どのようにして自社にあったやり方で実行していくか考えることもできるようになると思います。