テレワークやリモートワークで、社員の自律性を引き出し、かつ生産性もあげられる体制づくりに役立つよう、アジャイル開発(スクラム)で活用される「スクラムガイド」を基に「TeleScurumガイド(案)」を作成してみました。テレワーク(リモートワーク)のリファレンス(参照)ガイドとして参考になったら嬉しいです。

なお、スクラムを活用したテレワーク(リモートワーク)の概要については下図及び下記記事をご参照ください。
「スクラム」が教えるリモートワーク(テレワーク)仕事術


 

TeleScrum ガイド(案)

イントロダクション
TeleScrum は「テレワーク」と「スクラム」を起源とする。スクラムとは、持続的で複雑なプロダクトを開発するためのフレームワークである。IT 開発の分野では広く使用されており、この分野の主流となりつつある。

このガイドには、TeleScrum をうまく活用するための最小セットの要件が含まれている。省略可能なものもあるが、それもごくわずかだ。したがって、TeleScrum を活用するには、このガイドに含まれるほぼすべての要素が必要不可欠となる。特定の要素を排除することも可能だが、それは TeleScrum とは言えない。逆に、要素を追加するのはよく行われること(むしろ望ましいこと)である。このフレームワークを尊重している限り、要素の追加は認められている。このフレームワークは軽量級であり、自由にカスタマイズできるようになっている。

TeleScrum ガイドの目的
TeleScrum は、スクラム(ジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる複雑なプロダクトの開発および維持のためのフレームワーク)をベースにしている。
TeleScrum とは、社員が自らの業務プロセスに責任を持ち、管理職が社員をコーチングするためのフレームワークである。

このガイドには、TeleScrum の定義が含まれている。TeleScrum の定義は、TeleScrum の役割・イベント・作成物と、それらをまとめるルールで構成されている。このガイドは、ジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる本家の「スクラムガイド」に影響を受けている。

TeleScrum では、自律性が主役となる。それにより、責任感や楽しさやエネルギーが増加し、短い期間でよりよい結果が生まれるようになる。そして、社員たちは自分や他人に対する自信を持ち、より大きな成長を経験する。ここで重要となるのが「当事者意識」である。つまり、社員たちは与えられた境界線と業務目標のなかで、自分たちの業務プロセスを自分たちで決定する自由を持っている。TeleScrum は業務成果を改善するだけでなく、個人の成長やチームの協調も改善するのである。

TeleScrum の定義
TeleScrum は、社員たちがテレワークの業務に対応するためのフレームワークであり、可能な限り価値の高い業務目標と個人の成長を生産的かつ創造的に達成するためのものである。
TeleScrum とは、以下のようなものである。
• 軽量
• 理解が容易
• 習得は困難(社員チームが自ら行わなければいけないため)

最後に「習得は困難」があるのは、TeleScrum が規定しているのは「何をするか」だけであり、「どうやるか」については何も触れていないためだ。TeleScrum は社員をコーチングするためのプロセスや技法ではなく、そこにさまざまなプロセスや技法を取り入れることのできる「フレームワーク」である。TeleScrum を活用すれば、計画および選択した手法の効果の透明性が確保される。それにより、社員たちは自ら改善できるようになる。TeleScrum は、社員たちに自己組織化することを求めている。また、決められた時間内に明確な業務目標と成果を成し遂げることを求めている。

TeleScrum を活用すれば、(業務内容、協力、個人の成長などの)品質が常に進化していく。社員たちは当事者意識を持っているため、みんなで協力しながら自分たちの品質を決定する。当事者意識と継続的改善を組み合わせれば、高品質につながる。レビューでは、「何をしたか」(業務内容)にフォーカスする。振り返りでは、「どうやったか」(協力、個性の活用、個人の成長)を扱う。

TeleScrum フレームワーク
TeleScrum フレームワークは、スクラムフレームワークと同様に、チームとその役割・イベント・作成物、およびルールで構成されている。それぞれに目的があり、TeleScrum の成功や利用に欠かせない。
TeleScrum を活用するための戦略にはさまざまなものがあるが、それらについてはこのガイドでは触れない。
TeleScrum のルールとは、役割・イベント・作成物をまとめ、それらの関係性や相互作用を統括するものである。TeleScrum のルールについては、本稿全体で説明する。

TeleScrum の理論

TeleScrum は、スクラムと同様に、経験的プロセス制御の理論(経験主義)を基本にしている。
経験主義とは、実際の経験と既知にもとづく判断によって、知識が獲得できるというものだ。

TeleScrum では、反復的かつ漸進的な手法を用いて、業務目標の達成可能性の最適化とリスクの管理を行う。
経験的プロセス制御の実現は、透明性・フィードバック・適応(修正・改善)の 3 本柱に支えられている。
透明性経験的プロセスで重要なのは、成果に対する責任が見える化されていることだ。透明性とは、これらが標準化され、見ている人たちが共通理解を持つことである。

TeleScrum では、価値を高めることにフォーカスしている。価値とは、個人の業務結果、個人の成長、みんなの協力を総合したものである。TeleScrum フレームワークは、上記の透明性を提供して、業務プロセスを支援するものである。透明性とは、社員が業務プロセスにおいて適切な決定を行い、価値を最大化するために必要なものである。

フィードバック
TeleScrumでは、業務や業務目標に対する進捗のフィードバックを行い、好ましくない逸脱を検知する。ただし、フィードバックを頻繁にやりすぎて、作業の妨げになるようではいけない。

適応(修正・改善)
プロセスの不備が許容値を超え、成果を受け入れられないと社員(マネージャーも含む)が判断した場合は、計画や手法を調整する必要がある。調整はできるだけ早く行い、これ以上の逸脱を防がなければいけない。

TeleScrum スクラムでは、検査と適応を行う 6 つのイベントを規定している。詳しくは「TeleScrum イベント」のセクションで説明する。
• チーム編成
• ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)
• 朝会(仕事の開始時)
• ウィークリー・ワークレビュー
• 振り返り
• パーソナルリフレクション(個人のため)

チーム

TeleScrum チームは、マネージャーと 数人の社員チームで構成される。チームのうち 1 人が(社員チームの)TeleScrum ファシリテーターの役割を担う。社員チームは自己組織化されており、多様な専門分野を持っている。社員チームは、作業を成し遂げるための最善の策を、チーム外(管理職)からの指示ではなく、自分たちで選択する。多様な専門分野を持つチームは、作業を成し遂げるために必要なすべての能力を持っている。社員たちは、自らのスキルや個性にもとづいて、自分たちで社員チームを編成する。チームは結果に対して責任を持っているので、その意味では独立しているのだが、他のチームの知見や情報を活用することもできる。つまり、チームを横断した協力が推奨されている。

TeleScrum のチームのモデルは、自律性・協力・柔軟性・創造性・動機・生産性が最適化されるように設計されている。
TeleScrum チームは、業務結果を反復的・漸進的に届ける。これは、フィードバックと調整の機会を最大化するためである。「完成」した業務結果を漸進的に届けるのは、いずれは業務目標につながる成果に常に手が届くようにしておくためである。

マネージャー
マネージャーは、業務目標を設定する。また、結果のモニタリングと評価を行う責任がある。業務を参照したり、質問に答えたり、例を示したりするなどして、
TeleScrum のプロセスと個人およびチームの開発プロセスをファシリテートする。チームを横断した協力を促すこともマネージャーの重要な責任である。組織・チーム・個人がこれをどのように達成するかは、組織の手法や戦略によって決まる。
管理職はマネージャーとして、教科内容に対して明確にフォーカスする。マネージャーの責任は以下である。
1. 「何」をしてもらうかの決定
2. テレワーク結果の品質のモニタリングと向上
3. テレワーク結果の評価と判断(完成の定義と受け入れ基準にもとづく)

1.「何」をしてもらうかの決定
マネージャーは、業務の成果について計測可能なテレワーク結果に対して責任を持つ。マネージャーはテレワーク結果について、さまざまなステークホルダー(顧客、経営陣、株主)を満足させなければいけない。
したがって、「何」の業務をしてもらうか、「何」を優先的に業務してもらうかは、マネージャーの責任で決める必要がある。また、進捗および結果のモニタリングや評価を行うために、マネージャーは事前に受け入れ基準(評価基準やプレゼンテーションのガイドラインなど)を決めておく。

2.テレワークによる成果の「品質」のモニタリングと向上
マネージャーは、「何を」してもらうかを決めるだけでなく、テレワーク結果の品質のモニタリング・確認・改善も行わなければいけない。そのためにマネージャーは、2つのベンチマークを使用する。社員チームが定義する「完成の定義」とマネージャーが定義する「受け入れ基準」だ。

受け入れ基準
業務の品質をモニタリングするために、マネージャーは複数の受け入れ基準を事前に定義して、社員チームと共有する。たとえば、受け入れ基準には、品質、スコープ、業務の締切日など、業務結果に対する要件が含まれる。
社員チームは、そうした受け入れ基準を満たす責任がある。社員チームのメンバーは、受け入れ基準を満たすために必要な作業や活動を自分たちで定義する。

完成の定義(DoD: Definition of Done)
業務目標の品質を守るために、社員チームは「完成の定義」を定義する。ウィークリー・ワークが始まる前に、作業がいつ「完成」するかを決めるのである。経験のないチームは、マネージャーと相談して決める。経験のあるチームは自分たちで決める。このようにして、社員チームは品質基準の定義を継続して改善していくのである。

3.テレワーク業務の「評価」と「判断」
マネージャーは、ステークホルダーの代表として、テレワーク業務の品質を評価する。マネージャーは、社員個人とチームの両方を評価する。
マネージャーは、業務タスクの管理に責任を持つ 1 人の人間である。業務タスクの管理には、以下のようなものがある。
• TeleScrum について社員に最初に説明する。
• ウィークリー・ワークのゴールを定義する(今回のウィークリー・ワークの業務目標)。
• 受け入れ基準の定義と説明を行う:業務目標が達成されたかどうかを判断する受け入れ
基準を明確に説明して、チームが個別に作業(実験・調査・プレゼンテーションなど)
を開始できるようにする。
• 社員チームをファシリテートする:業務目標と受け入れ基準の次は、疑問点を解消するときの参考になりそうな背景資料について触れる。
• 関係者全員が TeleScrum のプロセスを追跡できるようにモニタリングする。
社員は自分たちの業務目標をある程度は自由に決めることができる。その場合も、マネージャーが最終的な受け入れ基準に責任を持つことになるが、業務目標と成果物との関連は緩やかなものとなる。

マネージャーとなる管理職は、社員チームのサーバントリーダーである。マネージャーには、TeleScrum の哲学を広める責任もある。TeleScrum が十分に理解され、正しく実行されるようにして、そのクラスの社員チーム全体の活動や協力にフォーカスしなければいけない。そのために、マネージャーは以下のことを行う。
• TeleScrum とは何か、その妥当性、および有効性について説明する(1 回限り)。
• 補完的なスキルを持った社員チームが編成されるようにする。
• TeleScrum のプロセスに従い、社員チームに TeleScrum の理論やルールを守らせる。
• 必要に応じて、途中で説明、デモ、ポジティブなフィードバックなどを与える。
• エネルギー、楽しさ、成長するマインドセットを引き起こす(TeleScrum ファシリテーターに任せることもある)。
• 社員チームを外部から守る(TeleScrum ファシリテーターに任せることもある)。
• 社員チームがインペディメント(障害物)をすばやく自発的に取り除けるようにする。
社員チームでは解決できないほど大きなものは、マネージャーがすばやく対処す
る(TeleScrum ファシリテーターに任せることもある)。
さらにマネージャーは、社員チームにいる TeleScrum ファシリテーターのコーチおよびガイドとなる責任がある(「TeleScrum ファシリテーター」のセクションを参照)。
マネージャーは、チームを横断した協力を促す。つまり、社員チームはお互いの成功や失敗から多くを学ぶことができる。

社員チーム
社員チームは、ウィークリー・ワークの終わりまでに、決められた受け入れ基準を満たしながら、求められる業務目標を達成する自発的な社員で構成されている。チームメンバーはみんなで協力して、チームとして受け入れ基準を満たす責任がある。
社員チームは、自分たちの作業をうまく計画・管理できるように、マネージャーによって編成され、その権限を与えられる。これにより有効性と効率性が大幅に高まり、優れた業務体験や個人の成長にもつながる。

社員チームには、以下のような特徴がある。
1. 自己組織化されている。業務目標を達成する方法は、チームで協力して進める。
2. 複数の専門分野を持っている。業務目標を達成するために必要なスキルと個人の成長テ
ーマをすべて備えている。
3. メンバーが特定のスキルや分野に特化していても、チーム全体として責任を担う。
4. 品質に貢献したいか、それとも新しい分野を開発したいかを自分たちで決める。
5. 受け入れ基準と完成の定義にもとづいて、自分たちの進捗と品質を管理する。

社員チームの人数
社員チームの最適な人数は、管理できる程度に少なく、多くの成果を成し遂げられる程度に多い人数である。ルールとしては、1 チーム 4 人~9人。チームの人数が 3 人以下の場合は、相互作用やスキルが足りない可能性がある。10人以上の場合は、調整の機会が多くなってしまう。
チームの人数が多すぎると、経験的プロセスによる管理が複雑になる。なお、管理職は社員チームの人数には含まない。

TeleScrum ファシリテーター
社員チームのメンバーの 1 人が、チームの TeleScrum ファシリテーターの役割を担う。TeleScrum ファシリテーターはチームの一員でありながら、チームの「サーバントリーダー」および「コーチングリーダー」である。チームの活動の最適化を支援するが、命令することはない。
TeleScrum ファシリテーターは、スクラムのスクラムマスターよりも制限されている。TeleScrum においては、マネージャーが多くの責任を担っているからだ。だが、経験を積んでいけば、TeleScrum ファシリテーターが多くの責任を担うようになり、その分だけマネージャーの責任は減っていくだろう。
チーム編成の儀式では、最初にマネージャーまたはクラス全体が、複数の TeleScrumファシリテーターを選出する。次に、それぞれの TeleScrum ファシリテーターが、お互いに補完的なスキルを持ったチームメンバーを選出する。

社員チームでは、TeleScrum ファシリテーターは「フリップ」(スクラムボードと同義。1 枚のフリップチャート)に責任を持つ。TeleScrum ファシリテーターは「フリップ」が利用可能であり、最新状態であることに責任を持つ。ただし、実際の作業はチーム全体の責任である。また、TeleScrumファシリテーターはマネージャーと社員チームを支援する。
TeleScrum ファシリテーターの役割は、初期状態ではマネージャーの責任である。チームが慣れていけば、マネージャーから TeleScrum ファシリテーターに責任が委譲される。
TeleScrum ファシリテーターはマネージャーを支援する

TeleScrum ファシリテーターは、さまざまな形でマネージャーを支援する。
• 「フリップ(進捗度合いを表したボード)」を利用可能かつ最新状態にして、進捗の透明性を生み出す。
• 依頼されたときや必要なときに、TeleScrum イベントをファシリテートする。

TeleScrum は社員チームを支援する
TeleScrum ファシリテーターは、さまざまな形で社員チームを支援する。
• 「フリップ」を利用可能かつ最新状態にして、進捗の透明性を生み出す。
• TeleScrum が正しく実行されるようにする(TeleScrum イベントの開始およびファシリテーション、イベント内容の調整、道具の正しい使用など)。
• チームを横断した協力を促す。

TeleScrum イベント

TeleScrum では、規則性と予測可能性を作り出すために、規定のイベントを使用する。すべてのイベントは、時間に上限のあるタイムボックス化されたイベントである。これは、プロセスでムダなことをすることなく、適切な分だけ時間を使うためである。
ウィークリー・ワーク以外のイベントは、何かを検査・適応するための公式の機会である(ウィークリー・ワークはその他のイベントの入れ物である)。これらのイベントは、重要な透明性や検査が実現できるように設計されている。これらのイベントがなければ、透明性は低下し、検査・適応の多くの機会を失う。

ウィークリー・ワーク
TeleScrum の中心はウィークリー・ワークである。これは、業務目標を達成する業務タスクの集合である。
ウィークリー・ワークは事前にタイムボックス化されている。通常は1週間のタイムボックスである。これより長ければ、社員チームによる計画や複雑性の管理が難しくなる。
ウィークリー・ワークは、ウィークリー・ワークのプランニングミーティングから始まる。社員チームは、ウィークリー・ワークの期間に何をやるかを個別に決める。社員チームが常に「どうやるか」を決めるのである。

ウィークリー・ワークは、以下の内容で構成されている。
• ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)ミーティング
• 仕事の開始時の朝会
• ウィークリー・ワークでは課題やタスクの実施
• ウィークリー・ワークのレビュー
• 振り返りとパーソナルリフレクション
ウィークリー・ワークでは、以下のことを守らなければいけない。
• 社員チームの編成は変更しない。
・ウィークリー・ワークの終わりには、レビュー(届けられた成果の検査)と振り返り(改善の可能性の特定)を行う。

ウィークリー・ワークでは、想定した品質を各チームが達成できているかをマネージャーが定期的に確認する。検査と適応が確実に実施されるように、定期的に追加のイベントを実施したり、タイムボックス化されたインターバルを維持したりするチームもある。スクラムと同様に、TeleScrum のモットーは「ウィークリー・ワークのなかでテストする」である。マネージャーは、成果をテストすべきであることを定期的に強調して、社員チームが自分たちでテストを行うように促す。社員チームは、お互いにテストをしたり、簡単なテレワークゲームや競争を行ったりするなど、さまざまなテスト手法を考案する。
マネージャーとして管理職は、チームの進捗をモニタリングする。「フリップ」とバーンダウンチャートがあれば、すばやく概要を把握できる。

ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)のミーティング
ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)のミーティングは、週初めの開始時に実施するものである。ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)ミーティングは、チーム編成・業務目標・作業計画の 3 つのサブ要素から構成される。

チーム編成
TeleScrum では、スクラムイベント以外のイベントも提案されている。そのひとつが、チーム編成だ。業務パフォーマンスを高めるために、特性やスキルにもとづいて注意深くチーム編成することが必要不可欠である。さまざまな作業が必要になるため、チームにはできるだけ多くの特性・知識・スキルが求められる。
チーム編成をうまく行うには、以下の基準を守ることが重要である。
• チームメンバーの特性を補完的なものにする。
• 男女の比率のバランスをとる。
• これまでとは異なるチーム編成にする。
• 友達同士のチームは好ましくない。
チーム編成では、最初にマネージャーまたはクラス全体が、複数の TeleScrum ファシリテーターを選出する。次に、それぞれの TeleScrum ファシリテーターが、補完的なスキルを持ったチームメンバーを選出する。チーム編成は、ウィークリー・ワークプランニングの一部である。

業務目標
業務目標は、ウィークリー・ワークで「何」を「どのように」届けるかについて、必要となる柔軟性を社員チームに与えるものである。マネージャーは、チームがウィークリー・ワークの終わりまでに達成すべきことを伝える。業務目標は、テレワーク機関によって定められた最重要目標と最終試験に関連する、もしくはその延長線上にある教科内容である。
社員チームは、常に業務目標を意識して作業する。課題やタスクは業務目標を達成するために行う。作業が自分たちの期待に合わなかった場合は、マネージャーと協議して、業務目標を達成できるようにタスクや課題の再編成を行う。
業務目標は、公式の最重要目標や最終試験の一部である。また、社員(チーム)の進捗のマイルストーンとして扱うこともできる。

作業計画
ウィークリー・ワークで実施する作業は、ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)のミーティングのなかで計画する。計画の作成は、社員チーム全体の共同作業である。
最初に管理職が課題の概要(仕事の回数、ウィークリー・ワークに含まれる仕事の回数、全体説明の時期、課題の提出日、評価モデルなど)を説明する。マネージャーは、社員が自主的に計画を作成できる範囲を決めておく。

ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)では、以下の質問に答える。
• このウィークリー・ワークで社員チームに期待されていることは何か?(業務目標・アウトプット・受け入れ基準・その他必要なもの)
• 業務目標を達成するために、何を(どのような順番で、誰が)やるべきか?
マネージャーは、すべての社員チームおよびチームメンバーの全員がこのウィークリー・ワークで期待されていることを理解できるように、業務目標を説明する。社員チームが計画を作成できる程度に詳しく説明しなければいけない。

マネージャーが業務目標を説明したあとは、社員チームが自分たちに必要な活動を見つけ出す。タスクの規模や成果の分割については、原則として社員チームが責任を持つ。必要なものが明らかになれば、社員チームは自分たちの知見やマネージャーの受け入れ基準にもとづいて、タスクの内容や成果を出す順番の準備を整える。
タスクの内容や成果を出す順番が決まったら、最初の成果をタスクに分解できる。この段階では、まだ草案の状態である。つまり、フィードバックと修正・改善のプロセスを継続的に行うことで、新たな知見を得たり、再計画や成果の再分割を行ったりする可能性もある。
ウィークリー・ワークプランニング(週間計画)ミーティングの終わりには、社員チームは自己組織化されたチームとして、業務目標を達成するためにどのように計画しているのか、ウィークリー・ワークゴールをどのように実現するのかをマネージャーに説明できなければいけない。

朝会
朝会とは、社員チームが自分たちの活動を同期して、次のミーティングまでの計画を作成する 15 分間のイベントである。朝会は仕事の開始時に行う。朝会では、前回の朝会から行った作業の検査と、次回の朝会までに行う作業の予想を行う。
朝会は、毎回同じタイミングで行うべきである。つまり、仕事の開始時である。
そのほうが面倒が少なく、いつも定期的に実施できる。朝会では、社員チームのメンバーが、以下のことを説明する。
• チームがウィークリー・ワークのゴールを達成するために、私が前回の仕事からやったことは何か?
• チームがウィークリー・ワークのゴールを達成するために、私が今回の仕事でやることは何か?
• 自分やチームがウィークリー・ワークのゴールを達成するときの障害物は何か?

社員チームは朝会のなかで、業務目標の進捗を評価・管理したり、作業の再計画をしたり、ワーキングアグリーメントを作成したりする。朝会とは、社員チームが業務目標をできるだけ高い品質で達成できるように、その可能性を最大化するものである。
社員チームは自己組織化されたチームとして、業務目標を達成するためにどのように作業しているのか、ウィークリー・ワークの残りはどのような活動をするのかをマネージャーに説明できなければいけない。

TeleScrum ファシリテーターは、社員チームに朝会を開催してもらうようにする。ただし、朝会を開催する責任は社員チームにある。TeleScrum ファシリテーターは、朝会が 15 分間のタイムボックスで終わるように社員チームを支援する。
朝会は、コミュニケーションを改善し、開発の障害物を特定・排除し、迅速な意思決定を強調・助長して、社員チームのプロジェクト知識のレベルを向上させる。これは、「検査と適応」の重要なミーティングである。

ウィークリー・ワークレビュ
ウィークリー・ワークレビューは、週末のウィークリー・ワークの終わりに行う。社員チームは、今回のウィークリー・ワークの成果を提示する。これについては、業務目標と完成の定義を踏まえて確認しなければいけない。プレゼンテーションの方法については、業務目標と受け入れ基準によって異なる。
ウィークリー・ワークでは、可能な限り検査と適応を行う必要がある。ただし、それが業務プロセスの妨げになるようではいけない。通常、検査を頻繁に行えば、その分だけ成功の確率が高まる。

検査の頻度や評価方法については、ウィークリー・ワークの最初のウィークリー・ワークプランニングのときに、社員チームと共有すべきである。このような検査を行えば、社員チームは業務目標に対する進捗や品質を判断したり、完了したタスクのフィードバックをできるだけ多く集めたりするようになる。

振り返り
振り返りは、社員チームが自分たちを検査する機会である。振り返りは、ウィークリー・ワークレビューが終わったあとに開催する。振り返りが遅れると、今回のウィークリー・ワークにおけるチームと個人の改善の機会を逃してしまう。振り返りは網羅的に行うべきである。振り返りは、チームと個人が自分(たち)の改善計画を作り、次のウィークリー・ワークの課題の準備をする場である。
振り返りには、以下の目的がある。
• 人・関係・プロセス・ツールの観点から、今回のウィークリー・ワークを検査する。
• うまくいったことや今後の改善が必要なことを特定・整理する。
• 社員チームの作業の改善実施計画を作成する。

振り返りは、以下の 3 つで構成される。
1. 社員たちが、方法論とチームの働き方を評価して、改善点を特定する。
2. 社員たちが、チームメンバー(自分自身も含む)のスキルと改善点を評価する。
3. 社員チームが、チームがやめるべきことを議論する。
その結果、社員は効果的かつ効率的に業務することをみんなと一緒に業務できる。振り返りは、TeleScrum のプロセスにおいて非常に重要で不可欠なものであり、絶対に省略してはいけない。振り返りはウィークリー・ワークがすべて終わったあとに実施する。
社員チームは、個人およびチーム全体で、以下の 4 つの質問に答える。
1. うまくいったことは何か?
2. もっとうまくできること、もっとうまくやるべきことは何か?
3. これ以上やるべきではないことは何か?
4. 次のウィークリー・ワークで行う活動は何か?


 

TeleScrum の作成物

TeleScrum の作成物は、作業や価値を表したものであり、透明性やフィードバック・適応の機会の提供に役立つものである。TeleScrum で定義された作成物は、社員チームが業務目標の「完成」に到達するのに必要な情報の透明性が最大化するように設計されている。

業務タスク
業務タスクは、業務目標と業務方法が順番に並べられた一覧(のすべてのアイテム)であり、テレワーク機関の定めたコース全体の最重要目標に準拠している。
マネージャーは、業務タスクの内容・可用性・並び順に責任を持つ。
スクラムでは、業務タスクは決して完成しないが、TeleScrum はその逆で、最重要目標はあらかじめ決められている。業務目標も決まっていることが多い。最重要目標は事前に定められたものであり、業務目標は(場合によるが)明確であることが多い。とはいえ、業務によって得られた知見にもとづいて、業務方法は常に調整されていく。これはスクラムの原則である「検査と適応」に従っている。業務方法に関して言えば、業務タスクは動的である。社員たちが効果的に協力して業務を理解できるように、そのために必要なもの求めて絶えず変化するのである。
業務タスクは、業務プログラムにもとづいて並べるものである。したがって、業務目標と業務方法は、テレワーク機関が策定した業務プログラムに準拠することになる。並び順が上にある業務タスクアイテムは、今後のウィークリー・ワークで扱うものであり、下にあるアイテムは、あとから取りかかるものである。並び順が上のアイテムほど明確で詳細である。並び順が下のアイテムほど不正確で詳細ではない。今後のウィークリー・ワークで社員チームが取りかかる業務タスクアイテムについては、ウィークリー・ワークのタイムボックスで「完成」できるように、分解して粒度を小さくしておく。すなわち、個々のタスクを十分なだけ明確にしておくことで、社員チームは仕事時間内に適切な成果を得られるようになるのである。

「フリップ」(作業ボード)
「フリップ」は、フリップチャートが語源であり、社員が今回のウィークリー・ワークで終わらせるタスクや課題の現在の状態をひとまとめにして、持ち運べるようにしたものである。フリップは、ウィークリー・ワークの作業を時系列で表している。タスクや課題をその状態に合わせて、「To Do」から「Doing(着手中)」や「Done(完成)」へと動かす。

フリップは、業務目標を達成するために必要なタスクの全体像である。フリップを活用すれば、プランニングで気づきを得ることもできる。社員チームがどの程度終わっていて、何が残っているのかも正確に見て取れる。フリップは、社員が定められた業務目標を達成できるかどうかの予測になる。社員チームの「最新」の進捗が常に反映されるように、フリップは絶えず更新しなければいけない。少なくとも次の朝会までには更新すること。

フリップのもうひとつの特性は、進捗の透明性を高めることである。そのためには、ミーティングの時間はすべての社員チームからフリップが見えるようにしておく必要がある。
フリップは詳細な計画なので、進行中の変化は朝会のときに共有する。社員チームが常に手を加えるため、フリップはウィークリー・ワークの期間中に絶えず進化していく。このように、フリップは累積的な知見にもとづいて、常に改訂(新しいタスクの追加などが)されていくのである。
新しい作業が必要になれば、社員チームがフリップに追加する。計画の要素が不要になれば、フリップから削除する。ウィークリー・ワークのなかでフリップを変更できるのは、社員チームだけである。フリップには、社員チームがウィークリー・ワークで行う作業がリアルタイムに反映される。フリップは、その社員チームだけのものである。


 
ウィークリー・ワークの進捗のモニタリング
社員チームは、ウィークリー・ワークのいずれかの時点で(少なくとも朝会のときに)、フリップの残作業を合計する。そして、この残作業の状況にもとづいて、マネージャーと相談して、業務目標を達成できるかどうかの見通しを立てる。ウィークリー・ワークで残作業を追跡することで、社員チームは自分たちの進捗を管理するのである。

「完成」の定義
業務目標の「完成」を決めるときには、全員がその「完成」の意味を理解しておかなければいけない。社員チームによってその意味は大きく異なるが、メンバーが共通の理解を持ち、透明性を確保しなければいけない。これは、社員チームの『「完成」の定義』と呼ばれ、業務目標の到達の評価に使われる。

業務目標
業務目標とは、今回のウィークリー・ワークで完成するすべてのアイテムを合わせたものである。
社員チームがウィークリー・ワークプランニング(週間計画)ミーティングで計画や細分化を行うときにも、この定義が指針になる。各ウィークリー・ワークの目的は、そのときの「完成」の定義にあった業務目標を可能な限り高い品質で達成することである。
有益な「完成」の定義を引き出すには、以下のような質問をすることが重要だ。
• 本当に完成したかどうかをどのように確認するのか?
• 完全に完成したものはどのような基準を満たしているべきか?
• 完成していない場合はどうか?
社員チームは、自分たちの「完成」の定義を設定することに責任を持つ。「完成」の定義の設定も業務プロセスの一部なので、振り返りの結果次第で変化する可能性がある。
このように新しい知見がプロセスに取り込まれることで、よりよい結果が生まれていくのである。

最後に
TeleScrum は無料であり、本ガイドで提供されるものである。TeleScrum の役割・作成物・イベント・ルールは不変である。TeleScrum の一部だけを導入することも可能だが、それはTeleScrum とは言えない。すべてをまとめたものが TeleScrum であり、その他の技法・方法論・プラクティスのコンテナとして機能する。
本ガイドは定期的に改訂を予定している。何か改善案があれば、以下のメールアドレスまで連絡してほしい。
shima@saltad.co.jp

謝辞
本ガイドは、「スクラムガイド」「eduScrumガイド」を基に作成した。両ガイドの作成者、翻訳者に深く敬意と御礼を表したい。