進化思考とは

進化思考を著したデザイナーの太刀川英輔さんは、デザイン思考について「アイデアを発散的に出すにはよい方法であるが、実はスクリーニング機能が弱いために、最終的に実現可能なアイデアがどれぐらい残るかは疑問である」とハーバード・ビジネス・レビューで述べています。

さらに、「過酷な環境を生き延びてきた生物の世界には、系統(文脈を把握して適切な形態を選ぶ)、共生(生態系を把握し周囲と共生する)、淘汰圧(よいアイデアに絞り切るために捨てる)といったさまざまな知見がある。これらはアイデアを生成し、スクリーニングする思考プロセスに大いに利用できる。」と述べられました。

彼はこの論文を書いた1年後に「進化思考」を刊行。発散プロセスを「変異」、そしてスクリーニング(収束)のプロセスを「適用」のプロセスとし、13(変異の手法9+適応の手法4)の手法に整理しました。

(進化思考の各手法については、「VSRSメカニズム、進化思考とDX(デジタル・トランスフォーメーション)」の記事をご参照ください)

この本の面白いところは、デザイン思考の伝統手法である「発散と収束」を生命進化の「変異と適応」に援用している点であると思います。
特に「適応」を時空間マップ(解剖、系統、生態、予測)にまとめ、時間と空間の2軸でまとめようと試みたところが特徴と言えます。

『進化思考』の時空観マップ

 

3つの思考法(アート思考/デザイン思考/システム思考)と進化思考の変異の思考

私たちが現在日本能率協会で行っているセミナー「DXのための3つの思考法入門セミナー」の内容ととても似ている部分が多いなと思いました。

もちろん、発想法やデザイン思考の基本である「発散↔収束」という基本は一緒なわけですし、あと太刀川さんは慶應義塾大学院SDM研究科で先輩にあたり、デザインについての話を伺ったことも多いので、私自身影響を受けていることもあると思います。

まず「発散」あるいは「変異」についてですが、最近日本デザイン学会での、この「進化思考」を巡る論争の中で「ラマルク的」「ダーウィン的」という表現がありました。

ラマルク(ジャン=バティスト・ラマルク)は、1809年に進化理論の用不用説を唱えました。「生物が特定の器官を多く使えばそれは発達し、使わなければ萎縮する。」という進化説です。一方のダーウィンは、自然選択説で、突然変異によって生まれた種の中で、環境に適応できたものが生き残るという進化説を唱えました。

VUCA時代のビジネスは進化論に学べ」で述べた例で言えば、キリンが高いところの葉を食べるため、首を伸ばし続けているうちに、だんだん首が長くなったというのがラマルク説、突然変異で首の長いキリンが生まれ、それが当時のサバンナの環境に適応して、首の長いキリンだけが生き残ったというのがダーウィン説ですね。
もちろん現代では後者のほうが正しい説とされています。

両者の違いは、目的の有無と言い換えることもできます。

高いところの餌を取ろうと努力をして、筋肉が強化されるなど、一定の範囲内で肉体の変化は起こりますが、遺伝子変化を伴った根本から身体のつくりが変わってしまう変化は、偶然の変化(つまりエラー)によってでしか起こらないのです。

この変異の考え方をデザイン思考、アート思考の「発散手法」と比較してみましょう。

デザイン思考ではブレインストーミング手法などでいろいろなアイデアを出していきます。デザイン思考は「顧客視点」つまり顧客のためという目的志向ですから、「ラマルク的」ともいえます。改善や改良に向いた発散手法ですね。

一方のアート思考は、自分視点であり、自分がどうありたいか、自分が何を表現したいかを考えます。これは必ずしも社会の方向性を意識しているわけではないので、目的のない「ダーウィン的」に進化する、つまりブレークスルーが起きる可能性があるのです。

もちろんアート思考だから、自分視点だから常にダーウィン的な進化ができる、ブレークスルー的なイノベーションができるわけではありません。
自分の欲求(特に低いレベルの欲求)に囚われたり、固執しているうちは、変異もブレークスルーも起こせません。(しかも顧客視点でもなく、自分勝手なものなので社会への価値も産み出すこともできません。)

そのため、アート思考では、高い視座を持つため、抽象度を上下ができる、メタ思考ができる訓練が必要です。
(私たちの「アート思考ワークショップ」でも対話型鑑賞法などを通じたワークでこのような訓練を行います。)

適応のための時空間観察とデザイン思考、システム思考

進化思考では、上述のように、時空間マップ(解剖、系統、生態、予測)で適応の手法を説明しています。

これは、私たちの3つの思考法フレームワークで言うと、デザイン思考とシステム思考に当てはめることできます。
進化思考でいう空間の視点ですが、これは解剖と生態、これはデザインやビジネスモデルなどの内部構造と、顧客など外部ステークホルダーとの関係性を可視化することです。

また時間の視点である系統や予測は、因果(すなわち時間の流れ)ループや、シーケンス図などへの落とし込み、即ちシステム思考やシステムズエンジニアリング(SE)でいう「ライフサイクル」への適用と同じと考えることができます。

言葉ではイメージしづらいと思いますが、下図のような三次元のモデルに当てはめてみると理解しやすいかもしれません。

3つの思考法(アート思考/デザイン思考/システム思考)3次元モデル

 
 
アート思考により高い抽象度(視座)から、全体を見渡し、遠くを観る。これが変異やブレークスルーに繋がり、直地点の場所を空間、時間の観点(デザイン思考、システム思考)で適応を探る。もちろん一度だけではそこが最適かどうかわかりませんので、何度も繰り返すことで、自然選択のように、良い場所(適応できる場所)を選択する。

このようにブレークスルーやイノベーションを実現できると考えることができます。

簡単に言えば、「遠くに行きたければ高く飛べ。良い場所を見つけたければ何度も飛べ」ということでしょうか。
 
 


日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催