文部科学省高等教育局が主催する「Scheem-D」の「生成AI×教育」事業に、弊社が提案する「生成AIを活用した対話型絵画法」が採択されました。


  

Scheem-Dとは

   
Scheem-D(スキーム・ディー)は、「Student centered higher education ecosystem through Digitalization」の略で、「大学教育のデジタライゼーション・ イニシアティブ」を推進するための機構です。

Webページに書かれた当機構の趣意によれば、「大学(短期大学、高等専門学校を含む。)の教育、特に授業に焦点をあて、デジタル技術を上手に活用した特色ある優れた教育取組のアイデアを、大学教員やデジタル技術者(スタートアップや大企業)が協働して、教育現場で実践、試行錯誤、普及・実装していく取組」とのことです。

学修者本位の大学教育を実現するため、サイバーとフィジカルを効果的に組み合わせて授業の価値を最大化する、「大学教育のデジタライゼーション」を目指すのが、そのミッションになります。

私たちがこの取り組みに応募するきっかけは、昨年秋に横浜みなとみらいで開催された、2040年の社会を考える横浜市と慶應義塾大学(そして三菱地所)のイベント「2040クエスト」に、日本STEM学会STEAM教育研究会SIG、そして慶應義塾大学大学院の教育システム・デザインラボの合同で出展したことです。

2040クエストでピッチをする筆者

  

この出展にあたってのコンテンツでも活用した「生成AIを活用した対話型絵画法」を、この「2040クエスト」の事務局をされていた「CIC Tokyo」(ケンブリッジ・イノベーション・センター))を通じて、このScheem-Dに応募させていただき、その採択をご連絡を昨年12月に頂いたというのが経緯です。
 
 

生成AIを活用した「対話型絵画法」

今回採択された「生成AIを活用した対話型絵画法」は、その方法論や手法については。以前の記事「対話型絵画法 – 生成AI活用のアート思考メソッド」に詳細に書きましたので、ご覧いただければと思います。
当記事では、2月9日の「Scheem-D Pitch and Conference 2023 〜生成AIと教育〜」の場で発表した内容を紹介しつつ、なぜこの手法を拡めたいと考えたかについて記したいと思います。

ここ数年、ビジネスの世界で「アート」に注目が集まっているのはご存じの方も多いと思います。またSTEAM教育(教科横断型教育)でもアート(Art/Arts)は、下図のように「要のポジション」にあります。


    

しかし残念ながらというべきか、大人になっても絵を描いたりアートに触れる人はあまり多くありません。
     
今回の発表の際に、観客の方に「絵を描くのが得意な人、好きな人」を聞いたのですが、一人の手も上がりませんでした。

13歳からのアート思考(末永幸歩著:ダイヤモンド社)によれば、小学校から中学校に上がって「美術」になるのを境に、実に7割以上の子が「好きな科目」ではなくなるそうです。

引用:引用:「13歳からのアート思考」末永幸歩(ダイヤモンド社)

   
    
中には、「受験のじゃまになる。人生に役立たない」という理由で、絵を描いたり、アートに触れることから離れてしまう子もいるかもしれません。なんかもったいない話ですよね。(かく言う私もその一人ですが(笑))

2022年の夏に登場したStable DiffusionやMidjourneyは、そんな美術嫌いになった人に使ってほしいツール。
絵が苦手な私でも、例えば下図のような絵が簡単に描けるようになります。


   
   
生成AIの活用で、絵画等のアート制作に対しての、心のハードルを取り払うことができますし、絵画技法の知識の有無に囚われず、絵が得意な人も不得意な人もアートやアート思考の様々な効果を得られるようになります。

そして「言葉」(プロンプト)を画像に変換するこれらの画像生成AIを、想いや考えを可視化する方法論としての活用を提案したのが、今回の内容です。

例えば、コラボティブ・アートやアート・イン・レジデンスが意図しているように、同じチームや組織のメンバーの「目標ややりたいこと」「想い」の共有のために活用する。

ビジネスでいうと、新商品開発のプロトタイピング、組織のミッションの可視化などに応用が可能ですね。
生成された画像を見ながら、アイデア出しやディスカッションを行うとより高い効果が見込めると思います。

また、教育分野でも、学生たちが思い描く未来の共有などに活用できると思います。

今までの教育というのは、早い話が、先生の言うことや教科書の内容を「どれだけ暗記できるか」が評価基準でした。

これは上司の言うことや、業務マニュアルに書いてあることを「どれだけ『そのとおりに(あるいはそれ以上に)』遂行するか」が企業人としての能力とされていたことにも対応したのかと思います。(「それ以上」というのも、10個のノルマに対し15個売る(作る)というような、あくまで「量」のことです)

しかし現在のようなVUCAの時代、ビジネスパースンに求められるのは、社会の流れを観る観察力や課題発見力だったり、未来への想像力、まわりねの共感力や発信力、そして課題解決のため新たな発想ができる能力ではないでしょうか?

これらは、AIや検索エンジンで代替できる「暗記力」ではない、理数系も含めた様々な教科にも必要な能力だと思います。


   
    
現在様々なところで「生成AIのビジネス活用」が唄われています。しかしそのほとんどが「業務効率化」。もう20年以上「IT活用」でさんざん「業務効率化」「経費節減(・・要はリストラ)」が喧伝され、その間に多くの国に追い抜かされ、世界の中等国(例えば一人あたりGDPで先進国最下位など)に陥りました。

個人的な想いとしては、生成AIを日本全体の課題でもあるイノベーション、創造性に活用してほしい。
ChatGPTを含めた生成AIは、(よく誤解されているように)インプットデータ(学習データ)をそのままアウトプットしているのではなく、いったんバラバラにした後、フィードバックを繰り返して、逆拡散(再結合)してアウトプットしている。
これが拡散モデル(Diffusion Model)の簡単な仕組みですが、シュンペーターのいう「イノベーション(新結合)」の原理と、かなり共通していると思うのです。

生成AIの今のブームが、日本の復活に繋がる想いを込めて、この手法の活用方法を模索し続けていきたいと考えています。


日本能率協会主催「生成AI時代のアート思考入門セミナー」