いつの世にも陰謀論
ユダヤの陰謀、フリーメーソンの支配、ロックフェラー、ロスチャイルド、スカルプ&ボーンズ、GⅡ、国際コミンテルン、バチカン、日本会議などなど。「実は世界は影で◯◯が支配している」という話に事欠くことはありません。
ヒトラーがユダヤ人虐殺を行ったのも、19世紀末のシオン会議で定められた、ユダヤの世界支配のプログラムである「シオンの議定書」の存在のためだとされています。(現在シオン議定書なるものは偽書であるとされています)
また、1995年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は当時出演したテレビで仕切りとフリーメーソンからの攻撃を受けている、という趣旨のことを述べていました。
未だに「陰謀論」の本は売られており、これを信じる人は決して少なくはないようです。
世界を支配するとは?
言うまでもないことですが、世の中に「陰謀」は、たくさんあるでしょう。日本の政治について語られる料亭の奥座敷から、出がらしの茶っ葉を入れて嫌味な上司をとっちめてやろうとする給湯室のOLの会話など、今この瞬間もあちこちで様々な「陰謀」が企てられていることでしょう。
しかながら「世界を支配する」というのは、どうなのか? 「陰謀論本」を読むと、政財界のトップは、その陰謀グループのメンバーであると。そして彼らは、国民や自社の社員ためではなくその陰謀グループのために動いているようです。
しかし、多くの本はここまでしか語られていなくて、「一体どうやって世界を支配しているのか?」は書かれていません。
例えば世界で最も影響力が高いと言われる、米国大統領を支配下においたところで、世界を支配したなどといえるのか?
実際今のトランプ大統領が、全国民というより、国民の一部の利益代表であることは、誰もが知っていることですが、その内容はとみると、迷走して法律ひとつ(例えばオバマケア廃止、イスラムやメキシコからの入国阻止など)まともに通すことができない状態です。世界どころか、自国の支配もうまくできているようには見えません。
世界を支配する唯一の手法がシステム思考
あと付けで、◯◯の事件(リーマンショック、第2次世界大戦等)は陰謀者が起こした、などと書いてある本もありますが、これもその事件の首謀者が組織の一員であったというくらいです(もちろん証拠はない)。
仮に、様々な組織のTOPに、陰謀グループが入り込んでいるとして、一体どのように「世界を支配」するのか、考えてみたいと思います。
ジョージ・オーウェルの「1984年」では、今で言うコンピュータ・ネットワークが、世界中を張り巡らされ、人々は24時間その監視下にあり、それに逆らう考えを持つことも許されない。
現在すでにネットワークは私たちの周りに張り巡らされ、私たちの行動も、街の防犯カメラやネットやカード(クレジットカードやポイントカード、あるいはキャッシュカード等)を通じて、履歴が残されています。
比喩的に「支配されている」とい言うことはあっても、これらのネットワークは、セキュリティだったりマーケティングだったり、あるいは税金をきちんととることが目的で、「人を支配する」ことを目的にあるわけではない。
「1984年」技術的には可能でしょうが、現実的に世界中の人間一人一人の思考まで支配できるような社会システムが作られる日が来るというのは、流石に現実的ではないと思います。
一人ひとりの思考を強制的に縛り付けることなく、世界を支配する方法はあるのでしょうか?
もしあるとすれば、それは、未来を完璧にシミュレーション能力や手法でしょう。
太平洋戦争を、ある勢力の陰謀であったという人がいます。
日本を石油不足の状態に追い込み、インドネシア等の石油産出国に進出するよう働きかけ、日米交渉で無理難題を押し付け、日本の首脳に「もう戦争しか手段がない」と思わせて、最新の空母をあらかじめ退避させて、手薄の真珠湾を攻撃させた、というのもの。
これが陰謀論者のシナリオだとすると、彼らは、日米両国政府を含む様々な人々が、どのように動くか、それを正確にシミュレーションでいる能力や手法に長けているということになります。
代表的なシミュレーション手法は2つ知られていて、マルチ・エージェント・システムとシステム・ダイナミクスがあります。
どちらも(広義な意味での)システム思考の手法になります。
マルチ・エージェント・システムは、個々の要素(エージェント)の動きや振る舞いが、システム全体にどのように影響するかを調べるためのもので、例えば火事などのシミュレーションで、小さなボヤがどのように街全体に広がるような大火になるかといったシミュレーションや、あとアリのそれぞれの挙動が、みごとな蟻塚を作る様、あるいは渡り鳥が、まるで指揮者がいるかのように見事な直線図形を描いて飛ぶのもこれでシミュレーションができます。
そしてシステム・ダイナミクスは、マルチ・エージェント・システムと逆に、いわば神の視点で、個々の要素がどう動いて、全体のシステムに影響を及ぼすかシミュレーションするもの。
これを手法として確立したのは、もともと米軍のプロジェクトにいたMITのジェイ・フォレスターで、1956年のことです。
第二次大戦中は、もちろんまだ、この手法はできていませんが、もし当時因果ループ図を書く人がいたら下図のようになるかもしれません。
図の上部分は、よく言われてきたところですが、満州事変から始まる日本の大陸進出が米国の対日感情を悪化させて、対日強攻策(ハル・ノート)になり、日本を追い詰めていった。それが、南方など対外進出に拍車をかけていった様子を表しています。
これらのループは、皆自己強化ループなので、緊張が緩むことはありません。しかしながら下半分の自己強化ループ「軍拡と石油不足」に注目していただきたいのですが、このループも自己強化ループなのですが、石油備蓄がどんどん減るループなので、日本の石油がカラになるまで回り続けます。そうなると、日本の体制は維持できず崩壊してしまいますので、ループが止まらない以上、起死回生の一打(真珠湾攻撃)を打たざるを得なくなります。
石油の備蓄状況の変化をみれば、開戦の時期までシミュレーションができたかもしれません。
他人に支配されないために
実際に世界を支配している(しようとしている)陰謀論者が存在しているかわかりません。
しかし、もし世界を支配したいのであれば、正確なシミュレーション手法、システム思考やシステム・ダイナミクスを完璧にマスターしている必要があると思います。
また私たちが、為政者に支配されないためにも、この知識を身につけることによって、彼らの意図を見抜くことができるようにすることが大切なことかもしれません。
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