売上総額1兆円のベイシアグループのDXの取り組み

ワークマン、カインズ、ベイシア(旧いせや)、セーブオンなどスーパー、専門店、コンビニなど流通企業の連合体であるベイシアグループ。グループ企業28社の売上高は1兆円に達しています。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)という視点では、ワークマンが有名で、書籍もいくつか出版されています。
かつては「おじさんのユニクロ」とも言われて、作業服などブルーワーカー向け衣料専門店のイメージが強かったワークマンですが、悪天候や負荷のかかる環境などにも強いという機能性が評価され、バイク乗りやキャンパーなどアウトドアで活動する若者から注目されたことで火が付き、最近では「ワークマン女子」など若い女性からも評価はうなぎのぼり。

これを実現したのが、ワークマン独自のデータ経営です。

データ経営というと、AIの導入とか、データサイエンティストの採用といったことがまず頭に浮かぶ経営者も多いと思います。
しかしワークマンでは一握りの専門家やシステムに頼って「分析レポート」を作らせ現場に指示するというのではなく、現場の一人ひとりの従業員がExcelなどを駆使して、購買データから「意味」を汲み取り、ビジネスに生かすことができる。

現場が自分たちのデータに基づいて、自律的に店舗運営を行うことができることを目指し、成果を上げています。

日本一わかりやすいDXの定義

ワークマンのようなDX先進企業を持つグループの中で、遅れてDXに着手したのが、グループのフラッグシップでもある食品スーパーチェーンのベイシア。

しかし「デジタル領域は後発であるほど有利な面がある」と言うのは、富士通総研、アマゾン、スターバックスなどの要職を経て昨年(2020年)、ベイシアのCDO/CMOに就任した亀山博史氏です。

後発が有利なのは、「阻害要因がなくスムーズにゼロベースから最先端技術を用いて新しい取り組みをすすめられるからだ。ベイシアはこれまでデジタル領域にほとんど着手しておらず、この点で恵まれた環境といえ、将来に向けたイノベーションを魂として吹き込むことで、さらなる成長が期待できる」との指摘は、DXの遅れが各方面から指摘されている日本企業にとって希望が持てる言葉です。

コロナの感染拡大という非常事態がとりあえず落ち着き、これからの「アフターコロナ」「ウィズコロナ」の新たな環境下で、個人や企業が生き残る最後のチャンスに向けた言葉のようにも響きますね。

ここでベイシアグループを取り上げようと思ったのは、何より「DXの定義」が明快でわかりやすいからです。

おそらくDXについて多くの人が混乱しているのが、いわゆるIT導入と、DXの違いは何かということではないでしょうか。

世間でよく使われるのが、下記のような図で、ここでは、デジタイゼーション(Digitization)がIT化のことで、デジタライゼーション(Digitalization)がDXとして目指すべきものであるという説明がなされています。

つまり簡潔に言うと、デジタイゼーションとデジタライゼーションの違いは、業務効率や価値向上があるのか無いのかということですが、それならば、今までのIT化は価値向上も業務効率がなかったのか?という疑問にすぐぶち当たります。

手書きの文書をワープロ化したり、そろばんや電卓を叩いていたのがExcelになったり、業務管理システムを導入しての時間短縮は「価値を生む」ことにはならず、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を入れることがなぜ価値を生むことになるのか。かつての電子メールやインターネット導入はDXではないが、ZoomやTeamsを導入してWEB会議ができるようになったのはDXであると言えるのか。

このようにデジタイゼーション、デジタライゼーションの境界は極めて曖昧ですね。

RPAやリモートとかグループウェア導入に限らず、ワープロやExcelも含めてIT導入が業務効率化や生産性向上に直結するのは「当たり前」の話です。

それがなぜか日本企業はここ20年、その当たり前ができなかったのは、以前「組織改革のないDX(デジタル・トランスフォーメーション)ブームの絶望感」という記事でも書いたように、簡潔に言えば、日本の経営者の多くが無能だったからです。(その証拠に日本を除くアジア諸国、欧米とも2000年以降、生産性、所得とも数倍に伸ばしている。)

それはともかく、一方でベイシアのDXの定義は、「業務効率化のためのIT導入がデジタイゼーション、そして売上向上に直結するIT導入がDXである」というもの。
この定義は誰にとってもわかりやすいと言えないでしょうか?

DXをどのように売上につなげるのか?

そのベイシアは、DXをどのように売上向上につなげているのか。

ベイシアでは、リアルとインターネット(オフラインとオンライン)の相乗効果でビジネスを拡大するOMO(Online Merges with Offline)戦略を進めていますが、その具体的な戦略を「ぐるぐる図」で表しています。

図表1:ベイシアのデジタルコンセプト「ぐるぐる図」
DIAMOND Chain Store ONLINE「開始から1年で劇的変化!「ぐるぐる図」で OMOを強化するベイシアのDX戦略とは」

「ぐるぐる図」とは、誰もがすぐ意味がわかる、秀逸なネーミングですね。

ある要素の増加が、次の要素の増加に繋がり、それがまた自分に戻って、更にその要素を増加させる。
そのような仕組み(システム)の構築が、ベイシアのDXの肝です。

システム思考の自己強化ループ(Reinforcing Loop)を、子供にもわかるような名前で言い換えたことで、イメージがすぐ湧くような構図になっています。

この「ぐるぐる図」は、岸田内閣の目玉政策「新しい資本主義実現会議」のメンバーの平野未来氏が代表を務める、AIソリューション会社シナモンの執行役員堀田創氏が著した「ダブルハーベスト -勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン-(ダイヤモンド社)」で紹介されている「ダブルハーベストループ」とも同じです。

同著で紹介されていた、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが起業前、レストランの紙ナプキンに描いたことで知られる図が下記ですが、「ぐるぐる図」と全く同じ自己強化ループです。

アマゾン戦略1

ベイシアの亀山氏は上記のようにアマゾン出身ですので、「ぐるぐる図」を描く際にジェフ・ベゾスの図のことが頭にあっただろうということは、想像に難くありません。

システム思考(もちろん言葉はダブルハーベストでもぐるぐる図でも何でも良いのですが。)でビジネスを考えることができたり、それをもとに事業デザインを設計できることが、売上を上げるためのIT、すなわちDXの鍵であることが、ここからも明らかなのだと考えます。

(記事内容及び資料は、DIAMOND Chain Store Online「開始から1年で劇的変化!「ぐるぐる図」で OMOを強化するベイシアのDX戦略とは」から引用させていただきました。)

日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催