ユーザーストーリーとは

ビジネスが成功するかどうか。これは当然のことながら、ユーザー(顧客)の支持を受けられるかどうかで決まります。

ビジネスモデルを構築するときも、自分本位ではなく「顧客中心」で考える必要があります。
そしてこの顧客中心のモデルを考えるときに、必ずやらなければいけないのが「ユーザーストーリーを作成する」ことです。

「ユーザーストーリー」は、もともとはアジャイルのXP(エクストリームプログラミング)を考案したKent Beckが、プラクティスの一つとして提唱したものです。

そのためアジャイル開発の手法として一般に認識されていますが、ウォーターフォール開発の場合でも、もちろん有効な手法です。

ユーザーストーリーの特徴として、「会話(対話)形式である。」「名前の通りユーザー(顧客)視点で考える。」「小さい単位に分割できる。」という点があります。そのため、「個人と対話」「顧客との協調」「変化への対応」というアジャイルで最も大切な事柄を達成するために適した手法であると言えます。

つまり現在のような変化の激しい時代において、その変化に対応できるという点などは、システム開発だけでなく、ビジネスの設計やデザインにも有効な手法でもあるのです。
 
 

ユーザーストーリーの作成方法

ユーザーストーリーの形式は次のような形です。
「<役割>として、私は<目的>したい。なぜなら、<理由・利益>だからだ。」
多くの場合、これをカードや付箋に書いていきます。
例えば、「<サイトの利用者>として、<検索機能を使用>したい。なぜなら、<欲しい商品にすぐたどりつけるにしたい>からだ。」といった感じです。

ユーザーストーリーの例

 
アジャイル開発では、このユーザーストーリーをまとめて「プロダクトバックログアイテム(PBI)」を作成します。そしてこのプロダクトバックログが、ウォーターフォール開発で言う「要件定義書」「要求仕様書」の役割を果たします。

両者の違いは、要件定義書(要求仕様書)の場合、最初のうちに細部までタスクを決めて、途中変更がないように定めるのに対し、プロダクトバックログは、状況に応じて柔軟にタスクを変えていくことにあります。

要件定義書もプロダクトバックログも、ビジネスデザインやビジネスモデル設計で言えば、「事業計画書」に該当します。

事業計画書も今までは「ウォーターフォール型の要件定義書」のようにできるだけ詳細に書くのが普通でした。これは世の中の変化が比較的少なく、先が見通せる状態ではある程度有効ですが、新規事業の場合、あるいは既存事業でも、今のように変化が激しく先の見通しが難しい時代では、あまり有効なやり方ではありません。

そのため、事業開発やビジネスデザインの分野でもアジャイルの考え方ややり方、その中でも「ユーザーストーリー」に注目が集まっています。
 
 

ユーザーストーリーからシステムやビジネスデザイン(事業計画)をつくる手法

ユーザーストーリーとシステムやビジネスとの関係は、ユーザーストーリーはそれらに必要な機能の断片という位置づけになります。
ユーザーストーリーが集まって、システムやビジネスを構成する。もちろん単純に集めても何もできませんので、ユーザーストーリーから、システムやビジネスモデルを構築するやり方を知る必要があります。

システム構築の場合、「詳細化」「ユーザーストーリーマップ」の2つの考え方があります。

詳細化

詳細化というのは、ユーザーストーリーをつなげたり、分解したりすることで、ユーザーストーリーの粒度(抽象度)のレベルを調整することをいいます。

スクラムの用語では、抽象度の高い順に、「エピック」「フィーチャー」「ストーリー」「タスク」と呼びます。他にも関係するユーザーストーリーをまとめたものをテーマと呼ぶこともあります。
 
 

ユーザーストーリーの詳細化階層

 

ユーザーストーリーマップ

ユーザーストーリーマップは、上述のユーザーストーリーの抽象度に加え、時間軸の考え方を取り入れた手法です。ここでいう時間軸(横軸)とは、ユーザー視点にたった時間軸の流れで、「ライフサイクル」や「カスタマージャーニー」とほぼ同じ意味になります。
縦軸のユーザーストーリーでは、抽象度に加え、同じ抽象度のストーリー同士では、「優先順位」で並べます。
 
 

ユーザーストーリーマップ

 
 
システム開発では、上述のユーザーストーリーから、「詳細化」「ユーザーストーリーマップ」をつくることで、システム全体のイメージがつきやすくなり、かつ外部環境の変化にも柔軟に対応できるようになります。

ただ、ビジネスモデル構築などビジネスデザインの場合、既存ビジネスや、「リアルビジネスをECなどオンラインに移行する」といった比較的わかりやすい新規ビジネスではそのまま応用ができますが、今までにない(イノベーティブな)新たなビジネスモデルを創る、ビジネスデザインを行うためには、このまま適用することはできません。

そこで、弊社では、ユーザーストーリーから「バリューグラフ」「CVCA」をまず創り、そこからイノベーティブなビジネスアイデアを産み出しつつ、モデリングを行うというフレームワーク「ICONIX for Business Design」を開発し、2021年の日本ビジネスモデル学会誌に論文として発表しました。

「ICONIX プロセスを活用したビジネスモデル設計のダイアグラム連携手法」
 
 

ICONIX for Business Design

 
 

ユーザーストーリーからバリューグラフを作成する

バリューグラフは、上述の詳細化と同じく、ストーリーの抽象度の記述ができます。抽象度を扱うことによって、「何のためにこのビジネスを行うのか」「どのようにビジネスを実行するか」を考えることで、その目的(パーパス)を可視化したり、実現するための手段を考えることができます。

バリューグラフ「SDGs時代のイノベーション創出手法」

また、一度抽象化して、具現化するというアプローチは、イノベーションのためのプロセスそのものでもあるので、新たな手法やアイデアを生む有効な手法です。

具体的には、ユーザーストーリーをつなげてバリューグラフを作成しますが、一つのユーザーストーリーのWhyを次のユーザーストーリーの目的とすることで、一段高いユーザーストーリーをつくることができます。

下図の例で説明すると、「消費者として私はVolvicを購入したい。なぜなら購入金額の一部をユニセフに寄付できるからだ」というユーザーストーリーを作成したら次にWhyの「ユニセフに寄付」を目的として、「消費者として私はユニセフに寄付をしたい。なぜならアフリカに井戸をつくりたいからだ」と一段上のユーザーストーリーを創っていくことができます。

ボルヴィックのバリューグラフ

バリューグラフ

  
 

ユーザーストーリーからCVCAをつくる

ビジネスモデル構築に欠かせないCVCA(顧客価値連鎖分析)も、ユーザーストーリーを元に作成することができます。
CVCAをつくるには、ユーザーストーリーの目的の要素に「誰に」「誰から」(Whom)を加えるとうまくいきます。

CVCAで独自のビジネスモデルを構築する

「Volvicは『消費者に』商品を売りたい。」「ユニセフは『アフリカの子供たちに』井戸を提供したい」という具合です。
そうすることで、下図のように、CVCAとバリューグラフを連動することもできるようになります。

バリューグラフとCVCAの連携

 
 

ユーザーストーリーマップも創れる

バリューグラフやCVCAから、ユーザーストーリーマップをつくり、各々のタスクに落とし込むことができますが、それには一度ステークホルダーの相互のやり取りを時系列を加味してつくる「シーケンス図」をあいだに介するとうまくいくと思います。

バリューグラフやCVCAから、シーケンス図、ユーザーストーリーマップを作成する流れについては、上記論文をご参照下さい。

また、日本能率協会とのコラボで行っている、DXのための3つの思考法ワークショップでは、このICONIX Business Designを作成し、新しいビジネスモデルを考えるワークを行っていますので、ご興味ある方は是非ご参加下さい。
そのほか個別の企業向けセミナーや自治体セミナーも行っています。

日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催