「システム思考」と「デザイン思考」は、実は車の両輪の関係にあります。
そのどちらも課題を解決するための思考法ですが、実は「システム思考」だけあるいは「デザイン思考」だけを駆使してもうまくはいきません。
なぜならこの二つは、車で言えば車輪の両輪にあたる関係なので、どちらが欠けても車は走らない。
逆に、この両輪がうまく連携できれば、目的地にむかって進むための、強力な推進する力となるからです。

なぜシステム思考・デザイン思考が注目されているのか?

システム思考やデザイン思考という言葉は比較的新しい言葉であるといえますが、その概念、考え方は数十年前からあったものです。それがなぜここ数年注目を集めるようになったのでしょうか?

1.社会の複雑化により、ひとつの知識体系だけでは解決できない課題が増えた

2.逆に学問体系は専門化が進んで、細かい「サファリ化(蛸壺化)」が進んで、横の連携がとりづらくなった。

例えば、今問題になっている「地球温暖化問題」。空気中の二酸化炭素の増加が原因であることは、ほとんどの方がご存知の通り。しかしその増加をストップさせる、さらには削減をするには、ひとつの学問体系では答えが出ません。物理や化学、気象学、産業論さまざまな分野の英知の結集が必要でしょう。しかも単にそれらの専門家がそれぞれの専門知識から「解決策」を出し合っても何の解決にもならない。
例えば、ある科学者が「二酸化炭素を減らすために、工場の稼働を減らそう」と言ったら、産業論の専門家からは、「それでは世界的な不況になって不幸な人々がたくさん出る」と反対するでしょう。様々な解決策を単に組み合わせるのではなく、全体を一つのシステムとしてとらえる、そして解決策をデザインする、という思考法が必要になってきたのです。

この全体を一つのシステムとしてとらえ、解決策を見つけ出すのが、システム思考の役割です。そして解決策をデザインするのが、デザイン思考の役割になります。

そして、今文章を2つに切りましたが、「システム思考、デザイン思考二つの手法を覚えて当てはめていけばいいんだな」と考えたあなたは大間違い。(笑)
よく、システムシンキングを左脳、デザインシンキングを右脳に例えることがあります。人間には左脳と右脳があることはよく言われることですが、では両方の脳がそれぞれ独立して機能できるのでしょうか?
もちろん「否」ですね!
左脳には右脳が、右脳には左脳が必要なように、そして車の車輪もどちらかだけでは車輪としての機能が発揮できないように、システム思考にはデザイン思考が、デザイン思考にはシステム思考が必要です。

システム思考とデザイン思考のプロセス

システム・デザイン

この図を見るとわかるようにシステム思考とデザイン思考のプロセスはかなりの部分で、「一致」していることがわかります。

デザイン思考のプロセスは、(顧客への)共感、定義、アイデア開発、プロトタイプ、テストの5つです。
一方、システム思考のプロセスは、要求分析、要求定義、システム設計、製造、インテグレーション、リリース。そして検証と妥当性確認。

デザイン思考でいう「共感」、これがシステム思考では、「要求分析」になります。
要求分析(顧客の本当の課題を分析する)には、顧客への共感が必要です。でも共感しただけでは次のプロセスに進むことはできず、顧客のどの部分に共感したのか、それをどう定義に結び付ければいいのかの「分析」も必要です。
「定義」も具体的にどういう手順を踏むのか、ここではシステム思考の「要求定義」の手順が必要。しかしながら単に機械的にプロセスを踏めばいいのではなく、顧客への共感、そしてそれを解決してあげたいという必要なことは言うまでもありません。

そしてデザイン思考の中核ともなる「アイデア開発」。
顧客の「要求」をきちんと反映させるだけでなく、創発、ほかにない革新的なアイデアが必要です。デザイン思考では「枠外思考」とも呼ばれ、既存の枠組み(バウンダリー)を外すことの重要性が強調されますが、もちろんそれは要求定義に沿ったものでなくてはいけません。(そこが“芸術作品(アート)”と違うところです。)
「プロトタイピング」は「インテグレーション」に相当します。そして「テスト」。これはシステム検証(Verification)と妥当性確認(Validation)です。
デザイン思考で言う「テスト」の目的が「検証」と「妥当性確認」ですが、この2つの区別は「Do the things right」と「Do the right thing」。

つまり、検証は「設計通りに正しくできたか」を問うもので、妥当性確認は「顧客の課題解決に本当に役立つものなのか」を問います。

このように、システム思考とデザイン思考は同じプロセスを違った側面から見ていくものであるということがご理解いただけるかと思います。

このように、システム思考とデザイン思考はまさに車の両輪であり、どちらが機能しなければすべてうまくいかない、という性質を持っているのです。
「デザイン思考」を頭の片隅に置きながら、「システム思考」をする。同じように「システム思考」を見据えながら「デザイン思考」する。

そんな思考法が必要なのです。慶應SDMでは「システム×デザイン思考」と呼んでいます。


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