システム原型とは

社会をシステムと捉えた時、そのシステムが引き起こす問題には様々な形がありますが、その社会システムの挙動には、共通パターンも見られます。これをシステム思考では「システム原型」と呼びます。

新聞やテレビで報じられる事件を見ると、多くの人が同じような事件を起こしたり、事件に巻き込まれたりしていると感じられないでしょうか?
共通パターンを解析すると、社会、つまり私たちを含むこのシステムがこの後どう動くか予想がしやすく、予め問題を回避して目標に近づくことができます。

物語の効用

動物を引き連れて鬼退治に行ったり、雀の舌を切ったりしなくても、おとぎ話から子どもたちはリーダーシップとか、欲張りは結局自分も損をするということなどを学びます。
物語(ストーリー)からは、「典型的な」教訓や示唆を私たちに与えてくれます。

「原型」という言葉は「共通パターン」「繰り返し起こること」「一般的」「典型的なストーリー」などの要素を含む言葉です。システム思考で用いられる原型、システム原型も同様で、個人の心の動きから国際関係までさまざまなレベルや規模において、繰り返し起こる一般的なシステムの構造を意味します。
そして物語からの教えのように、問題を探り、私たちの周りで起こっている出来事を理解するために、システム原型は役立ちます。また問題の奥深さを予測し、組織としての問題その斧を共有し、組織的に問題解決を考える方法を見出す能力を得る事もできます。

社会システムは複雑ですが、よくよく紐解いていけば、多くの場合このシステム原型の組み合わせであることが多いのです。

社会というシステムを理解する為でも、起業家のように新たに自分で構築する為でも、システム原型を知ることは有効なアプローチ手段のひとつです。

システム原型は、現在見つかっている全てを合わせても、10数種類しかありませんし、実際には数種類を理解するだけで、私たちが直面する世の中の課題、問題の多くがカバーできると言われています

私たちが夢をかなえよう、あるいは目的を達成しようとするときに、必ず何らかの問題や課題にぶつかります。そのとき「システム原型」を知っていれば、私たちが取り組んでいる社会システムがどう動くか予想が可能になることでしょう。
つまり予め問題を回避して目的に達することが可能になるのです。

一般的には8種類のシステム原型が知られていますが、私たちはそれをさらに3つのグループに分類できることに気が付きました。

世の中をシステムとしてみると、だいたい人は3つのことで失敗するということです。
その3つとは、
「すぐに思いついた対応策」、
「(うまくいかないときは)もっとアクセルを踏め」
「私だけに利益を」

です。

1.「すぐに思いついた対応策」が失敗のもと

問題が起こる、あるいは何かうまくいかないことがあると、私たちはその原因を探ります。
そして「これがその問題点だ」ということになると、何らかの手当をしたり、原因を排除しようとします。しかし複雑な社会システムでは、「昨日の解決策が今日の問題を生む」ことが往々にしてあります。
例えば、交通渋滞をなくそうと道路を拡張して便利にしたら、余計車が集まってきてますます交通渋滞がひどくなってしまった。精神的に落ち込み、つい酒量が増え、そのときは気分が良くなったが、翌日二日酔いで苦しんだ。予習復習を自分のペースでやっていたら、試験前に徹夜をする羽目になった。
こういったようなことは誰でも経験があるのではないでしょうか。

応急処置の失敗(Fixes That Fail)

応急処置の失敗とは、ある問題に対して応急処置的に解決策を施した結果、一時的に問題の症状は緩和されますが、しばらくすると前よりも悪化するという、意図しない結果となるパターンをいいます。目先の資金繰りのため、借り入れに頼ってあとで利払いが膨らむ。売上をあげるため、セールを繰り返した結果ブランドが既存してしまうといったケースがあげられます。

応急処置の失敗ループ図

問題の転嫁(Shifting the Burden)

問題の転嫁というシステム原型では、まず対処療法を施すことによって、一時的に問題の症状が軽減または消滅するため、より根本的な解決を図ろうとする意欲が低下します。そうした中、その対処療法への依存が、根本的解決策への関心を低下させるという副作用を生みます。
自社の業務をコンサルタント等他の人にやってもらう。しかしなかなか自社にその業務ができる人材が育たない。あるいは疲れた時コーヒーなどのカフェイン飲料に頼りすぎると、疲れが溜まっているのに気付かず身体を壊してしまうなどのケースがあります。

問題の転嫁テープ図

目標のなし崩し(Drifting Goals)

目標のなし崩しとは、時間の経過に伴い、当初の目標レベルが低下していく状態をいう。この状態は、徐々に進展していくため、そのことがもたらす影響に気づかないことが多い。「ゆでガエル現象」ともいわれるものです。
製造ノルマに追われるうち、品質が少しずつ下がっている、などのケースです。

目標のなし崩しループ図

2.「もっとアクセルを踏め」が失敗のもと

目標が達成できない、売上が思うように上がらないは、というとき、私たちは往々にして「努力がたりない」「頑張りが足りない」と考えがちですが、実はシステムの別の部分がブレーキを掛けているのにそれに気づかないことが原因であることが多いです。
アクセルを踏んでいるのに、実はサイドブレーキがかかったままだった、というような状態です。これを続けていると、車は壊れ、事故につながってしまいます。
あるレストランが評判となって、お客がたくさん来るようになった。しかしお客が多くなると、席が足りなくなったり(キャパシティの限界)、一人ひとりへのサービス対応が悪くなり(サービス水準の限界)、悪い評判がたって、来客数も売上も減ってしまったということはよく聞かれます。
こういう時、経営者が売上のことだけ考えて、どんどん予約を詰め込んでいたら(アクセルを踏み込んでいたら)、ますますお店の評判は悪くなり、客足はますます遠のいてしまいます。

成功の限界(Limits to Success)

成功の限界では、当初は努力すればするほど成功がもたらされて、そのことがさらなる努力を促します。しかし時間が経つと、その成功によってシステムが成功の限界に達し、それ以上は良い結果生まれなくなってきます。そしてその成功そのものが成功を妨げようとする動きが引き金となって結果が悪くなりはじめても、当時のやり方を変えずに同じ努力を続けてしまうのです。

成長の限界ループ図

成長と投資不足(Growth and Under investment)

成長と投資不足は、成功の限界のシステム原型の派生型です。生産能力を拡大するための投資が行われないと、能力が限界にきたところで成長が停滞します。この状態になって投資の意思決定を行っても工場等の施設が完成し投資の効果が現れるまで遅れがあるため、需要に応えられません。それによって需要が低下し成長が抑制されます。
施設が完成した頃には、実施の需要が下がっているため、過剰投資となってリストラの対象となります。そうして売上が上がる頃にはまた投資不足が露呈するという事態になります。
景気変動でよくみられますが、個人の業務処理やスキルのキャパシティにも当てはまります。

成長と投資不足ループ図

3.「私だけに利益を」が失敗のもと

米国でトランプ大統領が誕生した背景には「世界のことを考えるより自国優先」いわゆる「米国第一」の拡がりがあると言われています。
「自分の利益」を第一に考えたいと思うのは、人として当然の考え方ですが、実際にそのように行動すると、結局うまくいかない、自分の利益さえも失うこともありえます。
自分の自国の利益を優先して起こした行動が戦争となって、多くの人命や国土を失うのは、その究極形です。

エスカレート(Escalation)

エスカレートは、例えばAという個人や組織が、現在の立場(ポジション)を脅かされることが起きたために、それに対して行動を起こします。すると、Aに対抗しているBは、それに対抗して行動を起こす。という風にお互いの際限のない競争が引き起こされる状態になります。冷戦時代の米ソ軍拡競争や、ライバル会社感の価格競争などがこのケースです。

エスカレートループ図

共有地の悲劇(Tragedy of the Commons)

共有地の悲劇とは、人材・予算・生産設備などの共有資源を利用するときに、周囲への影響を考えずに、それぞれが自分の利益だけを考えて行動すると、共有資源に過大な負荷をかけることになり、結局当事者全員にとっての利益が減少してしまうケースをいいます。
資源問題が典型ですが、経営資源などでも当てはまる問題です。

共有地の悲劇ループ図

成功には成功を(Success to the Successful)

「成功には成功を」とは、複数の個人や、グループ、プロジェクト、企画などが、成功のために限られた資源を求めて競争関係にあるときに、そのうちの一方が他方より成功し始めると、より多くの資源を得るようになり、結果としてその成功が続く可能性が高まる状態をさします。
ある製品がたまたま注目されると、マスコミ等でも取り上げられて、それがまた注目を呼ぶというようなケースです。

強者はますます強くループ図

※システム原型の事例は「システム・シンキングトレーニングブック」(ダニエル・キム/バージニア・アンダーソン著 日本能率協会マネジメントセンター)を参照しました。


6月17日開催

日本テクノセンター主催「研究開発における問題解決のためのシステム思考の基礎とその実践」


 

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