「ホラクラシー」「ティール組織」は変わらずブームの波に乗っていますが、「本を読んでも実際の導入は難しい」という声を聴くことも多くなってきました。
個人的な想いとしては、この現在の流れが大きなうねりとなって社会がより良いものになってほしいと願っています。
ただ、今のままだと、「一介のブーム」に終わってしまわないかという危惧も持っています。

上記の本を読むと、「この本のやり方ではうまくいかない」という点がいくつかあり、そのために「本の内容が良くわからない」「具体的に何をしたらいいかわからない」という印象を与えてしまっています。(実際「ティール組織」を買ったけれど途中で難しくなって読み通すことがどうしてもできない、という人が私の周りでも結構います。)

その問題点と、私なりの解決案を提示することによって、少しでも「ホラクラシー」「ティール組織」を実行する会社が増えるよう、このブームを一時のものにしないようという意図であることをご承知いただければ幸いです。

「ホラクラシー」という本については、以前にも問題点を指摘しましたが、この本はブライアン・ロバートソンが経営するホラクラシー・ワン社が定めた「ホラクラシー憲章」、そしてサークル機能の中で行われる日々のミーティング手法について書かれている本です。

そしてホラクラシー・ワン社のコンサルティングを受けてホラクラシー経営を導入するためには、このホラクラシー憲章やミーティング手法、ホラクラシー・ワンが開発した業務ソフトウェアをそのまま(一気に)導入する必要があるとのことです。

このやり方は1990年代から2000年代、SAP社などのERP(統合管理)ソフトウェアベンダーがこぞって推奨し、多くの大手日本企業が競って導入したもののほとんど定着しなかったBPR(ビジネス・プロセス・エンジニアリング)を思い出させます。

ロバートソンのいう「ホラクラシー」の手法は確かに一部の企業には合うでしょうが、合わない企業は合わないでしょう。なぜなら「決められた手法を押し付ける」、導入のためにマニュアル通りにやる、というのは、「ティール組織」で言えば「オレンジ組織」(つまり機械的経営)のやり方であり、ティール組織の定義にあたる「生命体組織」には全く合わないやり方だからです。

前回紹介した野中理論(SECI理論)で言えば、ホラクラシー憲章などの形式知が、暗黙知となり身体知となることが必要で、そのためには「場の経営」が必須なのですが、「ホラクラシー」にはそのことが全く触れられていません。

「ホラクラシー」では「ザッポス」の成功例が喧伝されていますが、ザッポスはもともと「コアバリュー経営」を実施しており、「Delivering Happiness」という経営理念や「10のコアバリュー」という形式知を日々の業務に落とし込むという形式知⇒暗黙知の循環(場の経営)が既にできています。そしてそこに「ホラクラシー」を落とし込むことができるという「前提」がありました。

「経営理念」が額に入っているまま、つまり暗黙知化せずに形式知のままである多くの企業(簡単に言うと本当の意味で浸透していない企業、あるいは「場の経営」ができていない企業)が同じようなことをしてもうまくいかない公算が高いのではないでしょうか?

また「ティール組織」にも「場」について記述がほとんど見られませんが、代わりに彼が唱えている概念で「Source」があります。これについては山田裕嗣さんの記事が詳しいです。

このSourceを私なりにあえて訳せば「創業者精神」となるかと思います。アップルにおける「スティーブ・ジョブズ」と言えばイメージしやすいでしょう。しかしながらこれはいかにも欧米らしく「主語」であって述語である「場」にはあたりません。(前編の西田幾多郎のパラグラフを参照)

「ティール組織」で「場」に触れられていないのは、そもそもこの本は「リーダーシップ論」に関する内容がほとんどであって、組織論の視点から書かれていないこともあると思います。

おそらくこれはフレデリック・ラルーの専門(エグゼクティブ・コーチ、ファシリテーター)に由来するものと思われます。
「ティール組織」を運営するにあたって、リーダーはどのようにふるまうべきかについてラルーは(彼がその後公開しているビデオメッセージも含め)かなり詳細に述べています。一方で「ティール組織」とはどのようなものか、どうすれば導入できるのか、本を読んでもあまりイメージがわかないのは、著者の視点が「リーダーシップ」で「組織論視点」で書かれていないからだと考えています。

ラルーは、組織を「ティール組織」にするためには、3つのブレークスルーが必要であると述べています。
「自主経営(Self-Management)」「全体性(Wholeness)」「存在目的(Evolutionary Purpose)」です。
「ティール組織」で記されているこの3つの意味を簡単に紹介します。

「自主経営(Self-Management)」 
従業員一人一人が、他人に頼らない「自己管理」ができるようにする。

「全体性(Wholeness)」 
人は「会社で同僚といる自分」「家で家族といる自分」を分けている。部下や同僚に対しても「人格の一部」として対応しているが、そうではなくて全人格、全存在に対する配慮をする。

「存在目的」 
部下や同僚の「なんのために働くのか」「仕事をする意義は何か」を対話(ダイアログ)などで明らかにする。アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)等のワークショップを行い、全体で共有する。

この3つのブレークスルーによって実現する組織は何かというと、実は「ティール組織」ではなくて、「グリーン組織」です。

2012年、私はホラクラシー経営導入前夜の「ザッポス」を訪問しましたが、当時から「コアバリュー経営」を標榜し成果を上げていた同社は、典型的な「グリーン組織」の企業でした。
ザッポスにはマニュアルはなく、社員一人一人が「今応対しているお客様にとっては何がベストか」を考え行動(Self-Management)していました。それが様々な「感動体験」を呼んで同社は「顧客熱狂企業」と呼ばれるようになります。

そしてザッポスと言えば、「コアバリュー経営」。「ティール組織」の本で言えば「存在目的」にあたりますが、同社がこの「コアバリュー」を創ったのは2007年。決してCEOのトニー・シェイや幹部社員のみで創ったのではなく、全社員で一年間かけて定めたところに特徴があります。そして社員を採用する基準もこのコアバリューに「心から共感しているかどうか」。

どんなに優秀な社員であっても、このコアバリューに共感していない人は採用しません。そのため数か月にわたって、10人以上の社員と面接を重ねて採用がなされます。
採用が決まったのちも研修期間に「コアバリューに共感していない」と判断されたら採用取り消しなど様々な仕組みで、ふるい落としが行われます。まさに社員の「全体性(Wholeness)」を重要視しています。ザッポスの社内見学をコーディネートしてくれたラスベガス在住の日本人は、「街でザッポスの社員に会うと、雰囲気ですぐそうだとわかる」と笑って教えてくれました。

ザッポスの事例からも、「3つのブレークスルー」は、「グリーン組織」導入のための手法であることが良くわかります。
そして「グリーン組織」になるために大事なことは、リーダーと部下とのコミュニケーションです。
ラルーの経歴を見ると、まさにぴったりであることがわかります。

しかし忘れてはいけないことですが、「グリーン組織」のための条件をいくら突き詰めても、「グリーン組織」が「ティール組織」に転換するわけではありません。
「ティール組織」の本の監修をされた嘉村賢州さんが、「なぜグリーン組織のリーダーはティールに惹かれるのに、次の一手を打てないのか」という興味深い記事を挙げられています。

この最大の理由は、まさに上記の理由だと思います。グリーン組織がティール組織になろうとして、グリーン組織のための手法をなおも突き詰めようとする。これでは嘉村さんの記事にある「グリーンがぶち当たる壁」に突き当たるのも当然でしょう。

簡単に言えば、ホラクラシーやティール組織は素晴らしいものと感じるが、どういう手法をとればいいかわからない、ということではないかと思います。

そのためには、「リーダーシップ」や「ファシリテーション」のような社員一人一人とどう対話(ダイアログ)をするか、という視点でだけではなく、組織論、経営論としての取り組みが必要です。会社や組織を「場」と捉えて、その「場」をどのように創り活用するか、という視点が必要です。

私なりの考え方を「グリーン組織からティール組織へのブレークスルー手法」で記してみたいと思います。