DXとダブルハーベストループ

ダブルハーベストループとは、『ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』(ダイヤモンド社)で示されたDXやAI活用のための戦略デザイン手法です。


 
ダブルハーベスト(多重収穫)とは、「ただ稼ぐのではなく、何重にも稼ぎ続ける。次なる時代の勝ちパターン」あるいは「ベゾスがAmazon創業前にメモ書きした『戦わなくても勝ち続けてしまうループ』」とされ、AIを活用して企業の戦略デザインを行ったり、DXを推進する為にも欠かせない考え方や仕組みであると、この本で述べられています。

AI(人工知能)の特徴の一つに「強化学習する機械」というのが挙げられます。世界一の囲碁プレイヤーに勝った「アルファ碁」のようなAIでは、様々な対戦データを自己生成し続けることで、その中から「勝ちパターン」を見つけてそのパターンをさらに強化していきます。

ここでいう「強化」とは、単に対戦をたくさんして経験を積むというだけでなく、AIが賢くなることで、より難しい対戦局面を生成して自己対戦を繰り返し、より高度な勝ちパターンを身に着けていく。そうして賢くなったAIはさらに高度な対戦局面を生成してまた自己対戦を繰り返す ― 。ということを指します。

つまり下図のような収穫(ハーベスト)が次の収穫を生み出す自己強化ループ(Reinforcing Loop)が、ハーベストループの本質です。


 
このようなハーベストループは、ゲームばかりでなく、画像や文字の認識、自動運転システムなどでも全く同じように働きます。そしてDXにおいても、会社を変革してより時代に対応したものにするためには欠かせないアプローチとなるわけです。

AI設計に必要なシステム思考

「ダブルハーベスト」の本の中には、有名なジェフ・ベソスの紙ナプキンの事例が述べられています。つまり経営におけるダブルハーベストとはシステム思考を指し、ハーベストループとは因果ループ図のうち、自己強化ループを指します。

アマゾン戦略1
参照記事:
システム思考がアマゾンを世界一のECサイトにした
GAFAに共通する成功戦略はシステム思考

もちろんアマゾンだけでなく、GAFA+Mはすべてシステム思考に基づいた戦略を持っていますし、他にもテスラを始めとするイーロン・マスクのビジネスも同様です。

年間販売数がまだ数十万台に過ぎないテスラが、販売数が1千万台を超えるトヨタ自動車やGMなど、大手自動車会社をあわせたよりも高い時価総額をつけているのは、決してバブルだからと言うだけでなく、マスクの企業群の何重にも連なるハーベストループの戦略が、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)のインフラになると市場から評価されているからです。
 

イーロン・マスク企業群のサーキュラー・エコノミー戦略


参照記事:時価総額がトヨタを上回ったテスラのビジネスモデル

逆に言うと、システム思考を身につければ、AIの設計はより容易になります。なぜなら画像認識などのAI環境(コンピュータ環境)に比べて、システム思考が扱う、様々な人間(ステークホルダー)やあらゆる外部環境を考慮しなければならない経営環境のほうが、遥かに複雑だからです。

システム思考で因果ループ図を作成することに慣れると、様々な事象において、ループ図を書くことが容易になります。

実際ループ図を描くこと自体は、それほど難しいことではありません。「風が吹けば桶屋が儲かる」というのはまさにハーベストループの典型です。

でも本当に風が吹いたおかげで財を成した桶屋というのは、私たちが知る限りいませんよね?
つまりループを描くことができたとしても、そのとおりに動く(ループが回る)とは限らないわけで、では「どうすれば意図したようにループが回るのか」を考える(思考する)必要があるのです。

ここが「システム思考の肝」なのですが、具体的な手法を一つ挙げると、「システム原型」というパターンに当てはめることで、どこを刺激すればループが回るようになるか、そのためのレバレッジポイントを見出すやり方があります。

参照記事:システム原型を知れば、課題に予め対処することができる

ハーベストループ(因果ループ)を描ける人がAI時代に生き残る

これからAIがますます普及していくに従って、職を失ったり、あるいは会社自体がAIに対応できずに撤退を強いられたりすることが多発すると思われます。
もちろんフランス革命時の貴族や、明治維新のときの士族のように「抵抗勢力」は常にいてときには「揺り戻し」も起きるのですが、時代の流れには逆らうことができないことは、歴史が証明しているとおりです。

これからのビジネスシーンで生き残る人材、そして企業は「AIを使いこなす」人や会社であることは論を待ちません。

ここで大事なことは、「AIを使いこなす」とは、エンジニアやプログラマになるというのではないことです。
これまでもそうですが、機械やITが普及してその中で勝ち残る人は、決して機械工やソフトウェアエンジニアというわけでもなかったですよね。
この機械やITで、どういうビジネスができるのか、ビジネスに機械やITをどう活用すればいいのかをいち早く見出した人たちでした。その典型がGAFA(M)の創業者たちですね。

同じように、「AI時代の勝ち組」は、AIエンジニアやプログラマなど、AIの知識を持っている人ではなく、AIを使ってビジネスができる人。経営にAIを活用できる人です。

そのために必要な人材が「ダブルハーベストループ(自己強化ループ)」を描ける人であり、そのためのシステム思考ができる人ということになります。

また実際にDXの推進やAIの導入には、デザイン思考やアジャイルの活用も必須です。
そして、AI人材の育成や、経営にAIを戦略的に活用するには、アート思考も不可欠です。
そのあたりは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の鍵は、デザイン思考とアジャイルマインドや、DX人材の研修のやり方 で解説していますので、合わせてご参照下さい。


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