アート思考をビジネスに応用するには

日本創造学会で「イノベーションのための対話型鑑賞法(VTS for Innovation)」の研究発表』で書いたように、11月13日、慶應義塾大学で開催された「日本創造学会研究大会」で、弊社が開発した「イノベーションのための対話鑑賞法(VTS for Innovation:VTSI)」について研究発表をおこないました。

その際にも発表したことですが、企業研修やビジネスパースン向けセミナーでは、この対話型鑑賞法(VTSI)をどのようにビジネスシーン、例えばパーパス経営(企業理念の浸透)や新製品開発(イノベーション)に繋げていくか、応用するかということについて、ここでは記したいと思います。

「アート思考」という言葉は、ビジネスの世界で浸透してきましたが、「課題解決手法」でもあるデザイン思考のように企業の研修現場に広がっていないのが現状だと思います。

職業柄、研修担当者と話す機会は多いのですが、現場レベルではアート思考や美術鑑賞なども取り入れて研修メニューを組みたいと思う人は少なくないと言われます。
彼/彼女らは日々様々な研修やワークショップなどの手法や方法論をチェックしたり研究したりしていますので、新しい手法やいつもと違う方法への関心がとても高いです。

しかし、そんな担当者が稟議をあげる際には、「アート思考がどうして社員研修の役に立つのか」「なぜ美術鑑賞をするとビジネスの能力があがると言えるのか」について上司を「説得」できなければなりません。
「アートに触れることで『感性』が鍛えられる」と言っても、「感性とはなにか」のような神学論争にハマったり「アートが感性を鍛えるエビデンスがあるのか」というツッコミが入ったりして却下され、新たなチャレンジができないということはよく聞きます。

結局毎年無難な研修メニューが繰り返され、VUCAの時代、変化の激しい時代と言われるになっても社員の意識や能力は以前と変わらない、むしろ変わらないことが良いという会社は今なお多いのではないかと感じます。

ただこれは、企業側の責任というよりも、説得力のある論理を展開してこなかった「アート思考」側にも、その一旦があると思います。

弊社もアート思考や対話型鑑賞法のメカニズムや効果について、論文で発表したり、研修メニューを研修会社やシステム会社の協力も頂きながら整えてきました。

ここでは日本創造学会研究大会で発表した研究内容などを踏まえ、効果の論理や対話型鑑賞の研修からどのようにパーパス経営やイノベーション(例えば新製品の開発)につなげていくのか述べてみたいと思います。

イノベーションのための対話鑑賞法(VTS for Innovation : VTSI)

弊社で開発したイノベーションのための対話鑑賞法については、こちらの記事で詳しく解説をしています。
ホワイトボード(もしくは模造紙)と付箋を使って、グループで鑑賞しながら、「どのように(How)描かれているのか」、「どのように(What)感じたか」、「なぜ(Why)その絵が描かれたか、意味するものはなにか」についてディスカッションしながらそのつながりを考えていく形でワークを進めていきます。

VTSIの例

 
 
このやり方がなぜ「イノベーション」などビジネスの能力を高めることができるのかについては「対話型鑑賞(VTS)で、ビジネスに必要な力がつく理由」で記したように、帰納法(インダクション)や演繹法(デダクション)など論理的思考(ロジカル・シンキング)や批判的思考(クリティカル・シンキング)を行う内容になっていること、そして意味を問う「発想法(アブダクション)」により、新たな発想やイノベーションに繋げるワークとなっていることがあげられます。

さらにこの「意味(Why)」を「パーパス」と捉えることにより、企業や現在おこなっているビジネスの存在理由を考えるワークに繋げることができます。

下図は実際にある企業の研修に使用したものの一部ですが、対話型鑑賞を行ったあと、絵の代わりに「企業理念のポスター」を皆で眺めながらワークを行います。


 
 
この場合、最上部に「企業理念」を置き、最下部のHow欄に「自分の業務内容」を置く。そしてグループで「その業務はどのような機能なのか」「どんな意味があるのか」を考えるとともに、他の人の業務内容のつながりを結んでいく。

このワークを行うことにより、自分たちの仕事がどのように「パーパス」と結びついているのか、あるいは他の部署の業務とどのような「横のつながり」があるのか、(あるいは無いのか、)俯瞰して見ることができるようになります。

また、これからの仕事に対しても、パーパスや理念を踏まえてやり方や内容を考えるということも期待できます。

対話型鑑賞と新製品開発

上述したように、美術作品を対象に対話型鑑賞を行ったあと、同じやり方でほかのものを対象として行うことができます。
下図は、自社製品など「もの」を対象にして行った例です。(サービスに対しても同じようにできます)


 
 
自社製品(もしくはサービス)がどのように創られているのか、あるいはその製品やサービスにどのような「意味」が込められているのかを考えることで、よりよいカイゼンや本質を踏まえた製品開発ができるようになります。

また上手の赤の付箋のように、「代替案」を考えることで、新しい製品開発のヒントとすることができるでしょう。

対話型鑑賞は、上述のように下(How)から考えていくのが基本ですが、新製品や新サービスなどの場合、上からやっていくという方法もあります。

これはいわば上述の「パーパス経営」「イノベーション」を両方同時に実現するやり方です。
バルミューダのイノベーション経営の方法論とは」にも記したバルミューダの製品開発などはまさにそのやり方で行っています。


  

自社のパーパスを実現するためには、どのような製品をつくるべきか、そのためにはどのような機能が必要で、さらにはどんな技術がいるのか、と下図の上から考えることで、いわゆるパーパスドリブンな製品開発を行うことが可能になります。

これはいわばアート思考とデザイン思考、さらにはシステム思考を融合するやり方でもあります。ご興味ある方は、「DXのための3つの思考法」などワークショップをおこなっていますので、一度受講いただると感じがつかめるかと思います。


日本能率協会主催「アート思考入門セミナー」