因果ループ図を発明したのは日本人? の記事でも書いたように、さる3月16日に逝去された経営学者の丸山孫郎先生。
日本では殆ど知られていないですが、1963年に「American Scirntist」に掲載された論文「Second Cybernetics」は、200以上の論文や書籍で引用され、その後の社会システムの研究に大きな影響を与えています。

丸山先生は、1929年に生まれ、終戦後米国に渡りました。そして1951年にカリフォルニア大学バークレー校を卒業し、ミュンヘン、ハイデルベルク、コペンハーゲン、ルンドの大学で大学院の学位を取得し、1959年に文化認識学の博士号を取得しました。
その後、教授職に付くのですが、その経歴も凄い。
カリフォルニア大学バークレー校、心理学および論理学(1960-62)
スタンフォード大学、ヒューマンプロブレム(1962-64)
サンフランシスコ州立大学、心理学(1968-1970)
Antioch College、哲学(1971-1972)
ポートランド州立大学、システムサイエンス(1973-1976)
イリノイ大学アーバナ、人類学および建築学(1976-1977)
オレゴン大学、社会学(1980)
南イリノイ大学カーボンデール、経営学(1979-1982)
スウェーデンのウプサラ大学、人類学(1982)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(1983年)
シンガポール国立大学、経営学(1983-1984)
ハワイ大学経営学科(1984-1986)
モンペリエ大学、国際ビジネス学科(1986年)
青山学院大学、国際ビジネス学科(1987-1996)

その間に、ボルボ、ミシュラン、モンサント、OECD、NASA、通産省(現経済産業省)、米国商務省、米国内務省、インドネシア連邦自動車連盟、コートジボワール政府、バグダッド市の顧問やコンサルティングを務めました。また書籍も200冊近く執筆しています。

上記の記事に書いた、「因果ループ図を発明したのは丸山先生なのか?」ということに関して、直接的な証拠を見つけたわけではありませんが、間接的な証拠はいくつかあります。

1.StermanがeditしたGeorge P. Richardsonの論文「Problems with causal-loop diagrams (1986)」の引用を見ると、丸山先生のの1968年の論文(Positive Feedback)が、システム・ダイナミクスの始祖であるJay Forresterを除けば、一番古い論文である。

2.「Second Cybernetics」の論文には、システム・ダイナミクスやシステム思考に関する出典がない。そうすると論文の「お作法」から見て、これ(因果ループ図)は、丸山先生が独自に考えたとするのが自然。(出典を入れ忘れた。あるいは世の中に普通に普及している当たり前の手法であった。という場合もありますが、一流学者による論文で、重要な箇所の出典を入れ忘れるというのは考えづらく、また1963年に因果ループ図が普及していたのなら、そのような論文や書籍が他にもあるはず。)

3.Wikidataによれば、この「Second Cybernetics」は、American Sientistに掲載される前は、10以上の学会誌から掲載を拒否されたそうです。私自身も論文を書くのでわかりますが、論文の掲載拒否は主に次の2つの理由からです。(1)論文のレベルが低い。(2)あまりにも先端過ぎて査読をする人にも理解できない。
私などは(1)で掲載拒否にあうわけですが(笑)、200以上も引用がついたこの「Second Cybernetics」は明らかに、先端過ぎた論文のひとつと言えます。査読者(多くの場合その分野で実績のある研究者が務めます)も理解できないほど高度で最先端の研究だったのです。この中の因果ループ図も丸山先生独自の最先端理論であった可能性が高いと思われます。

4.丸山先生の実績の一つに「The theory of increase of heterogeneity by causal loops」があるとされています。つまりポジティブ・フィードバックの理論を打ち立てたこと。
因果ループ図は、ポジティブ・フィードバック(自己強化ループ)とネガティブ・フィードバック(バランス・ループ)から成り立っています。フィードバック制御をループで表すこと自体はもちろん昔から行われてきました。
例えばサーモスタットは、目標温度から逸脱すると、温度調節機能が働いてスイッチのON/OFFが行われて室温が目標通りになるよう働きます。これはネガティブ・フィードバックでありバランスループです。

「制御」=ネガティブ・フィードバックであり、制御系にポジティブ・フィードバックが働くということは目標からの逸脱であり、システムの撹乱を表します。つまりポジティブ・フィードバックは組織にとって起きてはならないもの、というのが常識でした。

因果ループ図は、上にも述べたように、ポジティブ・フィードバック(自己強化ループ)とネガティブ・フィードバック(バランス・ループ)フィードバックの組み合わせですから、初めてポジティブ・フィードバックに注目した丸山が、因果ループ図の必要性に気がついた人であったとしても不思議ではありません。

丸山のSecond Dynamicsで光を当てられた「ポジティブ・フィードバック」が世間に広まるのは、イリヤ・プリコジンが1977年に散逸構造理論でノーベル賞を受賞し、80年代に入ってサンタフェ研究所の「複雑系研究」が注目されてからでした。

その20年も前からこの事に気づき研究を行ってきた丸山先生の功績はもっと世に知られるべきだと個人的は考えています。
この記事がそれに少しでも役立てれば幸いです。