デジタルイノベーションと収益向上
先日‘(12月13日)、日本能率協会さんで講師をさせていただいている「DXのための3つの思考法(アート思考/デザイン思考/システム思考)入門セミナー」の今年最後の講義&ワークショップが終わりました。
今回は今までと少しプログラムを変え、講義パートを減らし、個人ワークなど「手を動かす」部分を増やしたこと、DXでどのように会社や事業の価値を上げ、収益向上に繋げていくかというところのメカニズムやそのためのやり方について、少し詳細に説明するようにしました。
本記事では、今まで当サイトのDX事例で触れたことも振り返りながら、このあたりをまとめてみたいと思います。
DXの目的はデジタルを活用した収益向上と競争優位の確立
改めて「DXの目的」について振り返ってみますと、DXとは、古い(レガシーな)社内システムを新しいものに代替することはありません。
また、ITの導入で省力化やコスト削減をすることでも、業務の効率化を図ることでもない。
通産省の資料(下図)にもあるように、DXとは「新規ビジネスの創出」あるいは既存ビジネスの「デジタル技術導入による既存ビジネスの付加価値向上(個社の強みの明確化・再定義)」により、全社的な収益向上を達成することです。
このあたりの「誤解」を正すためもあって、2022年7月、経産省は「DXレポートver2.2」を発表しました。
デジタルイノベーションの手法とは
ではどのように、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によって収益を向上させることができるのか。
これについてもDXレポートに記載されています。
「新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立する。」
つまり、「価値を創出」「競争上の優位性の確立」を行うことで収益を向上させるとしていますが、そのためには「顧客エクスペリエンスの変革」が必要であると述べています。
そしてこの「顧客エクスペリエンスの変革」をどうやって行うのか。そのために「ネットとリアル」を活用して「新しい製品やサービス、ビジネスモデル」を構築する。つまり「デジタルイノベーションが必要」であると述べているわけです。
まとめて(端折って)言えば、顧客エクスペリエンスの向上を目的とするために導入するIT、デジタル技術の導入が「DX導入」であり、そのことを通じて収益向上を図るのが、「DXの目的」と言っても良いかと思います。
DXによる収益向上、売上増加のフレームワークとは
具体的にどのようにDXでデジタルイノベーションを行うことができるのか。
これは、具体事例があるほうがわかりやすいと思いましたので、セミナーではいくつかの会社の事例を挙げています。
ここでは、ベイシアとおそらくその元となったアマゾンの事例を紹介します。
ベイシアグループは、カインズ、ワークマン、ベイシア(いせや)などを有する流通企業ですが、この会社では「ぐるぐる図」というわかりやすい概念で、その戦略を説明しています。
ベイシアでは、アプリポイント、OMO(Online Merges with Offline)、データ、サービスが循環することにより、ベイシアのデジタル戦略のコンセプトである「健康とおいしさがあふれる便利な節約生活の実現を支える顧客体験の醸成」を図るとしています。
ぐるぐる図からポイントだけ抽出したものが下図です。
上記の要素を循環させるために適切な箇所に適切なITシステムを導入する。このIT導入を「エンジン」にしてこのぐるぐる図(ループ図)を回すというイメージです。
ベイシアでこの「ぐるぐる図」戦略を推進しているCDO/CMOの亀山博史氏が、おそらく参考にしたのが、彼の出身企業でもあるアマゾンのジェフ・ベゾスの起業時のエピソードではないかと思います。
ジェフ・ベゾスがまだアマゾンを起業する前、レストランで友人たちに事業プランを説明したときに、テーブルに置かれていた紙ナプキンに書いた図というのがあります。
シンプルながら、アマゾンの「事業価値」をよく表していた図ではないでしょうか。
Eコマースによる低価格販売とロングテール戦を顧客体験、さらにトラフィック(=売上)に結びつける。この好循環構造をデジタル技術(Eコマースシステム)によって実現させる。
今でこそ「当たり前」となったこの仕組ですが、このことに初めて取り組んで成功したジェフ・ベゾスの戦略が、このシンプルなループ図にすべて表されていると言っても過言ではありません。
デジタルイノベーションと3つの思考法
以上の事例からもおわかりのように、DXそしてデジタルイノベーション、つまりITの導入によって収益向上を図るには、下図のような「コスト削減にITを活用する」ときとは違った工夫の必要があります。
その事例がの一つの形が、上記のベイシアグループやアマゾンの取り組みの形なわけですが、デジタルサービス(IT)をどのように導入するか、今までのようにシステム会社やIT部門に任せていればすむ話ではなく、経営陣が率先して新規あるいは既存のビジネスの本質を可視化し、その本質に基づいた課題解決をイノベーティブに行う必要がある。
そのために上図のような形で3つの思考法(アート思考法、デザイン思考、システム思考)をそれぞれの形で活用できたところが成果を上げています。
ぜひそれぞれの会社や組織で活用して、DXやデジタルイノベーションを通じ、収益向上→日本経済を元気にできる会社が1社でも増えることが今の願いです。
日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催