本日、ソーシャルビジネスセミナーの動画収録を行いました。
2年前にも心理学会の中で、ソーシャルビジネスセミナーを行いましたが、今回そちらの告知ページをご覧になった株式会社ビズアップ総研様から依頼を頂いて実現したものです。
「普通の」ビジネスとソーシャルビジネスの違いとは
今日では「ソーシャルビジネス」という言葉は一般にも普及し、若い人の中には最初から「ソーシャルビジネス」を目指して就職したり起業する人も珍しくなくなっています。
ただ言葉は普及しているもののソーシャルビジネスとは何なのか。特に一般のビジネスとはどこが違うのか、説明できる方はそう多くないかもしれません。
特に現在では、営利企業でもCSRやCSVなどのスキームで社会貢献活動を行っていますし、また反対にソーシャルビジネスであっても持続可能の仕組みにするためにも最低限の利益を上げていかなければいけません。
そう考えるとますます両者を区別することは難しくなってきますね。
ロジックモデル
ソーシャルビジネスについて考える時、ひとつの指針となるのが、ロジックモデルの考え方だと思います。
ロジックモデルとは、ビジネスやプロジェクトなどの一連の流れを、「インプット」「アクティビティ」「アウトプット」「アウトカム」という4つのブロックとその流れを示したものです。
インプットは投入資源のことです。企業活動で言えば、人・もの・金・情報がよく知られています。
アクティビティはそのインプットされた資源を活用して行う活動(企業活動)のこと。そしてアクティビティの結果アウトプットが産出される製品やサービスがアウトプットです。そしてアウトカムとは成果のことですが、アウトカムによって社会がどれだけ変わったかの値(インパクトとも言います)です。製品やサービスによって社会が豊かになった、Wellbeingが向上したといった「成果」がアウトカムです。
そして、普通の営利ビジネスとソーシャルビジネスの違いは、アウトプットの量、売上高やそれに伴う利益を重視するのが普通の営利ビジネスであり、アウトカムを重視するのがソーシャルビジネスです。
「我が社はアウトプットもアウトカムも両方重視している」という経営者もいるかもしれませんが、お題目(?)よりも実質基準、例えば社員を評価する基準が、売上や利益、業務効率などアウトカムに関するものが多いのか、売上を上げる等アウトカムへの評価より、社会をどれだけ変えたのかということを評価しているのか、で判断すれば大抵の場合区別ができると思います。
営利企業であってもソーシャルビジネスについての知識が必要な理由
もっとも営利企業であっても、最近はESGやSDGsなどの浸透もあって、アウトプット(売上や利益)だけでなく、アウトカムも重視するようになった企業も増えています。
背景には「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」へという社会の潮流があります。
会社(株式会社)は、株主のためにあるというある意味自分第一の考え方は、だんだん今の社会では流行らなくなっていて、株主だけなく、顧客や従業員、取引先、さらには地域社会や地球環境まで考える。
つまり今の会社があるのは、株主だけではなく従業員や地域社会などの外部環境のお陰であるから、このような「社会」のために会社があるとするのがステークホルダー資本主義です。
そして今はEVなどの「脱炭素製品」などが売れているように、消費者も単に商品が良いとか安いとかだけでなく、環境など「社会のためになる」製品や商品が売れますし、「利益追求」だけで、例えば不祥事を起こしたりする企業はその存続まで危ぶまれてしまう時代です。
したがって今では、営利企業であっても「社会」や「環境」のための企業活動を考えることが欠かせなくなっており、そういう意味でもソーシャルビジネスについて知ることは営利企業にとっても必要なことになってきていると思います。
社会を良くすることで企業も伸ばすネスレの事例
このような会社のひとつとしてネスレが挙げられます。
ネスレは、途上国への様々な援助活動を行っていますが、これはCSR(企業の社会的責任)ではなく「本業そのものである」とブラベック会長はハーバード・ビジネス・レビューのインタビューで語っています。
ネスレの主製品であるコーヒーは、その多くが熱帯の途上国で産出されます。
途上国への援助によって人々の教育水準や技術が上がれば、当然質の良いコーヒー豆が産出されるようになるでしょう。途上国支援が会社の競争力を上げることになるのです。
また、コーヒーは嗜好品ですから、ある程度豊かにならないとコーヒーを飲めるようにはなりません。いま人口が増えているアジア・アフリカ諸国が豊かになればコーヒーの消費量が増えることも容易に予想ができますよね。
逆の言い方をすれば「世界中の人々がコーヒーを楽しめる社会」というのは豊かさの象徴であるとも言えると思います。
ネスレはそのような世界を創るべく途上国援助も含めた企業活動を行っています。
ソーシャルインパクトでパーパスとアウトプットを結ぶ
このような「社会をよりよくしてくれる企業」は、社会からひいては顧客から支持されるという意味にもなり、当然アウトプット(売上や利益)も向上するでしょう。
生産者や造り手、サービスの担い手に共感して消費する「共感消費」や、あるいは「共創」という言葉も注目されていますが、アウトプットだけでなく「アウトカム」を考えることによってそれに近づくことができるのではないでしょうか?
そういう意味でもソーシャルビジネスの方法論に注目が集まっているのだと思います。
では具体的に営利企業はどのようにすればよいのか、あるいはソーシャルビジネスがどうすれば「持続可能」な形でビジネスを行うことができるのか。
その基本は、上記のロジックモデルをきちんと考えること。
多くの企業では「企業理念」や「パーパス」を持っています。しかしこの理念やパーパスは「お題目」とまでは言いませんが、多くの企業では、具体的に企業活動(アクティビティ)や製品やサービス(アウトプット)をどのように「理念」「パーパス」につなげるのか、その「ロジック」は明確になっていません。
これを埋めるのが「アウトカム」です。
アウトカムを明確に定義することで、アクティビティやアウトプットを「企業理念」「パーパス」につなげることができます。
ソーシャルビジネスでは、このアクティビティやアウトプットからアウトカムにつなげるプロセスを「Change of Theory(変化の方法論)」と呼びます。
そしてこのCOTを具体的な値で示したものが、「ソーシャルインパクト」です。
一方のソーシャルビジネスでは、COTの方法論を持っていても、その前のアウトプットが得意ではありません。
だから最近では営利企業とNPOが組む「コレクティブ・インパクト」が注目されていて、お互いの得意分野を苦手分野を補完しあうのが一つの潮流となっています。
そしてゆくゆくは、営利ビジネスとソーシャルビジネスの垣根を超えたビジネスモデルが浸透していくこと。これが現在浸透しつつある「ステークホルダー資本主義」「新しい資本主義」の究極の形になるかかもしれません。
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