先日TVを見ていたら、あるアイドルがインタビューに答えていました。

彼女は何度も何度もオーディションに落ちて、それでもあきらめずにオーディションを受け続けた結果、アイドルグループの一員としてデビューすることができました。
彼女は言います。
「このグループに入るために、今までの自分があったのだと思う」
彼女のあきらめない気持ち、目標への一途さ、とても素晴らしいと思います。
私もTVを見ていて、目頭が熱くなる思いでした。

夢を達成するためには、しっかり目標を見据えること、情熱をもち、苦難にあってもあきらめないこと。
とても大事です。

でも、それだけで彼女はオーディションに合格できたといってよいのでしょうか?
このオーディション、数百倍の倍率だったそうですが、残念ながら落ちた女の子は、目標を持つことやあきらめない気持ちが、合格した彼女リ足りなかったらアイドルになれなかったのでしょうか?

「イメージすれば願えばかなう」「引き寄せの法則」の類の本を読むと、上記のアイドルの娘のような事例がたくさん並んでいます。

これらは、心理学的には「認知バイアス(cognitive bias)」「後知恵バイアス(Hindsight bias)」の一種とされています。
人は、この後知恵バイアスにかかりやすい生き物です。メジャーリーガーのイチローは、ある朝カレーを食べたたところ、その日はヒットを連発したそうです。それ以降試合のある日は毎日カレーを食べているそうです。

これをジンクスというのは、おそらく多くの人が知っていますし、私も含め、誰もが持っていたりやったことがあるのではないでしょうか?
靴紐は左足から締める、とか交差点を渡るときは右足から出る。
ビジネスでもプレゼンが上手く行ったときの色のネクタイを「勝負ネクタイ」と名付けて、大事なプレゼンがある日は、必ず同じ色のネクタイを締めるという人もいますね。

それで困る人はだれもいませんし、それでモチベーションがあがるのであれば大変結構なことではありますが、それほど人は「後知恵バイアス」が好きな生き物なのです。
成功すれば、失敗したことや、うまくいかなことも含めて、そういったことすべてが、今の成功に意味があったのだ。と思いますし、ほとんど同じ経験をしていても、結果がうまくいかなくて落ち込むと、今までの人生になんの意味もなかった。などと思ってしまうのが人です。

「願望実現法」「引き寄せの法則」に限ったことではありませんが、多くの自己啓発本では様々な「成功者」が登場し、(その本の趣旨に沿った形で)「◯◯が良かった」と述べています。「成功者」は後知恵バイアスのおかげで、「今までの人生やってきたことにすべて意味があった」と思っているから、どんなテーマでも「成功本」「自己啓発本」は書くことができます。
朝早く起きた人を何人かピックアップして、「成功するするためには朝早く起きることが秘訣だった」という本はすぐ書けるでしょう。

そのときに「朝はやく起きる習慣のひとで失敗した人はいないのだろうか?」「夜型人間で成功者はいないだろうか?」と思わなくていい、いや、思ってはいけないのです。自己啓発本を書くときには。

もう少しとんがりたければ「朝、風呂に入った人が成功する」でもいいのですが、成功者に一番の共通点はなんだろう?と考えれば答えはすぐに見つかります。成功者の多くに共通しているのは、「『成功したい』と願っていた人であった」
「そんなのあたりまえでしょう」「成功を願っていた人の中で失敗した人はいないのか?」と考えていては本は書けません。

無論達成したいと思う心やあきらめない気持ちは、成功するために必要な要因であることを否定するつもりはありません。

しかしながら、この複雑な社会システム(例えば「芸能界という社会システム」「メジャーリーグという社会システム」「ビジネス界という社会システム」)の「成功」要因には様々なファクターや因果関係が働いています。

それを読み解くのが「システム思考」でありますが、そんなことより人は、もっと世の中を単純化したいという願望をもちます。
「〇〇だけやれば、あなたもお金持ちになれる」みたいな。

この単純化の願望と後知恵バイアスが作ったもの。これが「願望実現法」であり「引き寄せの法則」です。

誤解ないようにいうと、「引き寄せの法則」は間違っているとか、そういうことを信じてはいけないとか、言うつもりはありません。
カレー→メジャーリーグに、因果関係がないからと言って、カレーを食べるのをやめたほうがいい、なんて野暮なことは言わないのと同じ。
カレーが好きなら、どんどん食べればいいし、そのおかげで強い体になって野球もうまくなるかもしれません。

「引き寄せの法則」もそれでモチベーションが上がってやる気を持って頑張れば、実際に夢も実現することがないとは言えないからです。

ただ「願望実現法」のトレーニングに時間やお金を使うのは、できればやめたほうが良い。その時間や余裕があるのなら「社会システム」を少しでも理解し、そのことに沿って行動したほうが、夢にはぐっと近づくでしょう。