アップルが世界一の企業(時価総額世界1位)になれた理由を、多くの人が様々な分析をしています。
iPhoneの成功、デザインの素晴らしさ、巧みなブランディング術。なによりスティーブ・ジョブズの存在がそのすべてであったと言っても過言ではないでしょう。

ジョブズはアップルの共同創業者でしたが、後に業績悪化の責任を取られて会社を追われています。

ジョブズの後任の経営者もアップルを立て直すことはできませんでしたが、1999年に再度ジョブズが経営に復活すると、倒産寸前だったこの会社が、たった10年で時価総額世界一になりました。

会社を傾かせた以前のジョブズとその後復活したジョブズ。
一体何が違うのでしょうか?

例えば、革命的な商品を生み出す才能、これはパーソナルコンピュータもiPhoneのときも変わりません。デザインへのこだわりも変わらないですし、映画などで明らかなように、傲慢な性格(笑)も変わらなかったようです。(年を取った分前よりは角が取れた気はしますが・・・)

変わったのは見た目くらいではないでしょうか?(笑)

たったひとつ違うのは、ジョブズが「システム思考」を身に着けたことだと考えます。
以前のジョブズは、「製品デザインへの完璧なこだわり」がその全てであったと思います。
簡単にいえば、「より良い商品を出せば売れる」
日本でもこのように考えている人は多いですね。いわゆる「モノづくり信仰」。

無論売れるためには、良い商品でなければいけませんが(必要条件)、それがすべてではありません。(十分条件ではない)
MacがWindowsに負けたのは、性能やデザイン、ブランディングではなく(それらはどう見てもMacのほうが優れていました)、ビジネスをシステムとして考える才能に溢れたビル・ゲイツに負けたからです。

ジョブズ復活して最初に造ったPCであるiMacは、そのスケルトンなデザインばかりが注目されましたが、実はこのiMacは初めて「モジュラーにつなぐだけでインターネットができる」パソコンでした。(当時は、インターネットに繋ぐためには、複雑な設定が必要でした。)
iMacはまだ「システムを利用する」レベルでしたが、いよいよiPodで、「ビジネスのシステムをつくる」ことにジョブズは取り組みます。

iPodの登場時によく言われたことですが、製品としてiPodが特別優れていたのかというと、決してそうではありませんでした。
いわゆるMP3プレイヤーは韓国の会社が最初にリリースし、iPod登場時にはすでにいくつも競合製品が販売されていました。
ここでジョブズが取った戦略は、「音楽ビジネスのシステム」をつくることであり、iPodは、その「ビジネスシステムに繋がった一つの要素である」という位置づけだったのです。
言うまでもなく、そのビジネスシステムは「iTunes」として知られているものです。
iPhone、iPadもほぼ同じビジネスシステム(Appストア)を構築しています。

当時一番のライバルはウォークマンを要するSONYでした。
SONYも同じくビジネスシステムを構築しようとしていました。何よりSONYは、ソニーミュージックエンタテイメント(元CBSソニー)という世界的なレコード会社を持っています。
しかしこのときは、逆に自社グループにこだわりすぎ、また競合他社となる他のレコード会社との協業に失敗したため、逆にフリーハンドのアップルに負けることになってしまいました。
これはパソコンというハードを持つMacが、ハードを持たないWindowsに負けたのと同じ構図です。

これからのアップルの行方は?

偉大なるスティーブ・ジョブズの後を継いだ、ティム・クックはロジスティックの天才と呼ばれています。
システム思考の観点から見ると、クックはシステムをよりスマートにすることには優れていますが、後期のジョブズのように、新たなシステムを築くことはあまり得意ではない気がします。
クック時代になって生まれたiWatchですが、もちろんビジネス的には成功と言って良い売れ行きだと思いますが、iPodやiPhoneほどの衝撃は与えることはできていません。iWatchはiPhone、iPadと同じビジネスネットワークを活用しています。
いわばSONYと同じ戦略です。確かにまず自社グループのネットワークをシステムとして活用するのは、ビジネスの王道ですが、世間がアップルに期待しているのは、既存のビジネスシステムを破壊するような製品の登場でしょう。
そういう意味では、よく言われるように「アップルは普通の会社になった」といえるかもしれません。
もし、スティーブ・ジョブズが生きていたら、どうなっていたか?

おそらくiTunesやAppストアだけでない、新たなビジネスシステムを構築したのではないでしょうか?
身体に身につけるiWatchだからこそできる生体情報、健康情報と合わせて医療関係と組んだ、健康ネットワークシステムとか、位置情報とあわせた安全ネットワークシステム、あるいは誰も思いつかないようなビジネスネットワークを構築したかもしれません。

空白の10年間に何があったのか、謎が多いですが、システム思考を身につける前後のスティーブ・ジョブズを通じ、21世紀のビジネスシーンで成功するためには、「システム思考」が欠かせないことが、よくわかるかと思います。
私たちはジョブズのようなデザインセンス、新製品を生み出す才能やストイックなまでの製品へのこだわりは真似ができないかもしれません。

しかし「システム思考」は、思考法ですから私たちも後学でも身につけることがでます。
ジョブズの成功から、このように学ぶことができると思います。


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