新型コロナウィルスに関して、WHOが「パンデミック」を宣言しました。
「COVID-19」と名付けられたこのウィルスは中国から始まって現在イタリアやイランでも猛威をふるい、アジアでは韓国や日本がこれから大流行となるのか収まるのか予断を許さない状況です。

日米の株価も底が見えない大暴落となり、新型コロナウィス禍が経済に及ぼす影響に多くの人が不安な気持ちに陥っているのではないでしょうか?

今回の新型コロナウィルス禍が今後どうなるのか、実はシステム思考はひとつの答えを持っています。

もちろん、実際にいつまでこのコロナ禍が続くのか、罹患者数が最終的に何人になるのか、亡くなる方が何人になるのか。これは基本的には医学の問題で、代わりにシステム思考で答えが出せるという意味ではありません。私自身に関しても医学には全くの素人なので予測や予言もできません。

ただし一つだけ言えるのは、今回のコロナウィルスに限らず、病気の流行には必ず一定のパターンがあって、今回もその例外ではないということです。これは中世の黒死病にせよ、20世紀はじめに世界を襲った「スペイン風邪」や毎年流行しているインフルエンザにせよ変わりはないのです。

そこで、今後この新型コロナウィルスがどのようなパターンを描くか、システム思考(システムダイナミクス)にしたがって、シミュレーションをしてみたいと思います。
 

因果ループ図のシステム原型で描く「病気の流行」

システム思考の代表的なツールである因果ループ図には「システム原型」と呼ばれるいくつかのパターンがあります。「応急処置の失敗 (Fixes That Fail)」「問題の転嫁 (Shifting the Burden)」 「共有地の悲劇 (Tragedy of the Commons)」など全部で8パターンが一般に知られています。

今回のような病気の流行には、「成長の限界 (Limits to Success)」のモデルが当てはまります。
 
 

 
図の右側のポジティブ・フィードバック(Reinforcing Loop)は、コロナウィルスに罹患した人が周りの人にそれを伝染して、新規患者数が増える様子を表しています。罹患者数(母体数)が増えれば、それに比例して新規患者数が増えていきますから、倍々ゲームで新規の罹患者は増えていきます。この数字を見ていくとまさに恐怖に襲われるでしょう。

しかし、この数も永遠に増えることはありません。極端に言えば日本の人口以上に日本人が罹患することはないのです。この上限が潜在罹患者数です。この因果ループ図では左側のバランスループが病気の拡大にブレーキをかけています。

ちなみに、20世紀はじめのスペイン風邪では日本全土で2千万人以上が罹患したと言われています。このスペイン風邪の日本の死者数は40~50万人くらいと言われていますから致死率は5%くらいです。
当時はウィルスに関する知識がほとんどなく、有効な治療法もなかったわけですが、それでも2年弱で流行は収まりました。

今回の新型コロナウィルスに関しても、まだワクチンなど有効な治療法は確立されていません。そしてこれからどれだけ流行するのかもわからないのが正直なところです。
とはいえまったくデータがないわけでなく、過去3ヶ月間の中国のデータ、日本の罹患者数のデータから、シミュレーションを試みてみたいと思います。

これはもちろん、これからこうなるいうと予測や予想をしているわけではありません。
今わかっているのは、パターンだけです。予測をするためには今後の罹患数や致死率等のデータを随時アップデートしていき、様々な情報を集めて解析して、少しずつその確実性をあげていくという地道な作業を行う必要があります。今回はその最初の第一段階です。
 

ストック&フロー図によるシミュレーション(一例)

ここでは今までわかっていることをもとにシミュレーションをしてみたいと思います。その方法の一つが、システムダイナミクスのストック&フロー図(S&F図)でシミュレーションするやり方です。
上記の因果ループ図をS&F図に転換したのが下図です。
 
 

 
シミュレーションにあたってまず考えなければいけないことは、潜在罹患者つまり全体でどのくらい罹患するかという数字ですが、これは現在の中国のデータを当てはめてみます。

実は中国では、(今のところは)流行のピークは過ぎていて、3月12日現在での新たな患者数は1日10人以下になったと報道がありました。(ピーク時には1日数千人という数字でした。)今までの罹患者数は約8万人と言われています。
 

読売新聞オンライン(3月9日)より

 
 
日本に関しては今後どうなるでしょうか。
ここはもちろんわかりません。平均的には中国よりも医療体制は充実していると言えるし、全体の人口も10分の1、中国でのニュースに触れていた分、水際での初動体制もそれなりに取られていました。
一方で中国ほどの強権を使って国民の移動を封じるなどの処置を日本は取りづらいですし、国土は狭く人口密度は中国よりも高い。

したがって中国と比べて高いとも低いとも考えることが可能。
これ以上は考えようがないので、ここは当てずっぽうで、中国と同じ8万人を日本での累計の罹患者数=潜在罹患者数としてみました。

一方の日本(国内)のデータは、2月初旬に初めての患者が報告され、その後ほぼ1ヶ月で604人という数字です。
 

朝日新聞DIGITAL(3月12日データ)より

 
この2つのデータのみで、上記のS&F図に当てはめてシミュレーションをしてみます。
罹患者が報告されて最初の30日間のシミュレーションデータは次のような感じです。
 

 
この日数をもっと伸ばしてみると、下図のようなシミュレーションデータが得られました。
 


 
8万人罹患して致死率を1%とすると、800人の方が亡くなる計算です。
これは年間のインフルエンザによる死亡数(数百人~千数百人)の標準からすると、その範囲内からそれほど外れていない数字です。
 

 
ピークは50日目くらいで、だいたい収まるまでに80日くらいです。2月初旬から数えると今月下旬から4月上旬がピークで、GWの頃には落ち着くという形になるでしょうか。

繰り返しますが、この数字はひとつのシミュレーションに過ぎず、このように推移するという予想や予測ではありません。もっと長引く可能性も高いですし、逆に今世界中で取り組んでいるワクチンの開発が思ったより早くできるかもしれません。
中国のデータを日本に当てはめたのも上で述べたように根拠はまったくないです。

ただ間違いなく言えることは、新型コロナウィルスはかつてのエイズウィルスのような致命的な病気ではなく、致死率は多くても1~2%です。50歳以下の方に関して言えば1%以下で、これは既存のインフルエンザウィルスと比べても特別高い訳ではありません。(ただし高齢者や他の病気にかかっている人の致死率は高いのでその対処は別途必要です。)そして期間はともかくいずれは流行が収まる病気であること。

私達はこの「強敵」に対して変に楽観的にも悲観的になる必要はなく、「正しく恐れる」ことが必要だと思います。
リモートワークやテレワークなどでなるべく人混みにいかない。また空気感染はないというデータがあるので、まず接触感染に注意して手洗いやアルコール消毒を徹底する。

今後経済もしばらく低下することは避けられませんが、過去の株価暴落のデータを見ても、数ヶ月先か数年先かはともかく、普通ならばこれも元通りになるでしょう。

目先を見てパニックになったり、変に短期的な株価操作的なことをやってあとに禍根を残すよりも、こういうときこそ、先を見据えた政策が国にも企業にも、そして私達一人ひとりにも必要なのだと思います。