システム思考を活用した課題解決のシミュレーション(思考実験)として、北朝鮮問題を考えてみます。日本の外交問題として、もっとも重要な問題の一つが、金正恩政権を有する北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)です。
拉致問題、そして核兵器、ミサイル兵器の問題。米国や中国、ロシアも巻き込んでにっちもさっちもいかない状態になっています。

因果ループ図で描く瀬戸際政策

ここで北朝鮮の金正恩政権の考え方を因果ループ図で描いてみます。

ただし、これはあくまで思考実験なので、「私自身が今見えている」という留保がつきます。
私自身北朝鮮には行ったことはありませんし(韓国側から望遠鏡で眺めたのが、唯一の体験)、国内情勢についても日本のマスコミやネットなどの2次、3次情報しか知りません。
実際には現地調査など、1次情報を集め正しく現状把握をしないと、正しい対策は打ち立てられません。

マスコミ報道等によれば、北朝鮮の政策は「瀬戸際政策」と呼ばれているそうです。
一本道を走るチキンレースの車のように、あえて自らを危険にさらすことで生き延びようとする。
だから常に対外的緊張を必要としているし、国内締め付けも抑えようとはしない。
それに対し、国際社会は、「圧力と対話」で対処しようとしています。
北朝鮮が核実験やミサイル実験を行うたびに経済制裁を加える。北朝鮮側が実験凍結や来問題協力などの対応を見せれば、制裁を緩和し、それに応じた「対話」を行おうとする。
これは一部の拉致被害者の帰国が果たされるなど、部分的な効果をあげましたが、その間にも北朝鮮は核やミサイルの技術開発に勤しみ、ここ数年は圧力一辺倒ですが、北朝鮮側も年に何度もミサイル実験をおこなうなど、状況の変化はまったくありません。

このことを因果ループ図でシンプルに表したのが下図です。

北朝鮮瀬戸際政策

核兵器やミサイル実験を繰り返すことで、国際社会から経済制裁を受けますが、それが国内的な危機感を醸成して、独裁政権への支持を集めています。
これは日本でも戦前「鬼畜米英」スローガンがありましたし、今でも政権の支持浮揚策で、国際的な危機や外交問題を活用するのはごく普通のことですね。

そうして、独裁政権(金正恩政権)はますます核兵器やミサイル兵器の開発に勤しみます。
国際社会は、経済制裁を強化することで、金正恩政権が音を上げることを期待していますが、これは逆に政権の強化につながっていますので、国際社会が望むような結果は得られません。

自己強化ループを逆回しにする

この北朝鮮のループの行き着く先は、これだけではわかりません。
負担に耐えきれず、政権が瓦解するか、あるいは何かの拍子に、ミサイルの発射ボタンに手をかけることになるのか。
どちらも日本にとって影響は少なくありません。

ループを止めるには、この自己強化ループのどこかに介入しなければいけません。
すぐに思いつくのは、金正恩政権の排除ですが、実際には難しく、戦争のきっかけにもなりかねません。

そこで、制裁と危機感に注目してみます。

今までも制裁の一部解除とか対話の試みとか行われてきましたが、ほとんど効果はありませんでした。
これくらいで、金正恩の危機感が無くなるわけではありません。

そこで思考実験として、北朝鮮の対外危機感がすっかり無くなるくらいの対応を、国際社会がおこなったらどうなるか考えてみます。

北朝鮮が要求しているのは、対米直接交渉と体制保証だそうですが、それを無条件で認めます。軍事以外の必要な物資も援助し、領土拡張以外の要求は全て答えてやります。
北朝鮮への物資援助への反対意見として、政権内部で物資をとりこんでしまい、一般庶民にはほとんど回らないというのがあります。
しかし政治家やその“お友達”が、その特権を悪用して美味しいところ取りをしようとするのは、どこの国にもあることです。(笑)
また援助物資の軍事転用とか、いろいろ問題はありますが、どちらにせよ軍事開発は止まらないのですから、目をつぶって徹底的な宥和政策を行います。

しかし本当に困るのは、実は金正恩政権側です。
北朝鮮は、「対外戦争を勝利した」と国内宣伝し、国民は「金正恩万歳!」となりますが、そうなると次に国民が期待するのは、自分たちの暮らしの改善や向上です。
国民を締め付ける大義名分が失われ、韓流ドラマを見てはいけない理由もなくなる。

戦争以外での体制崩壊は、緊張下よりも緊張緩和下でおこりやすいのは、ソ連のペレストロイカ後に起きた東欧諸国のドミノ現象にもみられます。

北朝鮮瀬戸際政策

因果ループ図で表されているように、自己強化ループには、バランスループを働かせることで、その回転をストップさせることができます。
一度回転がストップした自己強化ループは、多くの場合逆回転しだします。

システム思考は課題解決のポイントを示す

北朝鮮問題を事例に、課題解決の思考実験を行ってみました。
一般で言われている問題解決手段とは違った意見になりました。
実際に上記の方法が有効かどうかは、現実の北朝鮮やそれを取り巻く国の現状分析が必要ですが、解決手法のポイントについて考えるきっかけになれば嬉しいです。