GAFAに共通する成功要因

今年(2018年)もいよいよ年の瀬ですが、今年ビジネス書業界で「流行語大賞」を選ぶとすれば、間違いなく「GAFA」は大賞候補に挙げられるでしょう。

GAFAとは、Google、Apple、Facebook、Amazonの4社を指します。いずれも時価総額で世界のTOPを争っている企業であり、世界を代表するIT企業です。
そしてこの中で最も古いAppleでもまだ操業して40年。ほかはまだ20年くらいの若い企業であることも特徴です。

この4社に共通するのは、いずれも消費者(コンシューマ向け)向けに、ITプラットフォームを提供している企業であるということ。
そのため世界の多くの人々の個人情報を握っており、そうしたことからあたかも、私たちの生活がこれらの企業により監視されている、極端に言うと支配されているかのような書き方をされています。
また、どれも「インターネット革命」によるレジームチェンジを推進する企業であることから、これに駆逐された形になった製品、企業も多く、その影響の大きさから「GAFA脅威論」も強く言われていることはご存知の通りです。

何やら「秘密結社」みたいな扱いのGAFAですが、彼らが「世界征服」だの「人々を支配」だのを考えているわけではないことは言うまでもありません。

要はITという世界中にアクセスできる仕組みのおかげもあって、短期間のうちに「世界企業に成長してしまった」企業がGAFAなわけです。
彼らも「世界征服をしてやろう」とか「監視社会を創ろう」と思っているわけではなく、単に(ほかの企業と同じように)ビジネスを成功させようサービスを普及させて売上を伸ばそうとしているだけ。

ただこの急成長のスピードが尋常ではなく、その軋みやひずみが表面化しているというのが現実の姿でしょう。

しかしここでは、その軋みやひずみ、あるいはGAFAの功罪について触れるのが主題ではありません。

なぜ彼らがこんなにすごいスピードで成長できたのか。それは「IT(インターネット)のそれぞれの分野で先鞭をつけたから」と思っている方が多いと思います。

しかし、最初にEコマースを始めた企業はアマゾンではありません。(諸説ありますが、1994年ごろNet Marketというサイトが始めたいう説が有力です。)最初にパーソナルコンピュータを作ったのも、携帯音楽プレーヤーやスマートフォンを発明したのもやはりAppleではありません。Facebookが創業したころは様々なSNSサイトが既に存在してましたし、Googleは検索エンジン分野ではむしろ「後発組」です。

IT産業のスピードが他産業と比べ格段に速いことは間違いありませんが、その分参入障壁も低く、彼らもたくさんの競合他社との争いを繰り広げてきました。

つまりIT企業であることも、彼らの技術力も、その成功要因の一部しか説明できないのです。

では、この4社が成功した本当の要因は何かというと、彼らが、正確には彼らの創業者がいずれも「システム思考」の持主であったという点です。

それぞれ個別にどのようにしてシステム思考で彼等がビジネスを拡大したか記してみたいと思います。

アマゾン

アマゾンは、創業者ジェフ・ベゾスが仲間と入ったレストランのナプキンの絵から生まれました。

アマゾン戦略1

すでにお解りのように、ベゾスが描いたのは、未来のビジネスのアーキテクチャ(構造)です。
低価格と豊富な在庫から商品を選択できるという顧客体験が、トラフィックを生み、それが売り上げにつながる好循環のループ(ポジティブ・フィードバック)を起こす戦略が、たった1枚のメモからわかります。

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アップル

アップルはスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックによって創業され、AppleⅡやマッキントッシュのヒットにより事業を伸ばしましたが、システム思考を身に着けていたビル・ゲイツ率いるマイクロソフトとのシェア争いに敗れ、ジョブズも会社を追われた後は倒産の危機にまで陥りました。
しかし、その後ジョブズが復帰すると、iPod、iPhoneというヒットを飛ばして、時価総額世界一にまで復活しました。

復活後のジョブズは、システム思考を身に着けていたことは、iPodの大ヒットからわかります。
iPodは、携帯音楽プレーヤーとしては、(当時の他社製品と比べ)決して優れた機能を持つ製品ではありませんでした。しかし、iPodには他の音楽プレーヤーにはない仕組みがありました。それがほかならぬ、iTunesです。
下図は、iPodとiTunes、レコード会社を中心とした、CVCA(Customer Value Chain Analysis顧客連鎖分析)図です。
顧客、アップル、レコード会社をそれぞれシステムの要素としてとらえて、全体を俯瞰する。そのようなシステム思考の能力が、復活後のジョブズには備わっていました。

そのことがアップルを世界一に押し上げることになりました。

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Google

上にも書いたようにGoogleが検索エンジン事業に参入した時には、すでに多くの会社がその事業に取り組んでいました。今も日本ではナンバー1のYahoo!やインフォシーク、ライコス、エキサイト、Goo、AltaVista、そのほかにも業界別のポータルサイトが、それぞれ独自の技術で検索エンジンサイトを運営していました。

Googleの仕組みは、ページランクと呼ばれ、この仕組みは「被リンクの多いサイトほど価値が高い。価値が高いサイトからの被リンクは価値が高い」というものです。

そのために多くのサイトが被リンクを集めようと必死になっていたのですが、ここにはある「法則」が働いていました。
それは、被リンクの多いサイトになる⇒検索エンジンの順位が上がる⇒閲覧数が増える⇒サイトの価値が上がって被リンクが増える。というポジティブ・フィードバックが生まれることです。

これは人間関係でもいえることですね。魅力がある⇒友達が多く集まる⇒ますます魅力的になる。お金が集まる⇒人や情報が集まる⇒ますますお金が集まる。

もちろんこれは貧富などの格差が広がるといった負の側面もあるのですが、ここで大事なことは、この仕組みの中心にGoogle自身がいることです。

ページランクの仕組み、被リンクのネットワークの仕組みが浸透すれば浸透するほど、Google自身の価値が上がり、それがまたGoogleの作った仕組みの価値が上がる。
このポジティブ・フィードバックの仕組みを理解し実践したからこそ、わずか10年という短期間で「世界一のサイト」を創り上げることに成功しました。

ところでこのページランクの特許は、Google創業者のラリー・ページやセルゲイ・ブリンが在籍していたスタンフォード大学が所有していると言われています。
スタンフォード大学は、システム思考やデザイン思考教育が充実していることでも有名ですね。もし彼らがほかの大学に進学していたら、Googleは生まれていなかったのかもしれません。

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Facebook

今やWEBの世界では、Googleと同じような、ある意味それ以上の影響力を持つFacebook。2008年の大統領選挙でのオバマの勝利、そして2016年のトランプの勝利にもっとも影響力を与えたのが、このFacebookだったと言われています。
(オバマ大統領の広報担当はFacebook創業者の一人でした。そしてトランプ勝利はFacebookを使ったフェイクニュースの力だったことが問題化しているのをご存知の方も多いでしょう。)

Facebookが今のような世界一のSNSになった構造(アーキテクチャ)は、Googleと全く同じです。ただFacebookもSNSでは後発組で、リンクが多いサイト⇒登録者が集まる⇒リンクが増えるというポジティブ・フィードバックを創ることができません。

その中で、マーク・ザッカーバーグがとった戦略が、小さいところでナンバー1になる戦略でした。
まず彼が手を付けたのは、マーク自身が通うハーバード大学の学内SNS。
ハーバードでナンバー1になってから、他のアイビーリーグをひとつひとつ落としていって、スタンフォード大学など西海岸の大学やケンブリッジ大学にも浸透し、大学SNSでナンバー1になって初めて、外の世界へ攻め入りました。

いわゆるブルーオーシャン戦略ですね。
もちろん、これは彼がハーバード大学生だったという「幸運」もありましたし(これが名もない大学から始めていたらおそらくうまくいかなかったでしょう)、フレンドスターという当時の最大のSNSサイトが、サーバーダウンなどのトラブル続きで顧客が流出していたというタイミングの良さもありました。

しかし、ザッカーバーグがシステム思考を理解し、ポジティブ・フィードバックを回し続ける戦略をとっていたからこそ、成功できたことはまちがいないでしょう。

このようにGAFAの成功の裏には、創業者がいずれもシステム思考を理解し、その戦略に忠実にしたがっていたことがわかります。
私たちが、GAFAについての本を読み、それをそのまま真似しようとしても、もちろんうまくいくことはありません。
しかし、自分自身のビジネスについてシステム思考で考え、ポジティブ・フィードバックを描けるような戦略を立ててみる。

そうすることで、成功の確率がぐっと高まることを、GAFAの事例は教えてくれています。

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