AIが職を奪う時代

AIが普及すると、人間の職が奪われると言われて久しいです。
オックスフォード大学のフレイ&オズボーンが2013年に発表した研究レポートでは、9割の仕事が、AIによって奪われるとして、世界に衝撃を与えました。
2015年には野村総研が2030年までに49%の仕事がなくなると発表しました。

これに対して、いや、AIが普及しても、人手の必要性は変わらないという意見もあります。あるサイトにあった記事では、例えばケーキ屋さんのサービスをAIや機械がすべてすることはもちろん可能な世界になるだろう。しかし、AIや機械ばかりのお店に行きたいか? やはり人間の接客は必要だろうというわけです。またちょっとした単純労働でもAIや機械が代替できるが、そういったAIを導入する費用や手間を考えれば、そう簡単に普及はしないだろう。とありました。

たしかに上記のことは正しいのですが、この記事を書いた人は、AIの普及と、今までの機械化の流れを同一に見すぎているきらいがあります。
たしかに産業革命以来、機械化が進み、労働者の職は奪われてきました。古くはラッダイト運動(19世紀初頭のイギリスで、職を奪われることを恐れた労働者による、機械破壊運動)があったり、20世紀になってからも、新聞の植字工がコンピュータ制御に反対してストライキを打ったけれども全員解雇されてしまったといった出来事がありました。(そして新聞は問題なく発行された。)

専門家はいらなくなる?

これまでは、機械に置き換えられる仕事はいずれなくなる、と言われ、そのために人は専門性を身に着けるべきと教えられてきました。
だから親は無理してでも子供を大学、できればレベルの高い一流大学に送り込もうと、頑張ってきたわけです。それが子供の幸せにつながると信じて。

こうして身に着けた「知識」、そして「経験」が「専門性」の要素です。今までならこのような専門性を身に着けている人が「人生の勝ち組」でした。知識や経験の内容は変われど、少なくとも中世ヨーロッパの時代以降(中国で言えば科挙以降)、数百年そういう時代が続いたのです。

しかし、AIの登場は、今までと違い、「専門家」がAIに置き換えられる時代です。
現場のブルーカラーではなく、ホワイトカラーがいらなくなる時代。
その筆頭が、エリート中のエリートと言われている「弁護士」かもしれません
少し前まで、新米弁護士は、弁護士事務所やローファームに「見習い」として入所し、大手だったら年収700万円からというのが相場だったのに、今では司法修習を終えても、雇ってもらうところがなく、事務所も持てない弁護士が増加していると言います。年収はせいぜい2~300万円。あるいは100万円以下という弁護士もいるとのこと。

これから社会の複雑度が上がって法律のプロ(専門家)がもっと必要になるというフレコミの元、司法試験改革で弁護士を増やす政策を実行しましたが、ちょうど2004年ごろに設立された法科大学院で勉強した弁護士の卵たちが社会に出るころに、ビックデータ、AIの波が来て、専門家の需要が減ってくるというまさに裏目に出た政策でした。

AIが絶対に侵食できない領域とは

オズボーン教授は、ロボットやコンピュータは芸術などのクリエイティブな作業には向いていないと述べています。であれば、人間は機械にできる仕事は機械に任せて、より高次元でクリエイティブなことに集中できる。人間がそうして新しいスキルや知性を磨くようになれば、これまで以上に輝かしい『クリエイティブ・エコノミー』の時代を切り開いていけると言います。

たしかに芸術分野は、AIやロボットが入ってこれない分野です。
AIは、誰かが創ったデザインをまねることはできますが、AI自身がピカソになったり、村上春樹になったり、ポール・マッカトニーになることはできません。
とはいえ、私たちも彼らのような世界的なアーティストになることはできないでしょう。

しかし、私たちそれぞれの仕事をAIやロボットができないクリエイティブなものにすることはできます。それが「アート思考」です。

AIが決して侵食できないアート思考とは何か

アート思考とは、アーティストがアートを生みだすときに使っているその思考プロセスを活用して、 豊かな生き方やビジネスを創造する思考法を言います。
そのアーティストの思考プロセスとはなにかというと、アーティストが作品を生みだすときに大切にしているのが、自分の感情です。つまりアート思考のプロセスとは、心の底にある気持ちをカタチにし、人と共鳴することで、新しいモノを生みだすことを言います。

これは、考え方としては決して難しくはないでしょう。
ビジネスも心の底にある気持ちをかたちにして、人と共鳴することで、新しいモノを生み出すものです。
いわゆるイノベーションとはそういうことですよね?
AIも得意な、どこかのビジネスのまねではなく、人間にしかできないオリジナリティのあるビジネスモデルを生み出す思考法がアート思考です。

アート思考を身に着けるということが、AIに負けない、AIを活用できる唯一の方法と言えるかもしれません。

日本能率協会主催「生成AI時代のアート思考入門セミナー」