不言実行と有言実行

不言実行という言葉と有言実行という言葉があります。
ほんとうはどちらが正しいのだろうか?と思ったことはありませんか?
本来は、「不言実行」という言葉しかありませんでした。
「あれこれ言わず黙ってなすべきことを実行すること」という意味です。
昔からある「ことわざ」とか、「格言」というのは、後世に伝える価値があるからその言葉が生き残っているといえます。
つまり「不言実行」は正しい。といえます。

ところが最近は、「有言実行」というほうが、ポピュラーになっている気がします。
そのように言う人から根拠を聞くと、「目標は人に言ったほうが、自分の中で整理される」「目標を人に話す事によって、成功しなければというプレッシャーが与えられる」といいます。

自己啓発セミナーに行ったことがある人や、話を聞いたことがある人はご存知かもしれませんが、(たいてい大声で)自分の目標を述べさせます。
中には、あらん限りの大声で、「私は◯◯を達成しますっ!!」と叫ばせるのもあります。
そうすると、たいてい気分がよくなって、目標を達成した気になるようです。

ところが実はそうしたことが、本当の夢の実現、目標の達成には逆効果であることが、心理学でも実証されています。

ミュージシャン、そして音楽ビジネスで成功した起業家のデレク・シヴァーズがTED(スーパー・プレゼンテーション)で、そのことを述べています。

デレク・シヴァーズ:目標は人には言わずにおこう

目標を人に言ってはいけないというのが、心理学のコンセンサス

「禁煙をする」「ダイエットのため今日から、午後6時以降は、食べ物を口にしない」
という、「禁止事項」を”有言実行”するのは、たしかに効果があるようです。そうしておけば、タバコを吸ったり、夜食を食べれば人から言われてしまうというプレッシャーがかかり、禁煙やダイエットのため効果的でしょう。

ただし、目標や夢に関して言えば、それを人に語ってはいけない。というのが1920年以降、心理学ではコンセンサスが得られています。
目標や夢を人に話すと、その人から「それは素晴らしい」「ぜひ頑張って必ず実現させてください」などと褒めてもらえるでしょう。心が気分良くなって、あたかも夢が実現したかのように錯覚する。そうすると、夢に向かって困難に立ち向かうモチベーションが下がってしまう。
1926年、社会心理学者のクルト・レヴィンは「代償行為」と呼び、1936年ヴェラマーラーは他の人に認められると心は現実のように感じてしまうことを発表しました。
2009年には実際に実験が行われました。
被験者を、一方は目標を人に話す、もう一方は話さないという2つのグループに分けます。
そうすると、その目標に向かって実際に努力したのは、話さなかった方のグループで、人に話すグループは早々とリタイアしてしまったそうです。
しかしながらリタイアした人に話を聞くと「だいぶ夢に近づいた気がする」と答えるそうです。
つまり客観的にはまだ目標は達成できていない、夢はかなっていないのに、代償行為によって心が満足してしまったので、それ以上努力することをやめてしまったのですね。
 
 

成功をイメージすると夢は遠のく

上記のポイントの一つは、心が「目標はすでに達成した」「夢がかなった」と錯覚していい気分になってしまうと、行動をしなくなって、結局夢や目標から遠ざかってしまうということです。

これは19世紀なかばにできたキリスト教異端派「ニューソート」の教義やそこから影響を受けた自己啓発家の「成功を心にイメージして『私は目標を達成した』と実感できれば、それはかなう」という言葉、いわゆる「引き寄せの法則」と反していることがわかります。
例えばニューソート派のデヴァイン・サイエンス教会の牧師ジョセフ・マーフィーは、「眠りながら成功する」シリーズで、「潜在意識に成功のイメージを送り込んで、すでに成功したと実感できれば、その夢はかならずかなう」と述べていますが、実際には「夢がかなった気になって、行動しなくなる」のが実際のところのようです。

シーヴァーも、目標を持つことは大事であると、繰り返し述べてます。
大事なのは「目標を明確で具体的なかたちにすることだ」といいます。

これを「イメージしたら『引き寄せの法則』が自動的に連れていてくれる」と勘違いしてしまうと、効果ないどころか、かえって夢や目標の実現の障害になってしまうのを、忘れてはいけないと思います。

夢の実現に必要なのは、具体的な目標設定と現在地点の把握である

夢をかなえる、目標を実現するためには、「成功している姿をイメージする」だけでは不十分ですし、逆に心が満足してしまって(代償行為)逆効果となってしまう恐れがあります。
いかに満足しないか、ということが、夢や目標の達成には必要なのです。
そのためには、夢や目標といった、ゴール地点を見るだけではなく、現在の位置(例えばゴールまであと何mの距離にいるか)の把握が大事です。

現在の航空機にはレーダーやフライトシミュレーターが搭載してあって、到着地までどのくらいか、予定のコースからどのくらい外れているかをシミュレーションして、それを絶えず修正し続けることで、半ば自動で何千キロも離れた場所に行くことができます。

目標が達成した気になって行動しない、あるいは目標と現在地の座標の把握もない、いきあたりばったりな行動。
これではもちろん目標も夢もかないません。