入山先生の「世界標準の経営理論」の勉強会にインスパイアされて始まった、「ティール組織と経営学」シリーズ(?)の三部作の最後は、「経営学史からみるティール組織」です。
物事を理解するには、その歴史を理解するのが早いですし、何より背景を立体的に知ることもできます。
2018年に刊行された「ティール組織」のベストセラーで広く知られるようになった、自律型・自己組織型の経営形態ですが、決して最近始まった試みではなく、欧米や日本を含め、数十年の歴史があります。
今回の記事でも経営学の視点から、ティール組織(自律型組織)やその研究に関する歴史を見てみたいと思います。

自律型組織の研究の歴史

オレンジ組織つまり経営者(マネージャー)と労働者を分離したピラミッド組織が確立されたのが、1911年、フレデリック・テイラーが出版した科学的管理法(The Principle of the Scientific Management)です。
マネージャーは、経営計画を立て、それをタスクにして現場の労働者の業務を(詳細に)定める。労働者はその達成率(マネージャーが評価)に応じて賃金をもらう。
フォード自動車などが採用したこの方式のもとで、一定水準以上の品質を持った製品の大量生産が可能になり、20世紀の資本主義の発達を支えました。

一方、自律型組織の起こりは、1950年頃のイギリスの炭鉱労働に見ることができるといわれています。
英国のタピストック研究所の研究員だったエリック・トリストは、炭鉱労働を観察して、自主管理チームは生産性をかなり高めることができると発表しました。

当時の炭鉱は「長壁式」と呼ばれる分業制の採掘法が採用されていました。各チームはそれぞれ一つのタスクに専念し、その各タスクはバトンリレーと同じように順番で行われます。したがって、このモデルでは1つのチームがシフトを終えなければ次のチームはシフトを始められない仕組みです。

ところがイギリス南部のヨークシャーの炭鉱労働者たちは、自然発生的に自分たちの働き方を違うやり方で管理し始めました。複数のタスクをこなせる自律チーム、タスクの相互交換、最低限の指揮監督の3つが相まって、彼らは前のチームがシフトを終えるのを待たず、24時間いつでも石炭を掘りだせるようになりました。当時は「(フォード自動車のやり方のように)担当を割り当てられた同じタスクを何度も繰り返すことで生産性が高まる」と信じられていましたが、このやり方で生産性は飛躍的に上昇しました。
1970年代から80年代にかけて、このような自主管理型チームが一般化すると、その形態も変化しました。

主に製造とサービス管理の分野において、自主管理型チームに切り替えることによって多くの企業がブレークスルーを生み出します。スウェーデンのボルボの工場では1987年に不良品を90%削減し、フェデックスでは1989年にサービスのミスを13%減らしました。

やがて、チームによる取り組みから、会社全体への導入が唱えられるようになります。経営学者のヘンリー・ミンツバーグ(1981)は、組織の特徴は、5つのコンフィギュレーションにあると主張しました。その5つとは、単純構造、機械的官僚制構造、プロフェッショナル的官僚制構造、事業部制構造、そして「アドホクラシー」です。

アドホクラシーは、経営学者のウォーレン・ベニスが唱えた柔軟で形式にとらわれない組織構造のことで、アルビン・トフラーが「第三の波」でこの言葉を使ったことで広く知られるようになりました。ビューロクラシー(官僚制)に対抗する言葉であり、インフォーマルなコミュニケーションや有能なプロフェッショナル同士の相互作用を通して達成されるとされます。

日本における自律型組織

日本における自律型組織、自主管理組織の試みは、70年代から80年代のQCサークルと継続的なカイゼンの取り組みが注目を集めました。そしてその“現場の力”が、日本の製造業を支え、世界第2位の経済大国の原動力となったのは御存じの通りです。

そのような日本企業の強みは野中郁次郎一橋大学名誉教授らによって、「The New New Product Development Game」という論文で世界に発表されました。
「Stop running the relay race and take up rugby(リレーのチームではなく、ラグビーチームになろう)」という副題の通り、タスクを定めてリレーで次のチームに渡すというやり方ではなく、上記のヨークシャー炭鉱のケースのように、部署の垣根を超え全員で課題に取り組む。このやり方をラグビーの「スクラム」に例えて「スクラム経営」「スクラム方式」と名付けました。

この論文を基にして、システム開発の自律型・自己組織型の新しい手法として編み出されたのがアジャイル開発の「スクラム」です。

ウォーターフォールが、フレデリック・テイラーやヘンリー・フォードが定めたような方式、計画(要求定義)部門と製造部門をきっちり分けて開発を進めるのに対し、アジャイル開発は現場の自律・自己組織化に委ねて開発を行います。

VUCAともいわれる環境変化の激しい現在においては、前もって完璧な計画をつくっても、その通りに結果もなることはまずなく、それをいちいち経営陣の了承を取って修正して…などというプロセスを踏むのは無駄が多すぎて、会社全体が取り残されてしまいます。

また日本に関しては上記のほかに、現場における「カイゼン」という言葉を世界共通語にしたトヨタの生産方式もあります。
MIT(マサチューセッツ工科大学)のジェームズ・ウォマック、ダニエル・ジョーズはトヨタの生産現場の様々な手法を「リーン生産方式」として発表しました。この手法もソフトウェアなどのシステム開発に応用されて、「カンバン」と名付けられ、「スクラム」と並んでアジャイルの主要な手法となります。

アジャイルからホラクラシーへ

アジャイル開発は、ソフトウェア開発から、大規模なシステム開発へと広がり、やがて組織開発にも適用されるようになりました。
例えば、アジャイルから派生した自主管理組織の一形態であるポデュラリティという手法では、「ポッド」と呼ばれる基本単位がそれぞれ全社を凝縮した小宇宙として扱われ、各ポッドは自身のために行動します。
そして、最も広範に導入されている自主管理の仕組みが2007年にブライアン・ロバートソンが開発した「ホラクラシー」です。

ホラクラシーも、スクラムの手法や、ソシオクラシーと呼ばれるやはりアジャイルな組織開発手法などを参考にして開発されました。職種と意思決定権は、流動的に形を変えていく「サークル」に組織全体を通して割り当てられ、組織管理方式は「ホラクラシー憲章」によって詳細に定められます。

以上ざっと自律組織や自主管理組織の研究や実践の歴史を見てきました。
こうしてみると、もともとヨーロッパや日本において、自主管理組織が根付いていたことがわかります。「ティール組織」の本が売れているのも、ヨーロッパと日本であるということですが、このような土壌があったからこそ、受け入れられているといえるのかもしれません。

参考文献
DIAMONDハーバードビジネス論文 「自主管理の正しい導入法 ホラクラシーの光と影 Beyond the Holacravy Hype」イーサン・バーンスタイン, ニコ・キャナー, ジョン・パンチ, マイケル・リー ダイヤモンド社 

The New New Product Development Game Hirotaka Takeuchi, Ikujiro Nonaka From the January 1986 Issue Harvard Business Review.

A Proposal of Architectural Framework for Self-Organizing Management Utilizing Multi-Layer Customer Value Chain Analysis. Review of Integrative Business and Economics Research, Vol. 8(2), 1-13. Seiji Shima, Nobuyuki Kobayashi, Seiko Shirasaka.