クリエイティブとAI(機械学習)の関係
「クリエイティブな知的労働こそAIで代替できる」
この言葉は、今年(2021年)9月にシリーズAラウンドで12億円の資金調達を行ったAI創薬企業のSyntheticGestalt代表の島田幸輝氏の言葉です。(※)
「よく『単純作業は人工知能に取って代わられる』と言われますが、私はむしろクリエイティブな知的労働こそAIで代替できたときの価値が大きいと考えます。」と述べる島田氏が率いるSyntheticGestaltは、機械学習を活用して創薬を行う企業です。
数十億通りにもなるタンパク質化合物の候補から、薬となる酵素の組み合わせを探索するのに、従来は10億円を超える費用と5年近くの年月がかかっていたそうですが、機械学習モデルの活用で、この費用を50~100分の1に、期間を数ヶ月に抑えることが可能になるそうです。
たくさんの要素から最適な組み合わせを導く機械学習システム。SyntheticGestaltは、Automatic Inventionと謳っていますが、これはまさにシュンペーターが説くイノベーションの定義である「新結合」そのものと言っても良いでしょう。
オックスフォード大学のオズボーン准教授が書いた論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」(雇用の未来)。いわゆるオズボーンリストによれば多くの職がAIによって奪われるとされ、そうなると「創造的な仕事」「クリエイティブな仕事」こそが人間にとって残された道という表現がされることもありました。
クリエイティブ、あるいは創造とか発明や発見というのは、キャンバスや白い原稿用紙を前に目をつぶって考える作家とか、シャーロック・ホームズのように安楽椅子に座って、あるいは一休さんのように座禅して瞑想しているうち、ある瞬間にひらめきが体を駆け抜ける・・・というのでは全然なく、たくさんのデータの中から最適な組み合わせを探索する作業です。
だからこそ現在、ビッグデータであったり、そのデータを扱うデータサイエンスの分野に熱い視線が注がれているわけですが、ビジネスのような複雑なシステムを扱う分野では、膨大なデータの扱いに、AIの活用が必須と言えるでしょう。
確かに創造性やクリエイティブは人間にしかできないものではあるのですが、現実のプロセスにおいて、データやAI、機械学習の活用が必要である。これがない中で、ビジネスでイノベーションやクリエイティブを求めても、画家にキャンバスや絵筆を与えずに「良い絵を描いてください」と言うのと同じであると思います。
組み合わせ(結合)に意味をもたせるのが人間の役割
逆にAIや機械学習のシステムのみで、クリエイティブや創造性が生まれるかと言うと、少なくとも現在の技術レベルでは、それは不可能です。
AIができるのは、最適な組み合わせ「候補」を示すところまでで、実際に薬を創る、あるいはビジネスの形に落とし込むのは人間がいないとできません。
なぜなら、薬もビジネスも病原菌をやっつける成分を見出して終わり、新しい商品やサービスのアイデアを考えて終わり、ではなく、そこから(顧客など)人間にどう役立つか、健康や幸福にどう繋げていくかということを「考える」必要があるからです。
私たちは、このことを物事に「意味をもたせる」ことだと考えており、この「意味」こそが、機械学習(AI)にはできない領域だと考えています。
そして、そのための思考法やメソッドを身につけるために、デザイン思考(あるいはアート思考やシステム思考)が求められています。
まさにこれから求められるのは、AIと人間の共創であり、そのためには、どちらか片方ではなく、両方を理解し活用ができる人材こそが世に必要とされ、またこれからの世の中で生き残ることができるのではないかと思います。
(AIがなぜ意味を持つことができないかについては、「フレーム問題」に関わる議論であり、そのあたりについては「AI人材に、アート思考が不可欠の理由」で論じています。)
AI✕デザイン思考のBlue Logic
SyntheticGestaltの創薬システムのあとに紹介するのは気が引けますが、弊社の開発したイノベーションテック・ツール「Blue Logic」も発想や目指すものはおそらく同じです。
AI(機械学習)の自然言語解析技術を活用して、ブレインストーミングなどで導出された言葉をベクトル変換して、何らかの繋がりを持つグループにまとめたり、その繋がりからビジネスモデルを組み立てる支援を行うことを目指しています。
まとめる(シュンペーター風に言えば結合させる)という作業を行うのはAIの役割ですが、そこから何らかの「意味」を導くのはもちろん人の役割。
このようにAIと人間が共創することが、これからのイノベーションに必要なのだと確信しています。
(※)AI創薬は第一歩…「発明は最も創造的な活動」と信じる私が選ぶ道|SyntheticGestalt島田幸輝CEO|ベンチャー巡訪記 Answers News