経営学がビジネスを説明できない理由

大学の経営学部に進学する人、あるいはMBAを取るために大学院や米国に留学する人の多くは、「ビジネス」について学び実践に活かそうとする方々だと思います。
そこまでいかなくても経営書を買って読む人の多くもそうでしょう。

しかしながら、日本を代表する経営学者の入山章栄早稲田ビジネススクール教授は、「現代の経営理論はビジネスを説明できない」と経営学のベストセラー本「世界標準の経営理論」の中で述べています。


 
その理由として次の3つを上げています。
1.現代の主要経営理論の大部分は、コンテンツ(ポーターのファイブフォースの5つの要素や、バーニーのRBV理論のリソース等)を説明するもので、ビジネス(戦略)プランニングを説明する理論は乏しい。
2.還元主義である経営学の理論は、ビジネスモデルの部分部分のメカニズムを解き明かすのには適しているが、ビジネスモデル全体を説明するのには適していない。
3.そもそも、現代社会において「ビジネスの目的は何か」について、世界的なコンセンサスが存在しない。目的が定まっていないので、(特に規範性を持った)ビジネスの理論がない。

経営理論がわかってもビジネスで成功できない

経営理論と現実のビジネスとの差異。これもよく指摘されることです。
「経営理論を学んだからと言ってビジネスで成功できるとは限らない。もしそうなら経営学の教授はみなビジネスで大儲けできるはず」などということは、昔から言い古されてきていますよね。

なぜこの批判が的はずれなのか。それについてもこの「世界標準の経営理論」では書かれています。
経営学という学問(というかそもそも学問というものの多く)は、還元主義という考え方に基づいています。還元主義とは「複雑な現象でも、その要素を細かく分解してそれぞれの本誌的な法則・メカニズムを導き出せば、それらを足し合わせて全体構造の本質が導き出せるものである。」という考え方です。
あるビジネスがどういう理由でうまくいったのか。その現象を分解してその理論を導く。これが経営学といって良いでしょう。「世界標準の経営理論」では30ほどの経営理論が描かれています。

しかしながら、ビジネスそのものは、還元主義ではなく全体主義(全体論)が必要なものです。あるいは「『創発』が必要なもの」と言い換えてもいいかもしれません。
「創発」とはなにかというと、「要素を足し合わせても全体にはならず、もっと必要な『何か』」を指します。

例えば、水を分解すれば酸素と水素という要素に分けることができるのを誰もが知っています。これは化学という還元主義に基づいた学問を中学や高校で習ったからですよね?

では、その酸素や水素について詳しく知ったからと言って、「水」について何か知ることができたと言えるでしょうか?
「水」の性質、例えば0度で氷になるとか、100度で気化する。あるいは生命に必須の物質であるというその性質について、酸素や水素についての知識はほとんど役立たないと思います。
これは水が単に酸素や水素が集まってできた物質ではなく、「創発というプロセス」が含まれるシステムであることを指しています。

ビジネスも同様で、単にリソース(人、モノ、金、情報等)を集めてもビジネスは生まれません。「創発」が必要です。

このような要素と要素が集まり、創発して生まれるものが「システム」です。

ビジネスモデルにはシステムと経営両方の知識が必要

ビジネスモデル(Business Model )という用語は、1990年代中盤から後半のIT(Information technology) の発展に伴って広く米国で普及しました。
要素還元のやり方に沿って、成功要因を分解するばかりでなく、実際に成功するビジネスを組立てる。このようなビジネスモデルの考え方に、「システム」の考え方が必要であるのは言うまでもありません。

システム開発の分野では、大規模なシステム開発が始まった1950年代から、主に米国防総省などの軍事分野、後には宇宙分野を中心に「システムモデリング」の考え方が普及し始めています。

したがって、ビジネスモデルの理解には、経営学だけではなく、システム論(システム思考やシステムズエンジニアリング)の理解が必要になります。
弊社で開発したビジネスモデル作成手法の「ICONIX for Business Design」は、もちろん後者です。この手法は変化する環境の中で、適切にシステムモデリングを行うための手法「ICONIX」をビジネスモデルデザインに応用したもの。
デザインプロセスのフレームワークなので、どのようにビジネスモデルを組み立てればよいか、このやり方に沿って考えていくことが可能です。

もちろん、その組立てたモデルが有効かどうか、うまくいかないときは、それはなぜなのか、分析するには、「経営学」の様々な理論がその理由を考えるための思考の軸になってくれるでしょう。センスメイキング理論やリアル・オプション理論など、そもそもこのシステムモデリングのやり方がなぜうまくいくのか説明してくれるのも経営理論です。

このように、経営理論とシステム論は、ビジネスモデルを考えるための車両の両輪です。
ビジネスモデルの作成や、新規事業など新たなチャレンジ役立てて頂きたいと思っています。